五百二十八生目 功夫
「なるほど……確かにこれは魔法錠だ。でかした。ここからはまかせたまえ」
怪しい青年こと蒼竜とたまたま行く先がかぶった私。
この家の地下から結界に送られる魔力が供給されているのはわかった。
しかし地下への道っぽいものは魔法錠で閉まっていた。
全体の解決には一切のやる気が感じられない蒼竜だがこの件だけに関しては興味本位で動いていくれている。
神さまだけにうまく支えれば勝手になんとかしてくれそうだが機嫌をそこねただけで帰りかねない。
勝手に神の助手認定されてしまったが返上もできず今にいたる。
蒼竜は見事な手際で魔法を構築し穴のない魔法錠に対してピッキングを仕掛けている。
かなり絵的には悪人側だが魔法としては便利そう。
どういう仕組みなのか覚えておくかな。
「ここを……こうして……こう!」
ガタッ。
「……ええと、今の鍵を間違えて入らないみたいな音は?」
「ハッハッハッ、これからが本番だよ! ……そら!」
ガチャリ。
今のは開いた音っぽいな。
蒼竜がニヤリとして壁から離れると急に壁に亀裂がはいる。
しかも均等に真四角ずつ。
壁が蠢き真四角に切れた壁たちがブロック状に分かれていく。
そのまま踊るようにブロックたちが分かれていくと。
壁だったブロックたちが奥に部屋を構築していく。
最終的に落ち着く頃には新たに地下へと続く階段のある狭い1部屋が出来た。
「おお、こうやって隠していたのか……!」
「どうだい? 蒼竜君にかかればここまで完璧に見通せていたのさ」
「……ええと、じゃあ今後もよろしくお願いします……」
「まかせたまえ!」
ノセておくことにしよう……
地下への階段はまた魔法的な仕掛けがあった。
広い異空間にたどり着いたかと思うと階段がどんどんと下へと作成されていく。
その分私達の後ろ側は消えていく。
歩いていくたびにそう動くのでなんだか落ちそうでヒヤヒヤする。
まあオシャレではあるが。
「フーンフンフフンフフーン」
蒼竜は何も気にしていないらしく前をどんどんと歩いていく。
たくましいものだ……
少し歩むと扉にたどり着く。
蒼竜は手をかざして――止まった。
「これ……もしかして……やっぱり」
「どうしました?」
「なあに。助手も近くで見れば分かるさ!」
手招きされ扉に近づく。
……ううん?
よくわからない……あ。待てよ。
たしかに見た目はただの金属扉だけれど触れられているにおいの位置がおかしい。
それと……わずかだが薬物っぽいにおい。
「罠……ですか? 毒の」
「そのとおり! 正しく開かないと罠が発動するみたいだね。しかもこんな落下しそうなほどに狭い場所だから避けようがない」
うーん。蒼竜の言う通りこの異空間は底が見えない。
足場も狭いし……
どうするか。
「罠解除はできないんですか?」
「まあ、できないことは……神だし不可能はないけれど……ほら、同じようなことの繰り返しは華がないだろう?」
「できないんですよね?」
思わず突っ込んでしまう。
この狭い場所で踊るように手を差し向けさも同意を得られるように言ってきたけれど。
蒼竜はすぐに持ち直して扉の方を向く。
「なあに、だからこうやって解除するのさ!」
蒼竜が拳を握りしめ光が燃えたぎるように赤く輝く。
そのまま金属扉へと叩きつけた!
大きく凹みそのまま扉が奥へ吹き飛んだ!
「やってて良かった、ニンゲンのブジュツ!」
「武術がどうのこうのの範囲ですかねこれ!?」
「巻き込まれた相手もいないし、罠も破壊された。さあ助手、中を探索しよう!」
止める間もなくワクワクしながらかけて行ってしまった。
ううん。これ絶対侵入したのバレたよね。
本当はこっそり潜入したかったのに。
最悪ダカシたちを"サモンアーリー"で召喚しよう……
中に入っていくとどこに繋がっていたのかはすぐわかった。
ここは下水道だ。
独特の洗剤みたいなにおいがする。
あまり詳しくはないのだが魔法による一次処理と棲みつく魔物による二次処理をしているらしい。
アノニマルースの下水道建設もそこらへんを参考に進めている工事だそうだ。
……あ。いたいた。
全身が泥に覆われているような見た目のスライムだ。
頭からは苔が生えていて少し美意識を感じる整え方をされている。
彼らは水場は水場でも汚染されている環境で生まれる。
いわゆる『毒』を食べる種族だ。
清潔な場所ではすぐに衰弱してしまうらしく常にこういうところにいる。
他にも毒を扱う魔物たちがここに棲むため立入禁止になっている。
ただそのおかげで水はきれい。
100万人都市の『毒』は川に排出されずに済んでいるわけだ。
彼らの大半は毒持ち以外には大して興味を持たない。
縄張りを荒らさないように行動しよう。