五百三十六生目 駆引
「さあ、奪い返してみよ!」
召喚獣デザイアがにやりと笑う。
召喚者ロウソウは定期的に隠れる位置を変えていて倒しづらい。
さらに……
魔法を奪われた。
正確には私の魔法を放ったものを私が使えなくなり相手はかわりに唱えられるように。
倒さないとおそらく帰ってこない……
しかも『宣言』により魔法以外はこちらは使えなくさせられている。
ゴブリン型ハリネズミのデザイア。想像以上に厄介な相手だ。
「風を!」
「別の魔法を……」
使ったら消されるかもしれない。
ぶっちゃけそれはかなり怖い。
魔法の一覧は無限ではない。
アインスが土魔法"ストーンフォール"を精霊に唱えさせ相手は風の大きなカッターを複数放つ。
"ストーンフォール"は相手の真上に発生する魔法。
対して風のカッターは複数箇所からこちらへ楕円軌道を取ってくる。
互いに噛み合わないということは防ぐ必要性がある。
剣ゼロエネミーを大盾モードで正面を塞ぎつつ走る!
案の定盾を迂回する軌道に急変化した!
おそらくは追加の魔力を用いたりして事前に途中でもう一度狙いをつけなおすように仕組んであるんだ。
厄介だ!
「大きい」
「うわっ」
広く取ってあるとは言えそれぞれの戦闘場所領域がある前提だと地下室はやはり狭め。
空に岩が魔法であると気付いたデザイアだったが間に合わず落下する岩の下へと姿が消える。
そしてこちらも大盾に風カッターが切り裂いて来たり盾すら迂回して私自体を切り裂く。
跳んで下がって盾で防ぎそれでもスパッと端がいくつか斬れ黄色い血が噴き出る。
生命力はまだあるから血はすぐにとまるが……そろそろ光魔法"ヒーリング"しよう。
手早く唱え身体が淡い光に包まれる。
生命力6割……7割……
ッ!? 大岩が突然砕けた!?
噴煙の中からデザイアが!
「貰ったッ」
「格闘だ!」
デザイアが急接近し大盾を手で払い除けた!?
物理的干渉がこちらからは無理になったのがこんなところに影響も……!
そのままもう片方のまだ風を纏っている手で私を殴りかかる。
「ウッ!」
急いで両腕を組んで守ったため痛みはあまりない。
互いに跳んで距離をとって……あっ!?
光が消えて!
「回復魔法、いただいた」
「まずい……」
貴重な回復魔法のひとつが!
攻撃魔法よりも回復魔法は遥かに数で劣る。
まだあるが……1番使いやすいやつだったのに!
「片腕にだけ強奪の能力を残しておいて良かった。ただ………少し痛かったな」
ふむ……?
デザイアはどうやら右腕と左腕にそれぞれ魔法を同時詠唱できる枠を用意しておくようだ。
ただ風をまとわせる魔法を奪うスキルと同じ腕を使えないと。
おかげで"ストーンフォール"も使えなくなったが目に見えてデザイアにダメージが入った。
だが生命力という部分や実質的な肉体がないから時期にまたちゃんと動けるようになってしまう。
致命傷をあたえたわけでもないし。
だがチャンス!
あえて接近する!
「奪われに来たか?」
「どうかな!?」
近くで身構え放つ魔法はコレ!
空魔法"ディメーションスラッシュ"で手先から大きな刃を生み出す。
「もう一度、スティールハンド!」
召喚者ロウソウが叫びデザイアの両手が風の光で覆われる。
身構えようとしたデザイアは刃を見て思わず足を下がらせる。
「この魔力! 違う、まさか!」
「やああ!」
「召喚者防げ!」
体ごと横回転してぶん回す!
重い光がしなって伸びてゆき広く周囲にのびて輪になる。
そう近くにいたデザイアすら越えて。
これは光の当たっているところから外を切り裂く!
もう遅い!
デザイアが光に触れに行く前に発動!
何かとても硬い物が斬れる音と共に風景が歪む。
風景の奥。端の木箱裏に隠れていたロウソウごと光の線を境目にズレる。
次の瞬間には強い力で風景が修復された。
これは空間ごとぶった切る魔法。
だが空間はすぐに自己修復する。
……斬られた物はそう完全にはいかないが。
木箱はそのまま斬れた部分がズレ落ち背後のロウソウはガードが間に合っておらず背中から血を噴き出した!
生命力をいまので1本以上削った! あとひとつ!
流石に強いだけあって今ので死んだりはしていない。
光の終わり際にデザイアが触れて強奪されてしまったが収穫は大きい。
これは奪われてもデザイアはそうポンポン使えない。
召喚者が死ぬ。
「カハッ!? い、生きている……?」
「しっかりしろ、空間ごと斬られただけだ」
「な、なんだそれは、メチャクチャだ……」
召喚獣を操り魔法をバンバン奪う側には言われたくない。
「早く回復魔法を」
「そ、そうか、回復魔法をくれ!」
「させるか!」
デザイアに指示を出したところを狙い土魔法"Eスピア"!
「「ウワァッ!」」
地面から土の太い槍が出てデザイアたちがなんとか反応するものの当たる。
直撃ではないが吹き飛ばしまた生命力を削れた。