五十二生目 呪音
ギュンギュンと移動し続ける。
気配は出さないように抑えているが身に付いた狩りの術が自然と音もなく走らせる。
純粋にめちゃくちゃ楽しい!
ビュンビュン雪の上を駆け抜ける。
めちゃくちゃ深い雪も今の身体ならそんなに気にならない。
それにしても小川がこれでも凍らないのはなぜなのかな。
科学的な理由か魔法的な理由か。
水はすぐに凍りそうな気がするんだけどね。
ビュンビュンとトバしてそれっぽい地形の所に到着。
確かここらへんは縄張りと縄張りの合間らへん。
ココまで雪が深いとオジサンの痕跡を探すのも大変だろう。
まあしらみつぶしに探すしか無い。
ディテクションを起動してレーダー作動。
といってもわかるのはいるかいないかぐらいか。
いや、待てよ?
私は進化時の魔力を使って強化ディテクションを唱える。
この体中に既に魔力があるから、わざわざ一度詠唱キャンセルして魔力をためる必要が無くて楽だ。
強化ディテクションは私の6感に補助をかける。
進化して増したあらゆる感覚にさらに力が増す。
ちなみに6つ目はスキルの魔感である。
そしてそれらを駆使してレーダーに委細な情報が書き込まれていく。
遠い所に落ちた針の音だって、今なら聴き分けられる気がした。
普段のレーダーはミニマップ程度だが今のレーダーはエリアマップといった所。
この付近全体の地形から動く動物、探している相手を導き出す。
警戒の魔法をホエハリ探しの魔法に変化させているわけだ。
この近くの地域全体のデータが私になだれ込んで来る。
だが私の頭や魔法は機械的に処理しレーダーとして写してくれる。
これぐらいなら情報過多で苦しむことにならないようだ。
しばらくするとレーダーがピックアップした反応を見つけた。
多数の戦闘中反応のうち1匹にオジサンかもしれない反応を見つけた。
後はナビゲーションの示す方向へ足を運ぶだけだ。
再び私は風のように駆けた。
視点変更
ツイてない。
まったくもって今日はツイてないとそのミリハリは考えていた。
ホエハリから進化したその姿は赤く美しい。
しかし今ばかりは土と傷で汚れていた。
目の前に広がるのは多数の鳥籠。
鳥籠の中身は空だ。
鳥籠が宙に浮いた鳥の足に引っ掛けられている。
足はどこにもつながっていない代わりに瘴気を纏い見るものを恐怖させた。
それが10や20ではすまない数がミリハリを追い込んできた。
背を向けようとすればアッサリと背を裂かれるだろう数。
防戦一方にならざるをえなかった。
ここは彼にとって何度も通った土地だ。
森の中で開けた場所で普通の巨体を持つ敵をやすやす見つけやすい。
潜伏には向かない分待ち伏せを警戒しなくていい所のはずだった。
ツイてなかったのはそこに彼らがわいた事。
まさにわいて出たように突然現れたのだ。
潜伏するためのスキルか魔法を使われたのだと襲われて初めて気がついた。
鳥籠たちからは雄鶏の鳴き声が響く。
ただの声ではなくそれそのものが音波として、さらには空気の振動が叩きつける力として降り注ぐ。
大量に飛んできた攻撃をミリハリは避けきれず最後には防御で防ぐ。
耳を塞ぎたくなる叫び。
全身がビリビリと震わせられ筋肉や骨が軋む。
だがそれだけではない。
あまりにも不快なのだ。
耳から入る音だけではなく全身に浴びせられるそれは、呪いの音。
全身が怖気立つそれがえぐるのは身体ではない。
精神だ。
聴けば聴くほど身体を維持するための心が砕けていく。
身体を操る精神が劣ればどんどんと正常な判断がつかなくなる。
動いて無くても疲労し動揺し身体は固まる。
つまりは本来の能力が徐々に発揮出来なくなる恐怖。
ミリハリはその攻撃の危険性を正しく理解していたからこそ、焦った。
身体が持っても狂気に落ちれば助からない。
心が持っても弱った身体に殴りかかられれば死ぬ。
「クッ!」
水魔法を圧縮した直線状に放つカッターとして撃ち出し薙ぎ払う。
1体でも落ちろと願った攻撃。
しかし激しい音をたててカスリはしたがふわふわ浮いているせいでイマイチ入らない。
心の中で舌打ちはした、がこれは本命ではない。
余裕しゃくしゃくと避けた鳥籠の頭上に当たったのは先の尖った石。
それが大量に降り注いだ!
