五百六十八生目 美術
こんばんは。私です。
今日はハックに誘われ彼の家へとやってきた。
いつも火を囲み火を説き火と向き合って像を作り続けているイメージだったから弟ながら失礼だがしっかりと家を持っているのにまず驚いた。
そして家の外観は……
「……普通だ!」
「お姉ちゃん何想像してたの?」
「いやあ、ハックの家だから、なんか不可思議な感じかなーって」
「住むところだもん、そりゃあ普通だよ」
ですよね。
当たり障りのない外観に逆に驚かされながら中へ。
だがここではさすがに想像を裏切らなかった。
「おじゃましまー……うわっ! 高そう!」
「第一声そっちなの!?」
ケラケラとハックが楽しげに笑う。
私はこの常に楽しそうな弟の様子がいつも好きだ。
肝心の部屋の中だが第一印象は値段が高そうとなるのは仕方ないと思う。
外の無難な感じと違って入り口にまずたっかそうな大きなツボが置いてあったらそりゃそう言わざるを得ない。
私達より大きなツボを横目にこれまた明らかに只者じゃない雰囲気の足拭き。
前世でも特定地域でのみ作られるマットレスは目玉が飛び出るほど高かったけれど……
「お姉ちゃん、お姉ちゃんが思っているほど高くないよ? そんなに僕お金持ちじゃないし」
「そ、そういうものかな……」
ドキドキしながらやたらと触りごこちのいい足拭きで軽く拭ってから中へ。
通された部屋にあるのは……たくさんの芸術品。
棚がズラーッとありその上にズラーッと几帳面に小型の芸術品たちがあった。
ハックの言う通りあんまり高いのには手を出せないのかみな小型で統一されている。
私が頼まれて買ってきたものや商人に頼んでもらってきたものが集まっていた。
「どうお? 僕のコレクション!」
「すごい……もとはどれもこれも骨董品屋で古ぼけていたとは思えない。まったく価値はわからないけれど、なんだかすごそう……」
「本当は僕が直接見て触って確かめたほうが良いんだけれどね。僕、お姉ちゃんと違って擬態が得意じゃないから……」
ハックは"進化"できないので仕方ない。
そのかわり"以心伝心"で私などを通して古物店を見て触っている。
本も多少持っていてそういうところで審美眼を養うらしい。
そしてこの美術品たちは大半がどこかの店で古ぼけて眠っていたもの。
おそらくは完璧な修復を行って改めて価値を引き出しているのだ。
ハックおそるべし。
中の落ち着ける場所に腰をおろしてよくよく周りを見渡す。
「それにしても……本当に自分の作品は飾ってないね」
「まあ自分のばかり飾っていても、ああすりゃよかったなとか、こうしたほうがとかずっと思っちゃうだけだしね。それよりも、こうして新しいものを取り入れてアタマを働かせなきゃね!」
「なるほど……そういうものなのかな」
美術家のインプットとアウトプットというやつだろうか。
私の想像範囲でしか無いけれど。
「ところで……わざわざ来てもらったのは他でもない大事な話で。その……新しいものを取り入れたいんだ」
「そうきたか」
ハックがさっと取り出した資料に載ったもの。
たしか商いの街でハックが興味あるかもと受け取ったチラシだ。
チラシの内容は美術展だった……
こんにちは。商いの街にいます。
私はホリハリーの姿ながら"変装"して形づくっている。
ネオハリーは見てのとおりな異形だからダメ。
ホリハリーそのものになっても良かったのだが……
「お、お姉ちゃん、大丈夫かな……?」
「今の所」
実は今回いつものホリハリーとは色や服それに雰囲気もややアレンジしている。
華やかなオレンジカラーな毛皮で本来の私とはかけ離れていた。
何せもしものとき普段の私と結びつくのはマズイので。
さらに私の真後ろには全身をフードで覆い隠した怪しい背の低い子ども。
……ではなくハック。
ハックが"変装"ニガテなのは私から"率いる者"で借りているからなのもあるが元々の習熟度の低さもある。
そこで私が"指導者"を使って美術展開催時に間に合うように訓練を実行した!
どうしても生の目で一度見ておきたかったのだとか。
まあ誰かの視点を通すとどうしても少し違うからね。
その結果フードの下のハックは見てくれはなんとかなるようになったしまだ拙いがゆっくりなら2足で歩ける。
ただ興奮や緊張が大敵で集中切れはイコールでもとの形に戻るハメに。
定期的に休むために個室が確保出来るトイレ位置は事前把握済み。
いざ受付に大人と子どもひとりずつ分購入だ。
「大人ひとり子どもひとりお願いします」
「お、おねがいします」
「はい。料金たしかに。どうぞー」
忙しそうにさっくりと流されるように通された。
よしよし。順調だぞ。
もちろん問題はここからだ。