五百十六生目 揚物
「お、いたいた。おーい!」
「あ、インカ兄さん。それにハックも!」
「3つ同時持ちは落としそうだから早く落ち着けるところさがそー! うひゃー」
インカとハックに合流した。
インカは串を6本。
私はカツ3皿でハックが焼きそばをもっている。
4足歩行の魔物に考慮して商品はすべてお弁当のように密封される。
不慣れな魔物でも持ち運べるように首にぶら下げる形式だが……
私やハックのように3皿ぶら下げていると不安定さが大きい。
「それにしてもこれだけの魔物、狩った牛魔物がいくらでかくても全員分まかなえるか?」
「もちろんサイズは劣るけれど追加で足した分もかなり入れているよ。肉食寄りの魔物の分は確保できているはずだけれど……それでも足りなかったから、まあ打ち止めだね」
「なるほどなー。俺の狩ったやつが俺のに当たると良いな」
何せインカがかなり気合入れてくれたしね。
当たるかはランダムになるが。
そしてサイクロプスたちみたいな草食系は今回のお祭りには加わっていない。
彼らは彼らで別の日に新鮮野菜祭りをするそうだ。
そっちも気になるが今はこちらが優先。
しばらく魔物混みをあるき続けると座って落ち着いてる場所が見つかった。
この先は屋台がほとんどなく代わりに食事場所になっているらしい。
通路は塞がないようにお祭りのスタッフたちは走り回っている。
その中の姿にカラスマンのアヅキを見ないのが少し不思議だが。
彼もスタッフなはずなんだけれど……まあいいや。
もう少し歩いていけばちょうど空いている空間を見つけた。
「ここ座ろうー」
「うん」「ああ」
3匹とも座り込み首にかけた荷物を下ろす。
そして密閉をオープン。
あたたかな湯気と共にふんわりといい香り。
「「わあぁ〜!」」
「お腹空いたー!」
「インカ兄さん、もしかして1食抜いている?」
「ムチャするなあ」
空は星々が輝き月が2つのぼっている。
インカはすでに目つきがギラついている。
ゆっくりと鑑賞タイムとはいかなさそうだ。
「「いっただきまーす」」
本来は宗教的な意味合いのあるこの言葉。
こっちの世界では完全にそのつながりが消えているため概念として唱える。
さあていただこう。
早速インカは串の肉に食らいつきハックは焼きそばをもりもりそのまま食べている。
麺だけれど箸を使えない私達には関係ないのだ。
早速私もカツをいただこう。
カツは熟成牛肉をしっかり使いアノニマルースで取れるようになった小麦粉を溶かしたものと小麦粉をパン状にしてさたあと粉砕したものをまとわせて油で揚げてある。
さすがに前世のように油を潤沢に使うわけにもいかずケチりながらやっていた。
ひとりあたり3切れ。
揚げたての良い油のかおり。
噛めばサクリと良い音が響く。
熟成させたお肉特有のやわらかくもしっかりした歯ごたえ!
アノニマルース料理全般だが魔物たちに出すのは基本味が薄くしてある。
魔物によって得ていい塩分量がかなり左右されるためだ。
別添えで調味料があるのが基本。
ニンゲンたちはこれをたっぷりかけて楽しむし……
私達なんかはそのままいただく。
うんうまい!
「うわあ、おいしー!」
「うっめ、うっめ! 待ったかいがあるくらいうまい! こんなに違うのか!」
今回は違うが鹿肉なんかも熟成中。
鹿肉あたりは熟成による差も一段と感じられるはずだ。
この今食べているお肉の加工前みたいに中身が宝石のように赤くなっているだろう。
うまいうまいと食べていたら自分の分が尽きた。
空は落ち着いて光をともす。
私達は月明かりに照らされて静かな中に熱気を秘めていた。
次は串焼き。
お肉をシンプルに切り分けて串に刺しただけのものだ。
だからこそ焼き加減と肉の質でほとんどが決まる。
さあお味のほどはいかに。
串に口の中を刺さないように気をつけながらグッと引き抜いて……と。
昔は森のメンバーでこうやってお肉を食べていたっけか懐かしい。
噛んだら早速肉汁が!
わずかに仕込んである塩と香辛料が私達には十分。
鼻を突き抜けるようだ!
串から外れた一口サイズのお肉が熱を持って転がり込んでくる!
これはうまいことうまいこと!
「カツあっつ! うまいハフ!」
「本当にあついねー! でもおいしいよこれ!」
急いだわけではないがあっという間に肉が口の中に消えていった。
鮮度が高いだけの肉にはない溢れんばかりのうまみとほどよい柔らかさが最適だった!
ふうー。
ひと息ついてまわりを見渡すと先程まではあった隙間がだんだん埋まりつつある。
通路はなんとか確保されているが座る場所を探すのはなかなか大変だろう。
星が良く見える位置に陣取れる場所は限られているからね。
周囲からも熟成肉に対する感嘆符が上がっているのがよく聞こえる。
こういう環境で食べるご飯はなんだかひときわ美味しいや。