五百六十ニ生目 終戦
ポロニアとの戦いの後動けない身体が歩ける程度にはなったので病院内を巡る。
少し落ち着いて来たので外に出る。
見に覚えのある気配が空から落ちるように接近してくる……
ドォーン!!
なんかものすごい急いでいたのか着地が派手だ。
着地の風が私を巻き込んで耳や毛皮をはためかした。
「お……おお……!! お怪我はありませんか、主ー!!」
カラス人な容姿のアヅキだ。
ある意味彼はいつもどおりである。
「大丈夫だよー。まあ生傷だけは多いけれど」
「ぎゃああああぁ!! 実においたわしい! 今すぐ治療を!」
「だから大丈夫だって。キレイにしてあるし、自然治癒できるよ」
確かに見た目には普段より派手に傷跡が刻まれているけれどしょせんは跡。
経験上キレイに治る。
「ああ! そういえば主は治癒も自己で完璧に行えましたね! 失礼しました」
少しアヅキが冷静さを取り戻した。
オーバーリアクションに思える慌てっぷりがなくなったところでスッと目が鋭くなる。
ホンニン的にはただの平常時の顔だ。
「ところで、敗戦者のポロニアに関することです。回収しに行ったイタ吉さんたちによると、破壊痕はあっても、本体がいなかったとか。どうします? 捜索班を出しますか?」
「ああ、そうだ……みんなには話しておかなきゃね。ポロニアは、死んだ」
会議室に集まるのはあまりに非効率な状態なので"以心伝心"で共有会話を多くつなげる。
いつものメンバーの中で会話。
アヅキはその場で語ったら納得してもらえたので今回は外れる。
私も歩み町の魔物たちに一声かけまわりながら念話のほうで今回の戦いを語る。
ポロニアの襲ってきた理由から死んで光となったことまで。
反応は様々だった。
『よっしゃあ! つまりは大勝利だな! ポロニアが迷宮に還ったんなら、より見せつけるように楽しく戦勝会しなくちゃな!』
ジャグナーのように歓喜するものや……
『なんだそれ! 納得いかねぇな! せめて一発ぶん殴って、それで謝らせたかったぜ!』
イタ吉のように憤慨するもの……
『なんだか、哀しい戦いだったのね…………それでも苦労はさせられたんだから、反面教師として得るもの得るしかないわね』
ユウレンのように悲しんだりまたは無関心だったり。
反応は様々だった。
どれもがうなずけるしどれも間違ってない気がする。
そしてそれでいいのだろう。
不和の種になることはなくみな未来へ歩もうとしているのだから。
ポロニアの意志……それ自体は一貫していた。
何も赦せなくなったという根底の哀しみこそがその意志。
しかし反して意思は入り乱れていた。
時と場合により大きく意思は変化し一貫していない。
ポロニア自体が気づけないほど……いや気づくのを拒否したような善意すらもそこにはある。
間違いなくポロニア自身が持つ正義の心だ。
自身のただしさに振り回されて尽きたという表現があまりにもポロニアに合いすぎる。
ただしさを柔軟に変えることもただしさに背いて良い行いをすることも難しい不器用さ。
正義の味方でいたかった彼は最後に悪に染まることで正義の味方をした。
あまりにも無惨で多くの哀しみを生み自身すらも捨て駒と化してそれでも正義の味方をしたかった。
正義になってしまった自身への罰でありそのこと全般に疎く気づけなかった故に多くの痛みを生んだ罪。
功罪が同時に存在しつづけた一生は重すぎて……だけれども最後に自分と向き合うことで全てを引きずる覚悟をした。
1歩やっと踏みしめたのだろう。
あまりに遅すぎてそれでも間に合った1歩だった。
一通りわいのわいのと話し合った後。
ジャグナーが挟まこむように念話で話す。
『そうだ。ローズ、後で大規模な戦勝報告とパレードをやるぞ』
『え!? そ、それやらなくちゃダメ?』
『ああ。完全勝利だからな! みな多少今回の戦いはどうだったか困惑しているし、疲労と傷で気分が下がっている。ニンゲン界から仕入れた話だと、こういう時にフォローとして思いっきりパーッとやるのが良いらしいからな!』
『あ、それは僕からも賛成です。みんな喜ぶと思います』
まさかの方角から指示が飛んできた。
たぬ吉だ。
さらにその後イタ吉やらドラーグやら賛成の声が上がり続ける。
私が折れるしかないか……
『分かった、わかったよ! やるよ!』
『よし! じゃあ早速準備だが……』
絶対緊張する役回りだろうな……それを考えるだけでふらつくなあ。
それから数日は戦後処理として忙しく走り回ることになった。
まず私は大々的に勝利の演説を行った。
演説と言ってもアレだ。
中央に魔物や人を集めて、
「我々は、勝ったぞー!」
と言い、
「「おおー!!」」
と歓喜の声が上がったら後はどんちゃん騒ぎというもの。
でもそれだけでも……すごく楽しかった。
よかった……この景色を守れたんだ。
みんなで。