五百十一生目 合金
集められたデータは魔物兵たちや鍛冶職人にフィードバックされる。
さらに私自身の技量訓練にもなった。
これからの戦いはさらに激しくなるだろうしもっと強くならないといけない。
「……って思うんだけど」
「お姉ちゃんそれ以上強くなる必要あるの……?」
弟のハックと休みがてらその話をしていた。
私としてはまるで不十分だとは思う。
「うん。なにせこの前の戦いでも死にかけたからね。これじゃあ命がいくつあっても足りないし、それにみんなで普通に暮らしていくにしても、まだ近くに脅威が残っている」
「えっ!? 死にかけたの!? お姉ちゃんが!? それと近くの脅威って……」
「霊獣ポロニア。このアノニマルースを襲撃し未だに虎視眈々と狙っているはずの相手……」
ハックは驚きつつもポロニアの名前を聞いて納得しだしている。
ポロニアは超大型かつ強力な魔物で意味深なことは言いつつも核心に迫った話はしない。
ただその正体は割れている。
このアノニマルースがある荒野の迷宮管理者なのだ。
ひと昔前はその力を使ってこの迷宮内で暴れる相手を治めていたそうだが。
今は何もしていない。
それどころか一度アノニマルースに襲撃をかけた。
ポロニアの力ははっきりいって。私単独では足元にも及ばない。
前回はポロニアの分身たちを相手に必死の抗戦をして勝手にひいてくれただけだ。
ポロニアだけで押し切られるかもしれない恐ろしさはあった。
雷撃の魔法も幽体化して消えてしまう能力も厄介だ。
彼に勝てるようにならなくてはならない。
「でも、お姉ちゃんがそんなにがんばらなくても、みんなでなんとかしたら……」
「もちろん、そこも大事だよ! アノニマルースのほとんどは、ここに集まったみんなやハックのおかげで成り立っている。今兵士やゴーレム兵も増えてきているし、新武具も量産体制」
「それじゃあ……」
「それでも、みんなの力に頼り切りになりたくはないというのと、みんなの力だけに頼ると、『みんな』の犠牲が出る」
ハックが「ううっ」とひるみ紅茶を飲む。
ダメではないがそれだけでは成り立たないのだ。
「もちろん私だけどれだけ頑張ってもダメだし、私が犠牲になる気もない。だからハックは、ハックの出来ることで無理しない程度にやってほしいかなって」
「そう言われると頑張るしかなくなるよ、お姉ちゃん……」
「あはは、まあそれが楽しく暮らせることにつながれば別に頑張る必要はないよ。それで倒れたら元も子もないからね!」
「うーん、うん!」
「そうそう、今度の新作見たよ。 あれすごいね! 私にもなんだか感動が伝わったよ!」
何がモチーフかは知らないがひとつのツボで飾ることがメインにするものだ。
美しい表面の光沢とさりげなくも美しいバラの花が特徴的。
疎い私でも魅力的なのを感じれた。
「えへへ、ありがとう。ほら、僕の作るものって変わっているじゃない?」
「自覚はあったんだ……」
「だから、今回は誰にでもわかるっていうのを目指したんだ。そのとおりに作れてやったー! ってなってる!」
実にうれしそうにハックは笑っている。
つられてこちらも笑顔になった。
ハックの無邪気な笑顔は癒やされる。
「ハック、次に作るのはどうするの?」
「うーんそうだねえ……お姉ちゃんはどんなものが良い?」
「うーん、伸び伸びとしてハックの思うがままで良いとは思うけれど、あえて言うなら力強い作品なんてものも良いんじゃない?」
「いただき!」
こんにちは私です。
本日は新武装の検討に加わりにきました。
魔物兵たちの武力に直結するこれは様々な要望が軍から降りてきていたし訓練や実践で得たデータを元に話し合っていた。
魔物が扱う武器となるとニンゲンのものとはかなり変わりがちだから余計に慎重になる。
鍛冶師のカンタやサイクロプスたちといつもどおりの面々だ。
カンタの娘アマネは本日はアノニマルースにいない。
よくチェックしてほしいと言われたから多分大丈夫だ。
「――とまあ、今の所こんな感じか」
サイクロプスリーダーがそうまとめる。
大きすぎるサイクロプスたちに合わせた大きすぎる机上に散らばった多数の資料をざっくりと束ねだす。
カンタと私はその机上にいるから邪魔にならないように移動した。
「幸い火山の迷宮からとれる鉱石と、この鍛冶場の日頃からの強化、そして形にできる職人と揃っているから、ミスリル合金武器やダマスカス鋼合金武器も量産できそうですね」
「良くは知らないけれど、すごく良い金属なんですっけ?」
「一般的にはな。あの火山から取ってくるものは本当に質がいいから、オリハルコン合金やアイススチール合金もやれるし、なんならもっと上も目指せるが、使い手が追いつかないのと、造り手の経験が少ないの、そして量産となると大きく話が変わるって点だな」
「コスパかあ……」
金属の話はよくわからないができない物を追い求めても仕方ない。