五百三十五生目 奪取
召喚獣デザイアと私が広めの地下室を所狭しと駆け回り近衛騎士団長ロウソウが物陰からデザイアに指示を飛ばす。
互いの魔法が飛び交い危険地帯と化していた。
私の真横を氷のつらら槍が飛びかすって毛を散らす。
「能力の上級化をしてあったか。これでは防ぎきれん。が、今の身体ならば召喚者さえ守りきれば問題はない」
「強がりを言ってられるのも今のうちさ」
「何。私は少しばかし欲張りなんだ。私に勝ちを譲ってもらうよ。かわきを満たすためにね」
相手の魔法はすべて上位だと思う。
さっきから相殺されずに当たってしまうし。
とはいえ直撃はしていない。
まだ大したダメージはないがそれは向こうも同じ。
召喚者ロウソウが自身の行動力が尽きないように小型の魔法を少しずつ唱えてきている。
雷撃の魔法が飛んできて剣ゼロエネミーでガード。
剣ゼロエネミーは電気と土魔法を吸収してしまう。
相手のデザイアが顔をしかめるのを見た。
「電気はダメだ！ 通らない！」
「なら……風魔法！」
「ハアッ！」
召喚者のロウソウが叫び呼応するようにデザイアも吠える。
私はホリハリー状態だとはっきり言って速くない。
ドライが"すり抜け回避"も使いつつ避けきれない場合は多少の生傷は増やしつつも生命力はそんなに減らしていない。
デザイアが腕を軽く突き上げて唱えている間はこちらの番。
唱え終わった精霊含む3つの魔法をぶち込む！
[エレクトロトラップ 電気魔力の拠点2つを作る。2つ以上から間に電撃が走る]
まずはこれを放つ。
2つ放たれ目の前2箇所に広がりデザイアとの間に1本の電撃罠が広がった。
精霊1つめは聖魔法"ホーリースラッシュ"で量をたくさん配置。
「ハアッ！」
順に放って逃げ回らせる。
デザイアはそこそこ速くコレではそう当たらない。
もうひとつの魔法は……
土魔法"ロックボーン"！
棒状の石が発生して激しく横回転しながら相手へと向かう。
緩やかな曲線を描き進路上に襲いかかる！
「うっ！？」
デザイアは"ホーリースラッシュ"を避けたはずの先に"ロックボーン"が来るのを避けられず腕で防ぎつつも当たる。
力負けして壁へと吹き飛ばされた。
だがすぐにこちらに風魔法が飛んできた！
風そのものはあまり痛くなくとも風魔法はたいてい風が具現化している。
つまりは固く重いものが風の勢いですっ飛んでくるわけだ。
今は大きなボールのような光でとんできている！
だけれども直前上だから横に逸れて……
なっ！
「曲がった！？」
急にクンッと角度を変えてきた！
身体に当たりドライは衝撃を殺すために後ろへ私の身体を跳ばした。
「くっ！」
空中で姿勢を変えて壁に着地。
そのまま壁を蹴って地に降り走り出す。
身体がビリビリと衝撃で痛むがドライは私でもよくわからないくらい手早く動いてくれる。
「フゥー。風は効いた。だいたい把握できたか？」
「ああ！ 冷気と風ははっきりと通るみたいだ！ 逆に他は怪しい！ 雷と大地はあの剣に阻害される！」
「そこまで分かれば十分。反撃に出る！」
次の"エレクトロトラップ"含む魔法たちを準備中にデザイアは両手を身体の前で広げ低く構える。
サッカーのゴールキーパーのようだ。
何をする気だ？
「スティールハンド！」
「ウイング！」
ロウソウが叫ぶとともにデザイアが動き出す。
風の光がデザイアの手を包んだ。
そのまま電気の罠の拠点ひとつに向かう。
また魔力を打ち払って罠を壊すつもりか！？
アインス！
（そっこーまほうだ！ それ！）
土魔法"ストーンショット"でアインスが精霊に頼み速度重視で放つ。
山なりにとぶ石だが落ちる前に被弾するだろうというコースな程に高速！
間に合う！
「ハアッ！！」
風の右手でデザイアが石を触った！？
さらに逆の手で回転しつつ設置した電気の罠に触れる。
――両方共まるでかき消えたかのようになくなった。
……アレ。
「さっきまで唱えていた電気の魔法が、使えない！？」
「私はね。相手のものがなんでも欲しいんだ。お前の魔力解析に手間取りはしたが……もう遅れは取ることはないだろう。私は、勝った」
ぐっ！ "ストーンショット"と"エレクトロトラップ"が詠唱できない！
脳内でみえるリストでも空白になってしまっている。
「確か……こうだな！」
2つの電気が相手から放たれた！？
私の目の前まで来て２つの間に電撃が走り出す。
これは"エレクトロトラップ"！
まさか……奪われた！？
急いで走り込みスライディングして電撃の下側をくぐり抜ける。
電気のビリビリとした音が耳をつんざく。
「さあ、奪い返してみよ！」
