五十一生目 自由
挨拶の後は報告。
こちらはまあ、適当に誤魔化しつつも正直に伝えた。
具体的に誤魔化した部分は誰と誰が戦っていたかという点。
それでこの場所の惨状が判明したミニオークはやっと一息つけたようだ。
「なるほど、まあもう安全なら良いんですが……おっとそうだ。
他の仲間は洞穴で待っているんで、そちらへ」
促されるまま私達は洞穴の方へ。
中ではガチガチに固めたミニオーク部下たちと3人の冒険者組がいた。
そこで一通り先程の工程を繰り返して落ち着かせる。
ミニオークたちはニンゲンの町へ買い出しに行ってきてもらった。
そこでお小遣いを渡して使い切らないように指示している。
物が詰まっていそうな箱や袋を見る限り、算数はちゃんと出来ていたようだが。
あとは残額だ。
「ようし、じゃあ俺様たちの活躍をとことん聞いてもらうぜ!」
活躍……というか実にまともな内容だった。
目つきが鋭い相手にケンカを売らなかったとか。
おつりはごまかされずに全部計算したとか。
悪質品を掴まされなかったとか。
盗まなかったとか。
ごくごく当たり前だが、彼らにとってはあまりに大きな変化だ。
法律を遵守するという普通が出来るまでが大変なのだ。
そして。
「ほら、金だってまだあるぜ! みんな使い切らなくてもビビらなかった!」
そう言って袋に詰まった硬貨を見せてくれた。
自分のものが夜寝る間に消えてしまうという恐怖。
その恐怖に打ち勝てたらしい。
「すごいじゃあないか! 大進歩だ!」
「いやあ、照れますぜ旦那!」
彼らは資産をこうして手に入れるようになった。
順調に成長しているようで何よりだ。
素直に褒めると赤くなって照れた。
報告会のあとはいつも通り授業だ。
アヅキも参加させてプライバシーについても教えた。
冒険者3人組にも依頼料をはらって手伝ってもらったので負担は減る。
まあ、みんなアヅキから威圧感を感じていたみたいだけれど。
対してアヅキはこの洞穴についてから抑えられない欲が高まっているらしい。
「グフフ……少年がこんなに……おっと」
なんて言ってるかさえわからなきゃキリッとしているのに。
ド安定のショタコンだ。
こいつオスのはずだが、種族的なものだから仕方ないのか。
まあオスでも好きになるものは好きになるよね。
ミニオークの子分達はみんな中学男子。
ボルテージ高まって大変な様子だ。
それでも大事は起こらなかったので良かった。
その後は制作。
今回は簡易な小屋でも作れるように色々道具が揃っている。
斧にノコギリみたいな加工のためのもの。
くっつけたり釘うったり結んだりと色々やる道具はニンゲンの町で買ってきてもらった。
設計図や作り方は私の前世サルベージでなんとかしたが作るのはニンゲン方式。
つまり腕があるやつじゃないと作れない。
「ミルガラスのアヅキ君、君に指示を与えたいと思う」
「はっ。アヅキ……? いえ、それでなんでございましょう」
「ああ、ニンゲンでいう名前みたいなものだから気にしないで」
名前文化が無いから何度も繰り返し言って慣らすしかない。
疑問を持たれたようだが、そこは良い。
「キミにここでニンゲンと協力してニンゲンの巣を建築してもらいたい」
「はっ。命令であればやりますが、なぜニンゲンを?」
「子どもたち見てて良いから」
アヅキの目が変わった。
「誠心誠意やらせていだきます! ご配慮ありがとうございます!」
わ、わかりやすい……
ほどほどに勘違いしてくれたが、もちろん目的はその力。
そして彼の協調性を鍛えるためだ。
アヅキは貴重な自由に動かせる腕と指を持つ。
剣を振るう程度楽々出来るからね。
ニンゲンに混じれば凄い力が発揮できるはずだ。
それに頭もいいし群れで過ごすのも慣れている。
言うことさえちゃんと言っておけばとても良い効果をもたらすはずだ。
さて。
アヅキを人たちに任せ私は抜ける。
冒険者3人組と細かく詰めていたし大丈夫なはずだ。
「では、後は任せた」
「ああ、約束の大剣も貰えたしエリのために胸当ても考えてくれるんだって? もちろんやるさ!」
前約束していたプチオーガのために大剣を作れたので渡した。
そして今度は銃使いのレッサーエルフのための防具作りだ。
レッサーエルフの銃が出来れば良いんだけれどね。
魔法が混じった銃だとどうすればいいかまるでわからない。
なので代わりの胸当てだ。
そうして洞穴での目的を果たして離れる。
う〜〜ん!
