五百四十三生目 神化
龍穴から立ちのぼる大量の光……龍脈。
それのわずか。ほんの僅かだが私を消し飛ばしそうなほどの量の光が枝分かれした。
私の方へ飛来し周囲を周回する。
まるで意思を持って覚悟を説いているみたいだ。
「まさか、迷宮がお前を助ける、だと……?」
「来てほしい、龍脈。私の準備は済んでいる」
勘違いではない。
確実に私は今ならばこれに耐えきれるとなぜだか確信できた。
別に今深呼吸できるかどうかと聞かれ出来ると答えただけだからね。
周りを周回していた龍脈が。
私へと集まりなだれ込んできた。
龍脈の中に私が浮いている。
先程までの苦労や痛みそれに不調が嘘のようだ。
淡い輝きの中に私が浮いて……
そして……
5つの魔力と龍脈そして私自身すらも溶け合う。
大きな繭の中で生きるため。そして守るため。
その力を手に入れるビジョンを思い描く。
今こそ自身の殻を打ち破れ!
「"進化"!!」
一気に形が成り立っていく!
全身を再誕の高揚感が包む。
"進化"の万能感だ!
これを胸に秘めつつも力をみなぎらせていく。
打ち勝ち! 守り! 思考し! 空へ!
つなぎとめ。混ぜ合わせ。さらに踏み込んで!
私の中にあった3つの『別要素』が浮きでる。
粒子の輝きが3つ。
魔力を覆ったりつなぎとめたりくっつけたり。
プライドにホワイトアイそれにデザイア。
彼らの力すらも今最大限に活かして!
私を創る!
――声が聴こえる。
――あまりにも強大なその存在としか感じられない何かが地から声をかけてくる。
「尊き小さな生命よ」
「今この時をもって」 「龍脈より力を得て」 「領域の壁越える事を」
「我が『助手』たる称号を持って」
「保証する」
こ、この声は! 威厳たっぷりだけれど――
うわっ!?
光が満ちていく!
……
……また静寂が訪れる。
だけれどもこの高揚感は。
ぐっと拳を握りしめ力をこめ腕を大きく振り万能感を振り払う。
私の周囲に軽く風が巻き起こった。
「……初めて見る姿だな」
「"進化"……できた」
"鷹目"で私の姿を鏡に映すように見る。
……うわあ。
びっくりしたしちょっと引いた。
その姿の第一印象は……『異形』だった。
私の大まかな形は『ホリハリー』と同じ2足歩行だ。
獣のような体付きでいわゆるつま先立ち。
しかしそれだけじゃない。
背からは白い茨のトゲが……『ロゼハリー』と同じもの無数絡み合いながら伸びている。
しっぽも同様で尾先は赤トゲが猛毒の花を咲かせている。
『ホリハリー』時特有の全身にあるイバラ模様を覆うように脚や腕それに胸にもトゲの変質した装甲が生えている。
『グラハリー』の鎧だ。
背中から伸びるのは白のトゲだけではない
茶色い枯れ枝みたいな複雑に枝分かれしたトゲは翼をかたどるかのように広がる。
『エアハリー』の翼だろう。
胸の装甲に埋まるかのように輝いているのは『ホリハリー』のときと同じ宝石であるロゼスオーラ。
私の進化要素すべてつぎ込んだこれらだけを見ればまさに全部乗せ。
完成形と言って差し支えない。
だけれども私が『異形』と思ったのはそこがメインではない。
1つの器に完成した豚骨スープと麺に多少の具材……ではないのだ。
ぶち込まれた食材が存在する。
ホリハリー時のミニマントと言っていた神経の通った背中の装飾。
それが大きく発展して風を受けて翻るマントとなった。
下端が傷ついて破れたかのように波形になっているのがやや不安を誘う。
さらに……頭から生えた角だ。
ヤギのツノと言えばいいのだろうか。
前に少し突き出たと思ったら後ろへ長く反っている。
コレに関しちゃあもはやこれまでのどこの要素ですらない。
コレは針の変形ではなくツノそのものらしく針のように操作が利かない。
え。本当になにこれ。
完成された豚骨ラーメンに大量のチャーシューとモヤシぶち込み特性の背脂となぜかフライドチキンが2本刺さっているみたいな。
いや……え。なにこれ?
邪のほうの道と書く悪魔的魅力の完成品なんだけれど。
珍しく驚きの表情がうかがい知れるポロニアだけれど私の方がびっくりなんだけど。
ポーカーフェイスは明らかにムリである。
ええ……これ良いんだよね? 完成形……だよね?
なんか完成よりもう数歩踏み込んでない?
踏み外していない? 大丈夫?
ああそうだ。 ……"観察"!
[ネオハリー 個体名:ローズオーラ
"神化"の手続きを得て新たなる神使となったケンハリマのより進んだ"進化"した姿。攻防を高いバランスでこなしケンハリマより大幅に能力が増す。過去出現した同種族とは姿が異なる。土の加護と蒼竜の加護を受けている]
"観察"に予想を肯定された……!
心の中で思わず両手ついて下向いた。