五百六十一生目 無事
ポロニアを倒した。
しかし彼は今無理をした反動で天命を迎えようとしていた。
龍脈を無理矢理取り込んだが今は龍脈により全身が光へと分解されているのだ。
それは……望む所じゃない。
光魔法"ヒーリング"! ……ッ! 聖魔法"リターンライフ"! ……うう!
ダメだ……手応えがまるでない!
「よせ。自分で実感としてわかる……お前の行為に関わらず、ワシは寿命により尽きる。無意味とは言わん。想いは受け取った。その心が……ガハッ、ゲホッ! ……迷宮と共になるワシへの、最大の土産になる」
「ポロニア……あなたには、ちゃんと生きて、そしてみんなに償って、そして未来へ歩んでほしかった」
「なに……みなへのつぐないは、はたして行いきれるかわからぬが……大丈夫だ。ワシは……」
ポロニアは左前足を空へと伸ばす。
空を掴むかのように。
「ワシは、この迷宮の一部として、生き続ける」
一瞬私のような来世の話かと思ったが違った。
違う死後概念。大いなる自然へ還りその一部となるというもの。
概念への還元。
私は何も言えない。
私だけの例をあげても何も意味はなく明らかに特例だからだ。
かわりにポロニアが誰に向けてでもなく言葉をこぼし続ける。
「今回、返さなくてはいけないものが増えたからな……なにより……ワシは、初めてワシと向き合えた。それだけで……これ以上の、幸福は、ない。幸福も、返すことで巡る……」
「ポロニア……私はあなたがどうなろうと、せめてあの時の拳に乗った哀しみだけは晴れるように、祈っているよ」
「フ……」
ポロニアは私の言葉には特別多くを返さなかった。
咳と乱れた呼吸音そして軽い……初めて見せた微笑み。
それが彼の限界だった。
「ありがとう」
光の粒子となってポロニアを構成する全てが消える。
いや……消えたわけではない。
この荒野の迷宮に吹く一陣の風になったのだろう。
そう思ったころで全身がガクガクと異常な痙攣をして……止まった。
こう……今まで保っていた緊張の最後の糸が切れたらしい。
みるみるまに私の身体の機能がシャットダウンしていっているのがわかる。
徐々に大部屋の明かりを消すかのようにとまって休みへとは入ろうとする。
その前に……最低限私の残された意識でやれることを。
脳内のログを開いて九尾博士開発のログを介したチャット会話を開始……
宛先……なかみ…………
[むかえ よろしく かった>>イタ吉]
おはよーございます。ここは……病棟の床、かな。
というか廊下。
布一枚敷いて寝かされている。
理由はすぐにわかった。
私の身体に青い印がつけられている。
これは優先順位低かつ寝かせておけば大丈夫な患者につけられる。
もちろん普段からこんなのはない。
私の前後……それどころか周囲いたるところに魔物たちがうずくまり走り回っているから理由がわかる。
戦いの後の治療だ。
私の身体は傷はついていたが生命力は全快にしてあった。
これは"ヒーリング"を誰かがしてくれたということだろう。
大きく伸びをしてすっきり……といきたかったのだが全身がしびれだした……
4足だし歩く程度は出来るかな。
骨は折れてない……ね。
よし。なら移動しよう。
「大丈夫? キミたちのおかげで、今回は無事勝てたよ」
「「あ、ありがとうございます!」」
歩く程度しか出来ない私は声掛けを行いつつ"ヒーリング"や"ヒーリングラージ"でみんなの痛みを癒す。
"トリートメント"は治療痛が激痛なので優先しない。
みなあの戦いでポロニア分身たちに攻撃され負傷したものたちだ。
鎧と武器のおかげでかなりダメージは軽減されていたものの限度はあるからね。
相手もかなり強かったし。
だけれども……もう戦いは終わった。
私に気付いたらしく駆けてくる足音ひとり。
「ローズさん!? ダメじゃないですか、まだ休んでいないと!」
「あ、コル。おつかれさま。おかげで勝てたよ」
「お疲れ様で……じゃなくて!」
「大丈夫、こう見えて歩くことなら楽に出来るから。それに……私青タグでしょ?」
青い印を見せつけるとコボルトのコル先生が深いため息をつく。
「それ、無事って意味じゃあないんですけれど……まあともかく、動いていないと落ち着かないんですよね?」
「まあ、今は多少それはあるよ」
「では、ムリをしない程度にみなさんに声をかけてあげてくださいね。みな、あなたの口から戦勝報告を聞きたがっています」
「そうなんだ……わかった。ありがとう」
コルと別れたあとも多くの魔物たちに出会い勝ったと報告した。
痛みで悶ていた魔物や冒険者なんかも私から直接勝ちを聞いたら疲れが吹き飛んだかのように喜び……
そのあとやっぱり疲れていたのか熟睡しだしたりもした。
そうか……私たちは守りきれたんだ。
実感が今更わいてきた。




