五百五十一生目 戦略
ポロニアと交戦をしだして氷の槍を放たれた。
突進と回避を繰り返され……
私を少しずつ削る。
剣ゼロエネミーはポロニアの動きを止めるのに大事だからあまり戻したくない。
うわっ! また氷のつぶてが飛んできた!
この2足歩行の身体だとやりづらいが……殴って壊す!
氷の槍が真下から狙いをつけてきた!
上体を反らして首を後ろへ倒す。
ひえっ! 顎をかすめて行った!
こっここだ!
急停止するこの瞬間を狙うしか無い!
回転する瞬間に背を向ける。
背中のツタに鎧をまとわせ思いっきりはたく!
1撃じゃなく2度3度4度!
パリッとヒビが入り砕け出す!
(よし今だ!)
ドライが追撃として尾を1本伸ばし半壊した氷の槍を掴む。
鎧をまとわないせいで凍てつきだすが気にせずそのままぶん投げた!
剣ゼロエネミー操作しながら同時に行うとは……さすがドライ。
氷の槍はやすやすとポロニアに砕かれる。
だがそのために爪を振るい意識を向ける必要があった。
半ば無意識に行った防御だからこそ……スキがうまれる。
斬!
たった1撃ながらやっと深く入った!
厚い毛皮が裂け血しぶきが上がる!
後ろ側に逃れられ深くダメージは入ってない。
生命力はまだ5分の4あるからあと8回は同じように何か攻撃入れないとまったく勝てないというわけだ。
強いなあ!
冷気が侵食しかたまりだしているイバラの先を自切して新たに生やす。
剣ゼロエネミーが何回も斬りつけ続けるが当然のように身のこなしで避けられる。
ぶった切られた後の動きではない。
よし! 土魔法"ロックボーン"! "アースレイン"!
火魔法"ヒュージフレイム"! "Fリビエイション"!
一斉にいけえ!
骨型の大きな石のかたまりが回転し楕円を描いて飛び土砂が高い空から死の脅威を持って降り注ぐ。
さらにポロニアの顔面すら包むほど大きな青白い炎の玉を飛び放ちそれの援護と言わんばかりに火炎放射が放たれる!
剣ゼロエネミーが最大限作り出したスキ! 大きく跳んだ瞬間のアタック!
どれかは絶対当ててやる!
「フッ」
「ああっ!」
姿が消えた!
背後に悪寒。
また影の爪が私に忍び寄っている!
大地に魔法たちが当たり無駄に吹き飛ばしたり積もったりして地形だけが変化する。
もったいない……普通の魔物が放ったのだったら決死の大技だぞ。
今度は喰らう前にアインスが飛行を急加速して抜ける。
ポロニア自体は……いた。
私より背後……つまり壁の方に。
「どうやら、実に優秀な味方をもっているようだな」
さらに魔法を追加で唱えつつ相手の近くを高速で飛び背中のイバラに鎧を纏わせ強烈に叩く!
剣ゼロエネミーも加わり超人的ならぬ超獣的な動きで避けてしのいで毛皮を散らしても肉すら斬らせない。
「どういうことだ!」
「そろそろ分かることだろう。全く――」
ポロニアを殴ろうとして避けられまくっていて自然に目に入った。
結界が……壊れていく!
私のいる側を除く3方向が無残にも砕け散る。
思わず顔が歪んだ。
それはそれとして殴る手は止めないが。
「ぐっ……」
「――お前が離れた途端にコレとは、大した仲間だな」
「仲間もいない相手に言われたくない!」
「では、守ってみせよ。その仲間とやらをな……」
イバラの一撃が空を切る。
ポロニアの姿がかききえたのだ。
霊体化して向こうを襲うつもりか!
皮肉を吐いた背中は遠く……なんてね。
「……ふぅ」
『作戦どおりいけそう』
『そのようだな!』
なかなか演技もうまくいった。
結界が壊れたのは想定内。
そして彼が霊体化してまた一時的に姿をくらますだろうというのも。
さすがジャグナーが事前情報を元にたてた複数の作戦である。
というわけで"以心伝心"で聴覚と視覚を今の主役へ!
「……なんだ、お前らは」
怪訝そうなポロニアの顔が見える。
そしてもうひとりの顔も。
「あら、まだ気づかないかしら?」
「ワンちゃん、アンタを罠にハメたのじゃん!」
ここは霊的世界。
周囲の景色はフィルターがかかったように淡くなり美しいきらめきが輝いている。
そうか。これが視える人の世界か。
見えるのは仮面をかぶり空に浮かぶ女性。
死霊使いのユウレンだ。
ニンゲンながら私の仲間。
そしてこの視点を借りているのはユウレンの師匠ウロス。
本当はご高齢者だったそうだが自前の実験で転生。
見た目は小さい子どもになっているが死霊術師の第一人者らしい。
そしてふたりとも腕を大きく広げる。
肉体の境界が崩れ黒い何かが伸びていく。
……そうかここは霊的な世界で肉体ではないのかな。
「現実世界では戦えないけれど……ここなら私達の独壇場よ」
「うぅっふっふ。もう逃れられないよじゃん!」
ユウレンが仮面と一体化しておぞましい死者の鬼面となり邪悪としかおもえない容姿へと変貌した……