発射地点を上空にしたストーンショット。
上空から下へ撃つようにされたそれらは先が尖っていて相手を殺すための形をしていた。
激しい着弾音を響かせながら重力の力で降り注ぐ石の雨。
避けた後にさらに避ける事を強いられる鳥籠たちは大慌てで避けたり防いだりした。
だが次々と脚や鳥かごを貫通し赤く血を散らす。
壊れた鳥籠の中身は景色が歪み、中には息絶え絶えで苦しむ雄鶏がいた。
霊の魔法で隠れていた本体だ。
ここから快進撃と思いきや鳥籠たちも反撃に出た。
降る石は無限ではない。
用意した数だけしか落とせない。
鳥籠たちが防御をしながら激しく鳥籠を回転させると石を弾き返す。
全ての石が落ちた後にもやっと20を切る数がその場に浮いていた。
鳥籠が壊れて本体が逃げ出したり、本体ごと撃ち抜かれていたものを見て鳥籠たちは思う。
これ以上は危険だと。
狩りは一方的に行わなくてはならない。
こちらが死ぬ数が多かったら意味がないのだ。
だから。
一斉にミリハリへと襲いかかった!
「させるか!」
二者の間に火球が降り注ぐ!
驚き火を浴びせられた鳥籠たちはあわてて身を引く。
それと同時に驚愕したのはミリハリ。
この火球は彼が撒いたものではない。
スタリと隣に着地した者を見てさらに驚いた。
それはホエハリが進化した姿。
色などは違うが確かにそう見えた。
「キミは……」
「お久しぶりです、オジサン」
その頭にはねている毛といい、いつかみたあのホエハリの仔の面影がある。
そうオジサンと呼ばれたミリハリは感じ取った。
視点変更 主人公ローズオーラ
間一髪間に合った!
今度は私がオジサンを助ける番だ。
戦闘の気配がしてから自身への強化魔法は済んでいる。
オジサンと協力して倒そう。
「詳しい話はあとで、とりあえずコイツラを倒しましょう!」
「ああ!」
[キラーコッコLv.28 状態:霊化・死霊操作]
[キラーコッコ 鶏型の非常に凶暴な鳥。霊魔法の呪い絶叫を使った連携プレイで敵を確実に仕留める。クイーン以外は全てオス。]
[言語解読と観察のスキルにより言語学習が開始されます]
また頭痛が始まる。
ただ無視できる範囲だ。
にしても鶏型と書いてあるが籠が浮かんでいるようにしか思えない。
いや、鳥籠が壊れている所に雄鶏が倒れているからアレかな?
霊化というので籠の中に隠れているのならやっかいだ。
多分外を先に壊さないと中の本体にダメージ入らないとかそういうの。
一度こいつらを吹き飛ばそう。
サウンドウェーブ!
音量じゃなくて、空気の波を風のように引き起こしてぶっ飛ばす!
……何!?
音が霧散した!?
カーンみたいな変な音が鳴って相殺された?
音の技が無効なのか!?
「来るぞ」
オジサンがそう短く告げる。
敵意の圧力が増した。
しまったな、今ので向こうの士気が上がったらしい。
途端に空気が揺れるほどの叫び。
うるさい!
いや、なんか物凄い不快!?
防御していても染み込んで来るような気味の悪さ。
振動自体も身体を破壊しそうな威力。
地面ごと後ろへ押された!
これが呪い絶叫!?
うう、つらい。
この攻撃、恐ろしく心に来る。
一度止んだもののすぐに次が来るだろう。
長引かせちゃダメな相手だ。
「オジサン、私ちょっと暴れますけれど、気にしないでください」
「ああ」
範囲化ヒーリングで自身とオジサンを癒やす。
そして真っ直ぐに敵に向かって駆ける。
"私"の出番だ!!