五百十九生目 暗黒
ダカシは語る。
暑くなってきた空の下で。
似たような季節の過去の出来事を。
ダカシのすべてが変わってしまったその日の話を。
「このまま大人たちが来るまで待てばいいと、俺は判断した。妹は違った。何か今更考え巡ったのか……いや、俺が未だ混乱し続けていただけだったのか。妹は飛び出した」
「妹は『助けなきゃ』と叫んだ。今振り返ればそれはおかしい行動だ。足を引きずってでも……止めなくちゃいけない。今でも夢に見る」
「だが俺は震えて動けなかった。妹が走り出した事を含めてワケがわからなくなっていた……結果的に何もできなかった……弱者の言い訳だ……」
「ダカシ……」
言葉に殺意がこもっていた。
本当に殺したいのは弱くて動けなかった当時の自分なのかもしれない。
それはあまりに……心を縛りすぎる。
「いつの間にか夜を迎えて、それでも妹は帰ってこなかった。喉の渇きにやっと気づいてひどく疲れていることも理解できた。そこまで時間をかけてやっと、自身が変にこわばって疲労をためていたことに気づけるほどに、冷静さを取り戻したんだ」
「夜闇に紛れておそるおそる村へ様子を見に行った。何もなかった。喉を潤す井戸の水はあっても、そこにいたはずの人々がかき消えていた。血の痕跡すらも……おそらくは偽装工作で、消えていた」
「最初にアイツに出会った場所に戻ったけれど、親も妹もアイツも消えていた……」
「本物の行商人が来るまで、俺は……幼かったから、ただ混乱していたな。あんまり覚えていないが、ひたすら探し回っていたらしい」
「あんまり覚えていないの?」
「ショックが大きすぎて、耐えられなかったんだ。幼い頃の俺には……」
いわゆる一時的発狂と言われるやつかな。
その後にもかなりの影響を及ぼしているが。
「まあ、その後はだいたい想像通りだ。俺は事の顛末を法に訴え、人に恵まれたこともあって、なかなかくだされない判決の復讐罪が適応された。まあ、今になって思うと……分からないことの多い事件で、犯人の断罪までの足取りすべてを投げられたようなものだが……」
「それでも俺はそれに縋った。例え、目の前で殺されたのを見た、親の仇のみしか認められていなくとも」
「そうだったんだ……」
今の話でもダカシが直接殺害現場を見たのは親だけである。
あとは拉致されたか世界のどこかにワープさせられたか。
不明な点ばかりしかないからか。
「親の死体を、みんなを、妹をどこへやったのかは最後までわからなかった。多分その時も正しいことに少し疑問はあった。けれど、正しくあるために、正しさを執行するために……俺は、強さを求めた」
「まさになんでもやった。強くなれるならどのようなことにも飛びついた。そのたびに、正しくないものは……悪は、俺が正さなくてはいけないと考えが固まっていったんだと思う。最後にはこのザマだ」
「経験値になれー! って叫んでたころだね」
「も、もうその時の話は良いだろ! 終わり!」
ダカシの話と休憩はそこで終わった。
再び旅路をゆく中で会話を頭の中で整理する。
詳しく聴くと……なんだか壮絶だった。
ただ。カエリラスのことだ。
ダカシの体験のように村まるごとニンゲンを消す芸当をひとつやふたつで済むのかどうか。
判明していないまるごと消滅の数もおそらくは……
やはり野放しにしていい勢力ではない。
……そういえばダカシとの昔といえば。
「そういえば、ダカシと昔戦った時に、上位スキルがどうのこうので魔法が消されたとか、言っていなかった?」
「うん? ……うん。言ったなそいや。それがどうかしたか?」
「いや……あれって結局どういうことだったのかなって」
「それ知らずにいたのかよ……」
明らかにうわぁって思われた。
ジト目されている。
知らないんだから仕方ないだろ!
「……まあ仕方ない。解説してやるか。さっきから俺が喋ってばっかりだな……」
「ごめんね」
「うーん……だったら実践しながらやるか」
ダカシの提案で開けた場所に移動し訓練戦闘を行うことに。
決まった動きを決められた動きで防いだりするものだ。
「まず俺の魔法……これは単なる火魔法だ」
ダカシが目の前に"フレイムボール"を生み出し発射せずに保つ。
あれ地味に訓練の必要な動きだ。
普通は規定時間どおりに飛んでいくもの。
「身構えるだけでいい……それ!」
「わっ! ……あれ」
火の玉は確かに私に直進しぶつかった。
しかし熱さを感じるまでもなくかき消えてしまっている。
確かに戦闘中似たようなことは……積極的に避けるようにしているから少ないけれど。
「今のは、俺のこの魔法に乗せた火力からお前の耐性の分を差し引きして、消されたということだ。レジストとか相殺とか言うな。魔法の無効化だ」
「な、なるほど」
「受ける側の耐性はいくつかの要素で決まる。大まかには魔法的耐性と上位能力の所持による特殊耐性だな」
そこだ。気になっていた特殊耐性とやら。