五百三十ニ生目 脅迫
蒼竜と名乗る青年と共に王城の地下までやってきた。
廊下の光が次々灯り奥の扉まで見えるようになる。
あの先が……
「ついに確信へとたどり着くようだね。さあいこうか助手」
「ああ、ちょっと待っててください、今補助魔法唱えまくっているんで」
「……ガチガチだね。複数の意味で」
階段降りている途中から唱えていたし精霊たちにも頼んで魔法をぶん回したのでやっと唱え終わる。
たくさん魔法があるというのもこういう時大変だ。
普通ここまで補助魔法を使うとそれだけで行動力が尽きてしまうからやらないんだろうけれど私は"無尽蔵の活力"で大丈夫だ。
よし! 終わり……ってアレ?
「ほらいくよー」
「早い!」
すでに蒼竜は扉の前。
慌てて私も追いかけるがさっさと蒼竜が扉を開き中に入る。
私もすぐその後に続いた。
中はすでに明るく開けた空間になっていた。
天井も結構高い。
そして中央に台座。
結界に守られてはいるが魔力の送信場所らしく台座の上には珠があり輝いている。
スクロールで可視化してもやはりこの珠から魔力エネルギーが送信され続けているようだ。
つまりこれを破壊すれば……
「……お客様の御出座しのようだね」
「やはり、誰かが……!」
奥の扉から二人の気配がやってくる。
急襲するでもなくそのまま歩いて扉を開いてきた。
……1人目は鎧を着込んだ男。
それは衛兵たちとは比較にならないほどにきらびやかな鎧。
この世界の飾り付けのような武具はただの飾りではない。
大抵は魔法的強化や特別な力が込められており強力無似非。
金色の鎧だなんて前世ではファンタジーそのものだが……この世界はそのファンタジーに片足突っ込んでいる。
奇妙な鎧な方がむしろ恐ろしく本人の力を引き出していると考えたほうがいい。
[ハイヒュムLv.30 比較:少し強い 異常化攻撃:麻痺]
[ハイヒュム 個体名:ロウソウ
ヒューマントランス先のひとつで厳しい修行を積んだ者のみがたどり着ける領域。まさに達人の如き力を発揮する]
ロウソウという鎧の男は確かにただならぬ気配を感じる。
ただそこまでだ。武具の補正が大きいとは言えきっと勝てる。
だがもうひとりいる。
ゆっくり時間をかけて現れたふたり目は一言で言えば重厚な人物だ。
少し年齢を感じさせるが威厳ある佇まい。
重くかつ豪華の粋を集めたマントを含めた服装。
そして宝石で飾られた王冠。
この絵に描いたような王様風はまさか……
[ハイヒュム Lv.32 比較:弱い]
[個体名:トウトウ]
「じ、上級王!?」
「しかもおつきの近衛騎士団長もお揃いとは」
レベルが先程より上でも弱いのはニンゲンは特によくあるが経験を集めたものが戦いではないからだ。
彼は武器を振るうかわりに勉学に統治それに采配。
そういうものに長けているのだろう。
「ご存知のようだが、改めて挨拶を。私が近衛騎士団長ロウソウだ。そしてこの方は、我らが知恵の上級王、トウトウ様であられる」
「本当に、本当によくここまで来てくれた」
……なんだか様子がおかしい。
敵に対峙したというよりもまるで願いを叶える主が現れたかのようだ。
近衛騎士団長ロウソウからは今まで嗅いできた匂いがする。
「ふむ……なるほどね」
「蒼――」
蒼竜から無言で顔の前に手の平で遮られ言葉に詰まる。
蒼竜は小さく首を横に振った。
そうだった。彼は少なくとも帝国民にとっては本物の神なのだ。
「――そーくん、何か気付きました?」
「敬語もいらないよ。そうだね……まあざっと3つほどかな」
蒼竜はいつもどおりの調子に戻って不敵な笑みを浮かべる。
「ほほう、そちらの方は、ずいぶんと聡明な方のようで」
「ここまで難題を突破した貴君らに隠し立てはしない。説明を受け、最後の試練を乗り越えてくれ」
最後の試練……?
蒼竜は少し考えるそぶりを見せてからうんうんとうなずく。
「ピンと来ていない助手に僕が気付いた点を言おう。トウトウさまたちは脅されている。これが1つめだ」
「……ああ。情けないことに、ワシらは脅され屈した。だが人質が帝都そのものであり、この街も……いや帝都全土では、手出しができなんだ」
「我らの軍は資金力で非常に豊富な力を持ちどこにも引けを取るつもりはない……しかし、それは帝都を除いての話だ」
「最も身を固めていた国としての頭を、そのまま狙われ奪われてしまった。それに帝都自体は多くの内乱を経ている。いくら上級王が帝王と親身であっても、そこは覚悟しているし、国民たちも歴史的に慣れている」
「けれども、国同士ではなく魔王を復活させようとする者たちに……犯罪組織みたいなやつに乗っ取られれば、当然抗議を出すけれど、そこで相手が切ってきたカードが……人質なんですね」
トウトウとロウソウは当たっていると賛同を示した。