五百六十七生目 回想
怨霊は修羅場を乗り越え本来の姿を取り戻した。
それはなにか特定とは言えない抽象的な鳥の姿。
黒い霧が固まってできたような鳥の姿はどことなく不気味だが私を見るたびに怯えるのやめてほしい。
そしてアヅキの言うことを比較的聞くようになった怨霊はアヅキにより鍛えられていった。
またアヅキもハゲてしまった身体が呪いを跳ね返すためにも鍛錬を積極的にこなすように。
私とユウレンはひたすら解呪の方法を探り……
また時間が飛ぶ。
ずっとアタマの片隅で気にしていることはある。
暗殺者は逃れたことでまだアノニマルースを狙うだろう。
ただアノニマルースの戦力も同時に知ったはずだ。
なのでしばらくは安泰と思ったそのとおりアノニマルース内は比較的平和だった。
まあ私は大陸の方で暗殺者たちを蹴散らしていたんだけれどそれは別の話。
そして……
すっかりおなじみとなった鳥怨霊とアヅキのコンビが鍛えているところに私も合流。
こっちに気付いてアヅキが話しかけてくる。
「おはようございます主」
「チチッ」
「おはようー」
「ところで……1から鍛え直したことで、私、トランスできそうです」
「うんう……ううん!?」
アヅキがトランス!?
確かに"率いる者"と"指導者"のスキルにより効率的に経験を得られるだろうけれど。
もうそこまで強くなっていたのか。
「調理も良かったのですが、ここ最近なまっていた分本格的に鍛え直したら、ずいぶんと伸びましてな」
「なるほど……もしかしたらトランスすれば、呪いが解けるかも」
「そうなんですね! これはちょうど良かった。ぜひやります!」
そういえばアヅキ忘れがちだけど天性の才で群れを率い森の中でもバランスブレイカーなほど強くなっていたんだった。
さらにそこに多くのものが加われば2回目のトランスもあっさりこなしてしまうか。
私と怨霊から少し距離を取り身体が輝く。
光に包まれたのちにでてきたのは……
ひと回り大きくなりヒシヒシと強さを中身の強さを感じる姿だった。
山伏の服が彼に一体化して羽根のようになり着ている。
これは私の服一体化とは少し違う。
自身に本当の意味で一部にしてしまったらしい。
翼も山伏の服が交じるようにあるが全て羽根で一体化している。
そして……
「ハゲが治ってる!」
「おお! ついに呪いが克服された!」
アヅキの毛根を死滅させる呪いが消えところどころ不格好に剥げてしまっていた部分が復活した。
これで服でごまかさなくてもよさそうだ。
まあその服が一体化してしまったのだが。
「それと……その背中のは、何?」
「あれ? 本当ですね。これは……」
当然のようにそこにあった錫杖。
つまりチリンチリンと鳴るまさに烏天狗が持つような杖。
アヅキが背中から外すように手にとったので"鷹目"で背中を見てみたら何も無い。
あれ……装着するためのなにかがあるわけじゃないのか。
「これは……なるほど。手にとったら少し理解しました」
「どうだった?」
「この錫杖、私のエネルギーのようです。そして扱い方は……このように!」
地面をまっすぐ杖で叩くとチリンチリンと杖の頭が鳴る。
"魔感"で感知できる違和感。
鳥怨霊の目の前から急に烏の大きな脚が飛び出した!
「ピィィ!?」
「とまあこのように任意の場所から攻撃可能です。もっと弱くすれば遠くの物をとるのにも便利かもしれません。そして応用が……」
鳥怨霊が悲鳴を上げているのはまったく気にせず解説。
使い方が遠くの物を取る時というのもなんだか怠け者っぽいけれど……
そんなこと思っていた今度はアヅキは杖を勢いよく振るう。
一瞬目を疑った。
アヅキの杖リーチが変化したのだ。
しかしそれは見間違いではなかったのが止まったところで分かる。
杖先が変化しアヅキのような足が生えていた。
ここにもできるのか!
「こうやって、少し届かない高さの物も迅速に取れます」
「それは……まあ便利そう」
リーチのごまかしに不意の一撃とどれも強そうなのに説明が弱そう。
まあアヅキにとって大事なのは……
「これでより調理をスムーズに、コレまで以上に活躍できますとも!」
「……だよね。うん。お願い」
「ええ!」
自分の担当に関することだろうからね。
こうしてアヅキのハゲ事件は終息を迎えおまけに無事トランスできた。
そうしてこのあと私は蒼竜と出会うわけだが……
意識が今に戻る。
並列思考でやっていた荒野の迷宮管理部屋カスタムもこれで完了だ。
長年放置されていた環境も少しずつもとに戻るようにシステムを組み直した。
ここから外へも出られるらしい。
操作して歩いて出ると先ほど来た洞窟内とは別の場所に案内される。
ここは……初めてポロニアと会った浅い洞穴だ。
なるほど。ちゃんといつもいた場所はポロニア的には意味があったんだなあ。