五百十二生目 魔杖
「それと、魔法武器だ」
サイクロプスリーダーが次の話題を口にする。
魔物兵の武器検討中だ。
ニンゲンの鍛冶師カンタも同席中。
「銃や剣とは少し趣きが変わってきますよねえ」
「ああ。そのまま相手に痛みを与えるものと違って、装備者の能力をブーストして発揮させるものだからな。まあ学んでないわけではないが」
サイクロプスリーダーたちやカンタには魔法発動武器にも手を出してもらっている。
カンタは元々少し作れたのでそこをもとにして基本を共に学習した。
逆にいえばまだ基礎だ。
「魔法を基軸に置いている魔物も多い。しっかりしたのを作ってやりたいんだがな」
「そこまであると違うんですか?」
私はもっていないからね。
正直そういうものも手に入れたい。
サイクロプスリーダーの代わりにカンタが口を開く。
「ええ。やはり武器の有り無しは魔法を含めて天地の差がありますね。特に本人が素晴らしい才があっても引き出させないと宝の持ち腐れですから。魔物たちは各々それにあたる器官で補ったりもするそうですが…」
「ふうむ……そう言われると気になる……私も魔法をかじっているし……」
「もっとデータを足して俺たちも技術を吸収する必要がある。紙のうえの事が多少わかってもなあ」
みな「うーん」とうなりだす。
このままでは話が進まない。
なので……
「……実は、特別にひとり呼んでいるんです。少しでも助けになれるようにって」
「おお、早速呼んでくれ!」
サイクロプスリーダーにせっつかれ空魔法"サモンアーリー"を唱える。
召喚! バローくん!
「呼ーばれました! 僕です! バローです!」
召喚紋の中からすんなり現れたのはニンゲンで冒険者の少年バローくんだ。
長期休暇が終わって学問に努めているが休みの時間ならばこうやって遊びにきてくれる。
フクロウ人みたいな風貌なのが特徴的。
元気いっぱいに机上に出てきて自身に落ちる影に気づき上を見上げる。
その高みからサイクロプスたちが見下げているのに気づいたらしい。
大きさに怯み尻もちをついた。
「あわわ……大きい……!」
「ニンゲンっぽいな。ニンゲンは場合によっては優れた魔法使いがいると聴くが、その杖、魔法使いか!」
「そ、そうだけどそうじゃないですー! まだ駆け出しですー!」
「子ども……ではあるが、鍛えているな。杖も使い込まれている……うん、キミは良さそうだ」
サイクロプスリーダーの言葉にバローくんは杖を大振りして否定するがカンタは別のところからバローくんを見極めた。
バローくんとは何度もともに冒険をしたが将来有望なとても強い魔法使いだ。
それに……
「おっとそうだ。武器使用者なのはわかったが武器制作の知識はあるのか?」
「ええと、ぶ、ぶきという、その、ええと!」
「落ち着いてバローくん、とって食わないから」
「ああ、す、すみません……ええと。武器全般は無理ですが、杖なら少しだけなら」
サイクロプスリーダーの問いにパニクって杖振り回しまくっていたバローくんをなんとかなだめる。
答えはこの場で求められるものだった……
「――とまあ、杖の心臓部分であるマジックコアは必ず先ほど説明したエルロウス定義により成り立っているため、そこから導き出されるのはルナーの定理です」「そのためルナーの定理はほぼどの杖にも適応されます。逆にこれが成り立たないと、それを定義上の問題で魔法加速器にはジャンルできません」
「その場合は、武器自体にマジックコアのエネルギーを回している場合が多く、一般的に言う魔法武器はこれに該当することが多いです」
「な、なるほど……」
「ほう! 思ったよりもわかりやすい仕組みだな!」
「深いけれど……そもそもはシンプルなんですね」
「そのとおり!」
バローくんが机上に参考資料や実物を並べ解説しつづけ今一旦やんだ。
鍛冶師たちは分かる部分が在るらしいが私はそれよりも勢いに圧倒されてしまった。
組み立て前の杖パーツたちが机上……つまりは足元にたくさん転がっていて解説と合わせてなんだか圧を感じる。
「やはり魔法加速器として使うには、基本金属は避けたいところですね」
「もちろんミスリルのように適正値が高いものや、一般的に言われる溶岩の欠片みたいに特別な力を有するものはありますが、取り回すには重量が大きくなりやすいのと、魔物素材や植物素材はやはり安定していますね」
「武器としての木材加工は、まだ設備が少ないからちょうど良い機会になりそうです」
「溶岩……ヒートマグマタイト鉱石か。炎の属性を得させるのに使えるやつだな」
大丈夫。私もそこそこは魔法に明るいからまだついていけている。
ようは金属は魔法の力を引き出す能力があちこちに散ってしまうから木や魔物の一部を使うのが定石ということだ。
逆にその金属特性を利用して全体を炎の魔力でコーティングしちゃう魔法武器なんかもあるという話かな。