五百五十四生目 器用
「ぐうっ!?」
頑強な紐をくくりつけた矢を多数バリスタから放たれポロニアは身動きが取れなくなる。
そもそもここに逃げ込んだのはポロニアの意思に見せかけて誘導したのだ。
霊的世界から脱出させる前に意図的に出現場所をいじったらしい。
やり方はまったくわからないがウロスさんが出来ると言い切ったのを信じた結果だ。
見事に成立しポロニアは罠にかかった。
そしてそれを見据えるのは勇者グレンくん。
「お前がみんなを……ローズさんを傷つけた相手か! いくぞ!」
「小僧……? その気配、どこかで……いや。それよりも小僧。その程度の実力では――」
拘束され動けなくなったはずのポロニアだがなお余裕を見せていた。
まあポロニアから見れば大して強者のかおりもしない子どものニンゲンが突貫してきたとしか見ようがないだろう。
だからこそ……油断した。
広かったはずの場はポロニア出現で一気に狭くなる。
それでもグレンくんが最初に選んだのは弓だ。
グレンくんは背から速攻で弓を持ち矢をつがえグッと引き絞り放った。
空に向かってだから曲射だ。
ポロニア相手に飛び道具しかも曲射などまるで意味がない……はずだった。
空から赤い炎をまとい轟音と共に矢が落ち着弾とともに大爆発!
思わずポロニアの力ですら耐えれずに吹き飛ばされた!
「なっ!」
「ハァッ!!」
いつの間にか弓を背負い直し鞭を持つ。
武装を入れ替えるスキルだろう。
スッと鞭を振り飛ばすと何かに巻き付いたらしい。
噴煙の向こうにいるのはポロニアだけだから……
跳んだら鞭が光を輝かせグレンくんの身体が吸い込まれる!
噴煙を突っ切ってポロニアの顔と目が合った!
「ダアッ!!」
普通の長剣に鞭から切り替え両手で持つ。
僅かな瞬間にポロニアのあちこちに斬撃!
通りすぎた後に血が噴き出す!
「ぐぬつっ!?」
「ハアッ、ハアッ……」
きっと遠くから眺めていたら分身して斬りつけていたようにしか見えなかっただろう。
ポロニアはそれを見たという顔をしている。
そしてソレをやり遂げた側のはずのグレンくんが汗びっしょりなのも。
「ローズさんから教わった、エネルギー操作、まだ、自分じゃあ、無駄だらけだな……」
再び走り出し斧を取り出す。
ポロニアが紐付き矢を引き抜き出した。
グレンくんは確かに強くなった……だが。
「……瞬間に全てを置いたな?」
ポロニアの指摘どおり。
私達から教わったエネルギーのうまい分配の使い方で瞬間的火力は私の部下たちよりもはるかにうまい。
しかもなんでも出来てどんなこともやれる。
……それを維持する力がないだけで。
一瞬だけ爆発的に力を増すため相手はその差に驚愕するだろう。
だがそれを長く続ける力は未だにないのだ。
走りながら斧を投げると光と共に激しく回転。
紐の矢を全て外す瞬間に斧が当たり浅くもそのまま回転し続け止まらず大きく裂く!
クルクルとグレンくんの手元へと戻った。
駆けながら斧をしまい陶器瓶を取り出す。
あれは事前に渡しておいた恵みの泉が力を失わずにこめられているものだ。
だがポロニアもいい加減うっとうしいのかそのスキを見逃さず前脚を上げる。
「次射!」
「ぐっ!」
「あれだけ大きいと数撃てばあたるよー! どんどん行こう!」
今まで止まっていた兵器たちが一斉射撃を開始した!
ポロニアは攻撃を中断して"防御"をしてやりすごす。
ガトリングガンを含む攻撃で射撃スキル持ちの魔物が扱ったものを堂々と受けているのはさすが本体と言ったところ。
放たれた砲台の爆撃を回避した先にブービートラップ。
分身から送られる経験の影響かかかった瞬間に気付いて跳び爆撃を回避!
分かった後に避けられるとはおそろしい反射速度。
「ダアァッ!!」
そこに回復したグレンくんが飛びかかる!
一瞬のスキに対して槍を持ったグレンくんがさらに高く跳び上がる。
大上段からの武技による槍をもちながら急速落下!
着地。
双方地面についた時にグラリと来たのはポロニア。
……膝をついたのはグレンくん。
「あそこから反撃を……っ!」
「背中が痛む……お前も少しはやるようだな」
決死の攻撃が背中が痛む程度で済まされたのに対してグレンくんは鎧を貫通しえぐられた傷から血が出る。
内臓には傷が行ってないのが少しはマシ。
すぐに射撃援護が行き今度はポロニアは上への対処に走った。
また新しく瓶をあけて中身を飲み込む。
少なくともえぐられた肉体の傷はおさまったようだ。
そうしてこんどは右にハンマー左に湾曲剣。
深く息をしてまた突撃した!
"以心伝心"を切りなんとか大丈夫そうだと安心する。
もちろんグレンくんも緊急ワープがあるし一定時間でワープ避難はすでに決まっている。
見ないあいだにあそこまで戦えるようになって……すごい成長だ!