五百五十八生目 哀愁
「違う……ポロニア、あなたはウソはきっと言っていない。けれど、煙に巻いて覆い隠している部分がある」
さきほどポロニアが吠えて牙を見せろと言ってきた。
嫉妬濡れのかんしゃく持ちだの殺せば迷宮の管理権が手に入るだの。
どうこう言っているが……私は攻撃を止める。
そのかわり防御や回避それに回復に専念。
剣ゼロエネミーを網にして片方を覆えば脱出までの少しの間だけでも楽になる。
もともと私は攻めさえしなければこのポロニアと分身の2体相手でさえ生き延びる自信がかなりある。
「何……? ワシが隠している部分などない」
「あるよ! それは、ポロニア自体の心を――」
「嫉妬だと言っておろう!!」
「ッく! 違う、それはポロニアが見せたい、偽悪的な、ポロニアの思う心だ! ポロニアと私達の間にある、きっと無意識に隠したがっているその心こそが、さっきからの戦いで伝わってくる!」
相手の攻撃が激しくなればなるほど。
息を忘れているのかと思うほど詰めるような連撃を繰り返されるほど。
まさしく痛いほどに伝わるものがある。
それが先程の会話でちゃんと理解できた。
「ただの嫉妬狂いなら……なんであの時、私が"進化"するまで待っていたの!?」
「……っ!?」
「それに、答えを私に求めていた! 戦いを通じて、答えを得たがっていたじゃない!」
初めてポロニアがたじろいだ。
心理の虚をつかれたような左目が見える。
まだ毛によって隠されている右目はわからないが……どうやら彼の中に心当たりがあるらしい。
「きっと、自然にウソをついて、自分すらも騙して、この戦いを終わらせようとした。でもそれじゃあダメなんだ…………答えは私にはわからなくても、問ならなんなのか少しわかった。私達が、自分が踏み外した道で同じ轍を踏まないか、みんなで未来へ行けるのか、そして……ポロニア自身が、過去の心傷を持ちながらも前に1歩進めるのか、それを問いていたんだよね?」
「……言うな!」
やはりなのか。
攻撃が激しくなり近づくのが困難な程にこちらに玉やら爪撃やら気の波動が飛んでくる。
私の言葉を遠ざけたいように。
「そのような驕り、抱かぬ!」
「ポロニアは、私を通して自分を見たんだよ! また悲劇が繰り返されるのか、それとも違うのか、そして……自分は世界に、いや、自分自身のただしさ、正義に赦されるのかどうかって!」
「ぐうぅ……!! 知らぬ、そんなもの!!」
一層拒絶が強くなる。
そしてそのたびにヒシヒシと伝わるものがあった。
「だって、ポロニア。あなたの攻撃は……悲しみがこもりすぎている。泣いているよ」
「泣いてなど!」
「ニンゲンみたいに涙を流さずとも、尾を垂れ悲痛な声をあげなくとも、泣くことはできる。自身の弱さを嘆き、ただしさというものに振り回されたあなたは、自身から逃げようとして、今誰かに救ってもらおうとしている。全力を持ってして叩きのめされること、そして、死を持って」
「黙れ!!」
「死に場所を求め、同時に救済を求め、苦しみもがき泣き叫んでいるんだ。自分から逃れようとしても、対面するハメになった自分自身が憎いから! この戦いは、ポロニアが自分を赦せるか、自分は楽しく『生きて』良いのか、その答えを知りたくてこうなっているんだ!」
「黙れえええええええぇ!!」
大量に追尾する気の塊が飛来してきた!
アインス頑張ってしのいで!
「そして私達がポロニアが描いた絵空事のようだと感じて、自分の姿が重なってみえて壊したくなった! 否定しなくては、自身の罪に、正義に潰されてしまうから! 正しくなかったはずの行いで、自身の夢が叶えられて、自分の姿を投影してしまったから、全て許せなくなった!」
「ッ……!」
「そしてそのことに無意識的にでも自覚をしたから……死ぬつもりだったんだ。私達に、見ておかねばならない悪役として」
「お前は……なんなんだ!? 言動が、思考がほんのわずかな時しか生きられぬ種では、ありえぬ!」
前世があるから。ね。
「たしかに私達は、知らず知らずあなたへの対策のためにたくさん学び、強くなり、育っていった……それにあなたが心配した未来への対策も、次々行っている。魔王への対策も考えている。あとは……ポロニアが、ポロニア自身を赦せるかどうかなんだ!」
「だから……そんなことは……ない!!!」
「どうしても認めないのか……!」
ポロニアが助けを求めている。
だがその助けをポロニア自身が拒んでいる。
同一存在の矛盾した行動はよくあることだけれど……身をまさに裂かれる想いだろう。
ポロニアは分身と共に3つもの結界をドーム状に張る。
私を近づけさせないように。
さらに両者なにやら力を込めだしている。
危険だ。削り合いの結果ポロニアたちはもはや生命力が100分の5程度だというのに。
ココまで来て負ける気がする気迫をヒシヒシと伝わってきた。