五百二十ニ生目 熱気
帝国の大都市のひとつ商いの街に入った。
大都市となるとやはり変わっていて高い壁があるのは中心部のみだ。
他は多数の低い壁と大きな通行用道が入り乱れている。
おそらくは何度も何度も増改築を繰り返しまくっているのだろう。
今も目の前で新しい建物を建築しようと工事現場がある。
今までの町は低い建物が中心だったのに増改築の繰り返しで建物が3階以上あるところも少なくない。
熱気が溢れ私達が好機な目で見られないほどに入り乱れ雑多で忙しそうで。
前世でも大きな技術と産業の革命があったころに人口が爆発増加したがまさにそれを見ているかのようだ。
大きく発展しさらに発展していくその過程。
そしてもうひとつの特徴というか。
どこを歩いてもまるで商店街!
建物の店前に屋台が立ち並び背負った荷物をその場で急に売り出す。
客もすごい。
ひとつのものを買うのにも1つ2つじゃなく箱買いをしまくる。
そして買ったものを自身の技術やら調理でさらに発展させ自分の店で売るのだ。
「あれ……売り物なのか?」
「値札は……ついているけれど」
「さあいらっしゃい! イキの良い魔物だよー! ペットにゃ向かんがこいつは強い! 鍛えてパートナーにいかがー!」
「売り物だった……」
檻に閉じ込められた大型の魔獣たち。
識別輪がついていない野生のものらしく良く眠っている。
"観察"……ふむ、『少し強い』くらいか。
この"観察"による強さ比較はなんども使って少しわかったことがある。
まず前提として『1対1で正面から殴り合ったさいにどれだけの確率で勝ち抜けるか』という情報だということ。
アンブッシュに立ち回りそれに地理情報や他者などは考慮されていない。
そのため『かなり強い』『とても強い』はその勝率が半分を切っているさいに表示されるらしい。
それと強さの隠蔽を私の"観察"が見抜けなかったさいも間違った表示がされてしまう。
この情報は信じすぎるのも問題ということだ。
とはいえ私と同等の強さの『かなり強い』とこっちを凌ぐ『とても強い』は警戒するに越したことはない。
負けはそのまま死ぬ場合もあるからわざわざ勝率が7割どころか5割の戦いにまっすぐ向かって殴って倒す必要はない。
それと『とてもとても強い』と『無謀』はダメ。
相性の良し悪しや作戦それにこっちの頭数でどうにかなる場合も多いが『無謀』はそれ含めてまとめて薙ぎ払われるだろうということ。
また単なる力の差だけではなく強い相手は戦い慣れも段違いだったりする。
それを相手のホームグラウンドでやることになったとしたらあらゆる道具を駆使して逃げるしかない。
例えばだが目の前の大型魔獣『少し強い』は見るからに野生だ。
野生の魔物はごく自然に学べる範囲の戦い方やスキル選択はするもののそれ以上ではない。
もし私と彼が正面からバッタリと出くわし戦うことになってもこちらは軽傷あるかないかで完封できるだろう。
これが技量差というやつだ。
ちなみに私達のメンバーで行けばみんなの攻撃でさっくりと戦いが終わるだろう。
あの大型魔獣はまあアノニマルースの面々ではないし良い魔物使いが飼ってくれるだろう。
当たり前だが帝国でも魔物は保護されている。
殺傷前提の取引……つまり素材にしたり使い捨てる前提の取引は禁じられている。
ウリ文句を聴くにブラックな売り方でもないからね。
彼が幸せな相手と見つかるのを祈ろう。
まああんなのがゴロゴロそこらへんにいるわけだから私達が改めて目立つはずもないか。
しかし困ったな。
ここまでニンゲンだらけだと私の用意しておいた魔法記述のあるスクロールを使えない。
それでは特定の隠蔽された魔法エネルギーの流れを探せない。
都市は各地で魔力が流れ光や炎となって使われている。
前世で言う電力の役割。
こっから探すのは大変すぎる。
だから誰にも見られない場所で集中して探したいんだけれど……
「うーん、宿が欲しいなあ」
ポロリと言葉がもれる。
「それなら! うちの宿はいかがですか!?」
「わ!?」
ビックリした!
背後から突然声をかけられた。
こんな人混みでは敵意以外はよくわからなくて素直に驚いてしまった。
しかし相手は気にすることなく笑顔で正面に回り込む。
さすがこの街で宿をやる程度にこなれている。
「いやー! 驚かせてすみません! 先程から見た所どうも旅のお方だなと思っていたもので! それに魔物も引き連れてらっしゃいますね? うちは大型の魔物舎があるのが特徴で、ぜひ一度見ていただければ気にいるかと!」
「じ、じゃあそこで……」
「はい! こちらです!」
思いっきり勢いに流されてしまった。
商いの街の熱気。少し甘く見ていたかもしれない。
みなで少しの間人混みを縫うように移動し続けた……