五百七十ニ生目 力差
美術展の火事騒動のあとに避難してきた相手を狙い撃ちにした殺戮。
私は気配を消して瀕死者や死者らを高速回収。
聖魔法"リターンライフ"を唱え終わり次第かけていく。
多節棍を必殺の大上段で繰り出した犯人。
対峙するジェントルマンは静かに支え杖を構え……
予測困難だったはずの多節棍を光を纏った一撃で切り払った。
必殺の一撃は痛恨のミスとなり頭ではなく空を叩く。
だがまるで体勢が崩れない。
さっきまでの軽口と狂った雰囲気がウソのようでしっかりと基礎が出来ている。
「シッ」
しかし静の動きを乱していないジェントルマンが優位。
息と共に先程持ち上げた杖をそのまま回しつつ半身ずらし踏み込む。
犯人の手に見事杖が叩きこまれた。
「ガッ!?」
それでも多節棍を手放さない犯人も犯人だがジェントルマンも止まらない。
杖をたくみに回転させながら腕関節へ一撃。
そのまま体ごと抜けるように肩。そして背。
犯人は叩かれた衝撃で多節棍を落としそうになりつつもさらに倒れ込みそうになりつつも最後は足で踏ん張った。
うーむスゴイ安定感。
一撃必殺の威力はないとは言え普通効いているのならもう制圧されていてもおかしくない。
「耐えますか」
「ムカつくぜぇ!!」
互いに向き合った次の選択は両者半歩下がることだった。
間合い的にジェントルマンが不利に見えるが先程からの技術的にこの程度は平気で覆しそうだ。
それを犯人もわかっているらしく口調と違って冷静に違う構えをしてカニ歩きしだした。
ジェントルマンを中心とした横歩きということだ。
私は彼らの視界に入らないように気をつけて……と。
「ハッ」「ダッ!」
ジェントルマンと犯人が同時に動いた!
互いの武器に光を纏わせたあと距離があいているのを気にせず振るう。
多節棍はなぎ払い杖は突くと衝撃波が起き相手に飛びかかる!
互いの技の範囲が違い中間ですれ違う。
犯人は転がりジェントルマンは横跳び。
互いの攻撃をかするように回避。
そこからの展開は先程までとは打って変わって怒涛だった。
多節棍が乱撃! 杖が的確に落とす!
犯人は2秒と同じ位置におらずすぐに距離を変化させる変幻自在。
対するジェントルマンは不動。
姿勢を変え体重変動させ立ち回っているが1つのエリアから動かない。
この二人の連続攻防はいろいろと見てはとれる。
攻めの大きい犯人は杖に払われつつも相手を危険な立ち位置に追い込んでいる。
アレだけぶたれたら杖の耐久性の他にジェントルマンの身体への負担が大きい。
盾じゃあるまいし叩かれた威力はどうしても身体にいってしまう。
だが攻めが大きいということはそれだけ疲労する。
汗が流れ体内の熱を高速で逃し酸素を大量消費して乱撃攻めが成り立つ。
立ち位置を常に大きく駆け回って変えているのだからなおさらだ。
そしてジェントルマン側は確かに防げているものの攻め手にかけてしまっているのも事実。
常に危険に晒される状態というのは想像以上に集中力を摩耗し疲労を呼び起こす。
疲労とは脳の疲れとも言われるし見た以上に疲れているかも。
汗1つ流さずさばき切る姿は実にかっこいいものだが……崩れればあっという間に決まる。
……お。ハックが魔法を使ってジェントルマンの身体が光をまとった。
「うん!?」
「ふふ、紳士としてこれ以上苦戦は見せられないね」
多節棍が伸び横から曲がって後頭部を襲う!
ジェントルマンは息を払って……的確に差し込み止める。
ここまではいつもどおり。
だが次の時には犯人の腹を蹴っていた!
「グッ!?」
「ふぅ……どうして魔王などを復活させたいのですか?」
今のはしっかりあたった!
反射的な受け身によって相手に後退され立ったままだとしても大きい。
犯人は思わず腹を抑えている
「あぁ!? そんなの……力で全てが決まる世界になるからに、決まってんだろうがあぁ!!」
「そうですか……」
実に残念な答えを聞いた。
そう言いたげな顔でジェントルマンは再度構え……
初めて自身から駆ける!
その事に驚いたのは犯人も同じだった。
先程の腹のダメージによって迷いが生じ……初動が遅れる。
杖が脇腹……そして顎を強烈に殴り込んだ!
「では、私の美術に対する想いの力を知りなさい」
止めにみぞおちへと杖の先端をねじ込む。
犯人はだ液を口から飛ばしそのまま倒れこんだ!
「やれやれ、何とか終わりました」
「おじさん!」
ハックが終わったことを悟りジェントルマンに近づく。
ジェントルマンはいい笑顔で返した。
「先程は助かりました」
「あれぐらいしか出来なくて……」
これで何とか解決かな……?
こちらも死者の回復をなんとか出来た。