五百六十三生目 前者
戦勝報告を上げた次の日から少しの間地味ながら重要な戦後処理を行った。
みんなの治療。武具と壁それに戦いに使ったものすべての修復依頼。
様々なことに使う資金という先立つものの在庫とにらめっこして……戦争で戦ったものたちにはしっかり奮発する。
多数の反省と今後のための話し合いをこなし……
他にも常に走り回ったあとに……
祝賀パレードが開かれた!
パレードといっても事前に何か用意出来たわけではないから……
みんな思い思いに飾り付け踊りながら行進しただけだ。
見る側も演る側も楽しくできさらにそこに商売の気を感じた者たちが事前契約して屋台を開いてひとつのお祭りに。
ちなみに私は……なんか立派な舞台に乗せられてそれを台車で引っ張って移動させられた。
恥ずかしい!!
しかもそりゃあ注目されまくるわけだから恥ずかしい!!
その上で踊らなくていいのだけは助かった。
前足や尾を振ってアピールするだけでなんとか済む。
ああみんなの笑顔が恥ずかしさをましてくる……
その日は一日中大騒ぎで特に活躍した夜の魔物たちがはしゃぐ夜中はいつまでも楽器の音色が響いた……
そんなめでたい日の翌日。
私は寝不足にならないように良く眠ってからそろりとアノニマルースを抜けた。
龍穴のある密林へ入りこみそのままおばけキノコにある階段から降りる。
その先は機械で彩られた私の迷宮。
そのままそうっと降りて……
違う階段を使い荒野の迷宮へ上がる。
ここはポロニアとバッタリ出くわし私が神化とかいう"進化"をして切り抜けた場所。
暗い洞窟内のはずが発光をしているキノコやコケによってカラフルに明るい。
そして龍脈が可視化されるほどに壁の内側を力強く通っているのもいつもどおり。
これを流れのとおりに前は歩きポロニアに会ったが。
今度は逆方向へ歩く。
駆けたらすぐに行き止まりへとたどり着いた。
ポロニアが前駆け込んだ先なのに行き止まり。
答えはひとつ。
「新しい迷宮の管理者としてきました」
…………壁が音もなく消えた。
やはりか。
実は先日病院で脳内ログにとある文字が。
[迷宮管理者交代 自己に任命]
[荒野の迷宮管理者権限取得]
管理部屋の場所は直感させられて判明したのと理論的に推測したもの半々ですぐにわかった。
管理者は管理部屋がどこにあるかはなんとなしにわかるものだ。
……迷宮にわからせられている。
ポロニアは迷宮が意思をもっていると考えていたフシがあった。
私もこの不可思議なシステムたちを味わうたびにそう考えたくもなる。
ただそれは……どちらかといえばとても無機質に処理をくだすような原始的なものだが。
壁があった向こう側へと踏み込んで。
ふたたび背後で壁が現れる。
奥行きが少しありすさまじく広い。
ポロニアが往復していただけあって広い広い。
扉みたいなものは無く開放感がすごくある。
心細くなる程度に。
坂を駆け下りて行ったその先の部屋に……それはあった。
荒野の迷宮管理室。
ここにきてわかったことがある。
ポロニアになぜ託されていたのか。
ポロニアは赦しのために託されたのだ。
赦すという行為は何よりも自身の心を解放する。
不必要に病むよりも反省しその分挽回すればいい。
そういう意図が読み取れた。
ポロニア自体にまるで伝わっていないあたりなんて口下手な前管理者なのだろうか。
ポロニア自体のダメコミュニケーションを含めて偶発ながら必然の事故にしか思えない。
管理者部屋は……大量の資料が積まれていた。
しかもやたら大判。
言ってしまえばポロニアが難なく読めるサイズ。
一瞬思ったのは姿も見たことがない前管理者もサイズが大きかったという説。
しかし近くに転がる朽ちかけた筆記用具で疑問を打ち消した。
正直かなり小さい。
そうこれを持つのなら荒野の迷宮内だと妖精族なんかが良いだろう。
妖精族は小型で飛べる植物の魔物。
ポロニアとはサイズがまるっきり違う。
つまりこの資料は完全にポロニアに向けて描かれたものたちだ。
文字を出来る限り使わず……どうしても使う場合は事前に文字の意味を絵で解説してから描かれている。
書かれた文字は皇国語。
つまりは地表の国と同じものだ。
妖精族は常に細々と冒険者たちと交流がある。
文字くらい学んだ個体がいてもおかしくない。
特に荒野の迷宮管理者だなんてやった者ならいてもおかしくはない。
それら努力の結晶は……読書半ばで放置されていた。
おそらく熱意がねじまがって伝わり『よくやってくれているからいじらないほうが良い』とポロニアに思われたのだろうな……
少しムダになりかけた努力の結晶たちに同情した。
ありがたく私が使わせてもらおう。
大きすぎるけれど。