五百四十生目 早朝
蒼竜に宿の部屋を与えた。
蒼竜は別にニンゲンの世界に入り浸っているわけではない。
だから金無し宿無しらしい。
彼いわく、
「いつも、面白そうなことやっているな! ってところにいくだけさ! 流行りのもの! 賑わう場所! 愛する世界の民が、愛しているものを取り入れたいのさ!」
らしい。
笑顔でなんらおかしなこと言ってないように言い切るあたりやはり神さまらしい。
まあその神さま私から金を恵んでもらって今宿の鍵を受け取ったところなのだけれど。
「うん、無事にもらえた! 賽銭ありがとね!」
「ここの宿、蒼竜を泊めるのが夢らしいですよ。魔物舎に泊めるつもりらしいですが」
「おお! きっと僕が泊まったと知ったら泣いて喜びそうだね! まあ言えないけど! いい宿紹介ありがとねー」
「はいはい、またどこかで会いましょうね」
ブンブンと手を振り部屋へと去っていく蒼竜。
いいのか悪いのかわからないが悪意はなさそうなんだよねえ。
また会いそうな気がする。無理矢理にでも。
私達はひと晩過ごした後に帰還することとなった。
なお出番がまったくなかったイタ吉やジャグナーそれにダカシには文句言われたが。
その分休みは満喫したようで毛並みがピカピカになっていた
「やあ……」
「あ、そーくん。おはよう」
「……」
「ん……?」
ひと晩過ごし朝になったらまたたまたま蒼竜に会えた。
のだが。
あれ? 同一人物だよね?
今の彼は別人のように肩を落とし帽子もかぶらず下を向いている。
目の前で手を振っても無反応。
試しに両肩を軽く抑えるとそのまま抵抗なく椅子に座り込んだ。
「何か拾い食いでもしたの? または宿がひどかったとか」
「……」
「……」
「……いや、滅多に食べられない優雅な食事と、何ら不都合のない夜だったよ」
反応が2テンポ遅い!
本当に何があったのだろう。
普段がアレだったからこの落差は気になる。
「それじゃあ、なぜ……」
「……どうして、朝はやってくるんだろう」
「はい?」
「僕はただ、至福の夜を過ごしたかっただけなのに、無遠慮に叩き起こす、太陽がにくいよ……」
あっはい。なんとなく理解しました。
つまり朝に弱いのか……
「ほら。また夜は来ますよ。アヘンチンキでも飲んだらどうですか?」
「……効かないさ。愛するみんなの、愛するものの雰囲気を、味わいたいだけだよ……ポーズなのさ。愛するものに染まることすらできない、哀れなこの身の上さ……」
まあ効かないのは知っていたから言ったけれど。
まるで軽口が消えているな……
その後ふらりとどこかへ歩いて行ったので見送った。
まあ。昼間近くになれば元に戻るだろうし放置でいいか。
夜。月明かりすら暗がりだす真夜中の時。
アノニマルースの中でどうも寝付けずにごろついていた。
普段はこんなことないのに……
なんだか身体がざわつく。
体の中で雑音が反響しまくっているようだ。
妙に目が冴えてそれでいて気分が悪い。
前にアノニマルース内で嫌な予感がした時は霊獣ポロニアが軍団を引き連れ襲い掛かってきた。
戦争のようなありさまでかなり追い込まれたものだ。
あれからかなり強化をほどこしたもののどうなるか……
結局のところ彼が襲ってくる原因は不明だ。
ここ荒野の迷宮の管理者ということまでは割れたのだが彼はもっと個人的な問題だという態度。
具体的なことも示さず襲ってくるわりには野獣的な感じはなく何か当者にしかわからない理由で殴ってくる。
正直最悪の類ではある。
まだ魔王復活とわかりやすいカエリラスのほうがマシ。
ただどちらにせよ力は必要らしい。
力かぁ……これ以上強くなれるものなのか。
正直成長は限界が近い気がする。
なのに世界には私達より強い相手がゴロゴロといる。
なんという世界だ。
しかもほっといても世界ぶっ壊そうとしたりする。
そんなことをフラフラと考えながら月明かりの夜空まで誘われる。
こういう夜は……そうだなあ。
なんとなくだけれど……私の迷宮へ行ってみよう。
私の迷宮……命名地球の迷宮は荒野の迷宮にあるオバケキノコのひとつにある階段から向かう。
中に到達すると相変わらず異質な世界が広がっていた。
なんというか……改めて見ると工場とか研究所みたいだ。
管理者権限で特別な隠し扉をオープン。
電動で静音。スッと開いた。
中に入ると自動で閉まる。
さらに少し移動してエレベーターに乗り少し下へ。
揺れることすら無くしばらくすると着く。
管理者部屋だ。
今や私が手を加える必要も無くAIが自動で修正と運営をし続けている。
もちろんやるのはより順調に発展させることだけなので変更なんかはこちらに投げられる。
私はたまにきてたまったタスクを処理するだけだ。