自由だ!!
よしよし、やっとオジサンを探しにいけるぞ!
縄張り内ならばかなりの範囲探索済みだ。
そこから以前オジサンと出会った近くの位置は探してきている。
とは言ってもそのままだとまだまだ分からない。
そこで利用するのは小川だ。
この小川は縄張り内にも流れていて、スライムも魚もよくいるところだ。
小川の中で繰り返される勢力争いでスライムと魚たちの棲息分布が良く変わっている。
どちらにせよ強い敵は少なくてホエハリたちは良く利用するものだ。
そしてこの小川は上流に向かって進めばいずれ縄張り外に行く。
縄張り外へいけばいずれ巨牙虎に見つかった場所までいけるはずだ。
ハートペアに聞いた話ではこの小川は多くのホエハリ族が複雑に縄張りに含んでいる。
集団で行けば揉め事になるが、1匹がウロウロする程度では気にもされないだろう。
縄張り外の地形もハートペアやクローバーペアから聞けるだけは聞いてある。
とは言え行くのは初めて。
迷うことはしないようにしなきゃね。
小川を辿って迷子にならないようにしなくては。
自身の前脚に牙をさしこむ。
ひええ、怖いって。
嫌な感触と共に血がちょっとだけ口内にでてきた。
ゾクゾクとする味。
パパッと準備を整え"私"の仮面を被った。
進化!
もはやこなれたものだがここでの高揚感……いやむしろ万能感は何度味わっても危険だ。
一歩踏み間違えれば力を振りかざして荒らしまくるクズになりそう。
そのリスクすら"私"は愉しむ。
その分は私が制御する必要があるのだ。
身体を横向きに小川を覗き込む。
実は進化時の姿をじっくり見るのは初めてだ。
いつも緊急性にかられていたり、誰かに見られる時だったからね。
綺麗なヨーグルトカラー、つまり白っぽい毛並み。
そこの横腹に走るのはホエハリ時の鮮やかな青。
その色でバラのツタのような模様が数本。
バラのツタがトゲで相手に傷をつけ、白い花を赤く染めるとかそんな感じ?
あまり自然のデザインにそういう推測しても意味がないだろうが。
そして額にはまるで第三の目のような模様。
色は同じく鮮やかな青。
この外観が"私"を表しているのなら、この第三の目みたいな模様は私なのかな。
なんてね。
尾はポンポンがなくなっているけれどバラのトゲのようにちょっとささくれた部分がある。
長さも増しているためこれを振るだけで十分な痛手だろう。
そして背中の針。
種族術でコントロール可能だ。
きらめいているが意識すればキラキラは止められる。
それにねかせて安全にもなるから便利。
やはり進化という魔法は『自身の肉体と精神を強化して変化する魔法』だ。
精神も強く変わるために自身の中にある別の部分を必要とするわけだ。
それまでだけでは足りないんだね。
よし、後は自分を改めて観察。
[ミリハリLv.27]
[ミリハリ 固体名:ローズオーラ
ホエハリの進化した姿。
元となった魔力ベースで少しずつ姿が変わる。種族術で背の針を自在に操る。]
この状態の私はミリハリという。
ミリハリの説明も背の針を動かす術に関しての言及だった。
気になることはこれで確認を終えた。
さっきの牙で傷つけたのもヒーリングで治したし、縄張りの外へ行こう。
脚に力を込めれば羽根のように軽く身体が跳んだ。
そしてそのまま駆ける。
うひょー、目の前の光景がグングン後ろへ行く!
楽しいけれど"私"では殺気をまき散らしまくって走るどころじゃなさそう。
私が余計な気配を撒かないようにコントロールしつつ走る。
あの日の場所を探して!