五百六十六生目 霧散
「コラッ! どこへいくんだ!」
「チチッ」
今日もアヅキと小型召喚石から喚び出されたハゲの呪いを持つ怨霊は意思疎通が取れず追いかけ回している。
見ている限り本当に小型野良動物くらいの知能しか無い。
犬ならまだ芸を仕込めるもののこれは苦労しそう。
そうこうしている間に数日がたち。
とある日アヅキが私に話を持ちかけてきたのだが……
「実は……あの怨霊と戦って欲しいのです」
「え!? ハゲたくないから嫌だよ!?」
「ははは、何をおっしゃるか。ヤツほどの強さだと主はカスりもせず勝てるじゃないですか」
……とめちゃくちゃな理屈で丸め込まれ。
誰もいない開けた空間で対峙することとなった。
本気で近づかせる気はないのでホリハリーに"進化"済み。
「私の言うことを聞かないのはまだいいのですが……主に迷惑をかけるのは許されない。なんだか主をナメているようで……ぜひ主の力を示してやってほしいのです」
「う、うん……」
あまり乗り気ではないが……何よりアヅキと怨霊が無駄にやる気だから仕方ない。
変なところで息ぴったりだ。
改めて召喚獣戦ルールのチェック。
召喚獣の強さは召喚獣自体の強さに召喚者がどれだけ力を引き出せるかが加わる。
"観察"してみると怨霊は『そこそこ弱い』か……
たしかにこれならば。
そして召喚獣は生命力と行動力を持たず召喚者の"観察"したさいに見える生命力と行動力ゲージが2重に増える。
ちなみに必ず倍というわけではないらしい。
小型召喚石の今回のような場合だと2本目のゲージの中身はそんなにないだろう。
そして召喚者は命令することにより召喚獣の能動的発動するスキルを使わせられる。
自動発動スキルの場合は関係ない。
武技や魔法が能動的スキルに値する。
今回アヅキは戦闘に参加しない。
つまり怨霊に指示出しだけ。
怨霊が動けなくなるまで叩けば良いのだろう。
召喚獣は死なないし。
「それでは……いきましょう」
「チチッ」
「いいよー!」
逆に言えばアヅキがうっかり呪いの火炎を指示しなければ私がハゲることはない。
よし。少し安心してきた……
「では、こちらから! 怨霊よ、通常の火炎玉だ!」
「チチッ!」
怨霊の周囲に赤い火球がいくつも浮かびだす!
私はここで……
「やあっ!」
「チッ!?」
怨霊が浮かんでいる下から土魔法"Eスピア"!
火球ごと怨霊を貫いてそのままバラバラに散った!
「あ……やりすぎたかな」
「いいえ、まだです!」
アヅキが言う通り散ったはずの欠片が寄せ集まる。
ぐったりしているようにも見える怨霊がふたたび現れた。
それなら……精霊に準備しておいてもらった聖魔法"レストンス"。
浄化の光が怨霊の天から降り注ぐ!
「チチチイイィ!!」
エグいほど効いてそう。
何せまあ怨霊みたいなの特効だしね。
しかも召喚獣だから死なない。
ジュウウとこんがり焼けたところでアヅキが介抱するわけがなく。
「ほら! さっさと通常の火炎放射でもしろ!」
「チ、チチィ……!」
ところでさっきから少しずつ形がはっきりしてきている気がする。
ぼんやりしていたのがなにか生物の形に……
おっと相手が大きく口を開けて炎を吐こうとしている。
精霊の……空魔法"ディストロイション"!
空間ごと相手がねじれる!
「ピィー!!」
また霧散してしまった。
そうしてまた形を取り戻し……
「さあさあ、接近戦だ!」
「ビイイッ!!」
もはややぶれかぶれな突撃。
こちらは冷静に剣ゼロエネミーを空魔法で空間固定し念力のようにあやつって構える。
近づいて来たところを……
斬る!
そのまま連続斬り!
くるくると剣ゼロエネミーが回って手元に戻る。
怨霊は……また霧散した。
うん。声も上げられなかったね。
「これほどやれば十分でしょう。戻れ」
霧散していた怨霊がもとに戻り――
あれ。姿が違う。
ハッキリと鳥の姿をしている。
しかも何か特定の鳥の魔物というよりかはそれぞれの特徴がくっついたような……
そしてそのせいで逆に無個性な鳥だ。
鳥と言った時にだいたい想像されるような概念的姿。
「チチチ……ピィピィ」
「何? 言うことを聴くからもうこんな相手と戦わせるのは止めてほしいだと?」
「あれっ。アヅキ、怨霊の言葉がわかるの?」
「いえ……心がなんとなく理解が出来るようになりました」
攻撃のさい"無敵"は確かにこめていたが"無敵"の力になんとなく言葉がわかるという力はない。
これは怨霊自体が本気で困ったゆえに自身に出来ることをフル活用した感じかな。
忘れていた自身の姿すらもおぼろげながら身につけたようだ。
「あら……? 姿を手に入れたのね。なにか修羅場でもくぐらせた?」
「あー……ははは、そうかも」
ユウレンにその怨霊を見せたところこのような返答となった。
うん……修羅場だねあれは。私がやったんだけれど。