五百三十三生目 試練
蒼竜と共に潜入した上級王城地下。
そこに待ち構えていたのは魔力送信する元の珠に上級王トウトウに黄金の鎧騎士ロウソウだった。
「1つ目は、人質をとられ脅されていた……」
「そして2つ目。明らかにこっちの意思など関係なく暴虐を振るいそうな相手に、国という人質を取られたからといって、はいそうですか、としたがってロクなことになるはずはない。商いの街を治める上級王が、これほど簡単な事を理解していないはずがない」
「もちろんだからといって正面から襲いかかっても、相手は帝都軍を打ち破る猛者。無駄に犠牲を出すし、今は国民も戦争意欲がとても低い。目に見えて負ける戦いを、徹底抗戦と称して抗うのは、まさに『採算が合わない』ね。ではどうしたか?」
蒼竜が帽子を抑えつつカッコつけポーズで指を鳴らす。
そして私に手を向けられた。
もしや今ので私に話投げられたのか……
正面突破は無理と判断した。
けれどテロ組織みたいなやつらである魔王復活秘密結社カエリラスの指示に従うわけにはいかない。
だったら何をしているのか……もしかして。
「……指示に従ったフリをした?」
「良いところを突くね! さすが助手だ」
「ええ。ワシらは監視の目をかいくぐり、抗戦組織の結成に成功しました。指示に従い結界装置を隠しつつ……同時にワシたちの動きも隠したのです」
上級王トウトウが威厳あるしわがれ声でそう離した。
レジスタンスというわけか。
いや本来はこっちが正規軍なんだけれど。
「そして我々は秘密裏に情報を流した。有能な者に、有利な相手に、我々のように抗うために、抗う力を持つものを」
「重ねて恥ずかしい話だが、ワシらは間違いなく実力不足。精鋭を揃え、相手の心の臓を的確に突かねば勝つことはできん」
「トウトウさまとロウソウさんの言うとおり、相手が帝都軍を打ち破っているとなると正攻法では無理だから、カエリラスの親玉を的確に潰すしか無い。けれどそれは、刺すだけの刃があってこそ」
「軍は、確かに集団戦は得意でも、相手の懐に潜り込んで暗殺みたいなマネは……あっ、もしかして試練って……」
近衛騎士団長ロウソウが腕を組んでうなずく。
ううむマジか。
「見事、ここまでの道のりを解き明かしてくれた。最近事件をまたたく間に解き明かすという名うての者が市民にいると聞いていたが……ここまでとは」
「なあに、そーくんこと僕にかかればこんなものですよ。身体を張る仕事を担当する助手も優秀ですしね」
「……なるほどそーくんに情報を流して、上級王たちのホンキを解かせようと……ってえ? 身体を張る担当?」
蒼竜はどうやらその筋ではちょっと有名な人扱いされているらしい。
実は人ではでないし神さまだったりするが。
知らぬが仏。
ただ何か不穏な空気が……
「気付いた点3つめ。ここまでやってくる一連は、ただカエリラスの言うこと従って本気で隠しただけではない。実力者を見極める試練としても利用したわけだ」
「お見事。本当に申し訳ないが、ワシらは今は有能な味方が少しでも必要で、このような形を取らせてもらった」
「では、あとは私達に何を見せてほしいか……お察しですか?」
なんだかかなーり嫌な予感がする。
「彼らはあくまで脅され協力している立場。カエリラスの言うことそのものは聞かなくてはならない。そして彼らがここを守っているとすると、答えは一つだね、助手」
「……力を示せってことですか」
「ああ。それに、俺よりも、ましてやあいつらから渡された石ころよりも弱い者を、カエリラス抗戦組織に入れるわけにはいかない」
近衛騎士団長ロウソウは懐から宝珠を取り出す。
召喚獣を呼び出すものだ……うへえ。
「というわけで助手、頼んだ」
「えっ」
「手合わせ願おう。召喚!」
「えっ!?」
蒼竜はささっと上級王の元へ向かい共にこの開けた場所から逃れる。
あっあやつ丸投げしおった!
絶対蒼竜の方が強いのに……!
ロウソウは宝珠をかかげると光が灯る。
床に召喚門である魔法記述が描かれる。
そしてロウソウの足元には魔法陣が発生。
「契約において喚び出す! デザイア!」
召喚門か輝き地面から何かが出てくる。
強大な気配を放ち人型のようなシルエット。
長く大きな耳がピクピクと動く。
光が消えはっきりと現れたその姿はまるで人型のハリネズミ。
それなのに猫のような2本の尾を長く持っていた。
耳はゴブリンとか猫のものが混じったかのようだ。
「デザイア、契約により今参った。しかし貴殿はあまり乗り気では無かった気がするが?」
「少し事情が変わった。彼女が相手だ」
「ふむ……我ら召喚獣は従うのみ」
なりに似合うか似合わないかはともかく低く通る声でデザイアという召喚獣は話す。
腕を組み堂々とした構えだ。
私も構えておこう。剣ゼロエネミーを空魔法"フィクゼイション"で空間ごと掴み念力のように浮かす。