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四十九生目 心酔

 そうと決まれば早かった。

 早速洞穴に戻ってつれてきた。

 洞穴の中では比較的大人しく寝ていたらしい。

 いやまあ私も行動力限界で治すのには限度があったし、そもそも電気を使いすぎだ。

 限度を越えて筋肉にエレキを流していたらしく、治療の感触では筋肉がズタズタ。

 しかも焼いちゃってる。

 私をもし倒していても、そのあと無事に生き残れたかどうか。


 ああいう内部の複雑な傷は治しにくい。

 生命力という観点からは癒せても傷そのものはなかなか治らない。

 ヒーリングは生きる力そのものを元気に持っていき、イノスキュレイトは傷を縫い合わせる。

 だが内面に残った傷そのものは後は当者の自然治癒力次第だ。

 この2つの魔法だけではツギハギだらけで外から無理矢理命をくっつけているだけ。

 皮膚ごと全部裂けていればまだ外から縫い合わす事も出来なくはなかったけれどね。


 つまりは彼は今も動く度にどこか痛むはずだ。

 ちなみに私も痛みはするが無視できる範囲。

 自爆技は使ってないしね。


 なので大人しく寝ている事は想定範囲内。

 悪いけれどちょっと起きてもらって再び群れの中へ。

 歩いて数十分だが怪我している同士なので1時間くらいかけた。


 群れについた時に群れのみんなの気配が強まった。

 こちらを探るためのものだ。

 視線はともかく鼻や耳にといったものがしっかり向けられた時の気配。

 とは言っても私にではなく大烏に向けられたもの。


 そしてみんなの気持ちが驚愕に変わっていく。

 血をかぶった大烏は見るからに悲惨だった。

 殺意や敵意が剥き出しだった時の大烏の様子は1つもない。

 そこには強者としての奢りもないし少年を探そうとギラついた姿も無い。

 ただただ痛みを堪えながら小さく歩いてる姿がそこにあった。


 今にも泣き出しそうにも見える姿にみんなは何を受け取ったのだろう。

 何せ大烏が今見ている光景は、仲間たちが惨殺された現場でもある。

 肉はもうわからないようにバラして隠したが、群れのみんなが平然と生きているという結果をマジマジと見せられている。


 さっきまで笑いあっていた仲かもしれない。

 自分だけ生き残ったその姿は、同じく群れに生きるものたちに何かを伝えたのだろうか。


「みな、不満はなさそうですね」


 そのクイーンの言葉によって彼は正式に私の部下になった。


 生き残るためには誰かを殺したり食べる必要がある。

 それを互いにわかっていても割り切れない感情はどこかにはある。

 恨みつらみは時間が解決するだろうか。

 それは私達次第かもしれない。




視点変更


 その時ホエハリの群れが見た光景は異常だった。

 仔のホエハリに連れられ大烏が歩く。

 それだけでも奇異だがもう1つ。

 あの大烏が悲惨に見えたという部分もある。

 だが大部分を占めるのは、心酔のように見えた。


 その大烏は遥かに小さいホエハリの仔に対し心から酔っている。


 自身こそが強者だと信じ込んでいた大烏の鼻柱を叩き折り伏せた。

 絶対に負けるはずのない相手に植え付けられた力差。

 そしてその戦いの時こちらを生かすほど手を抜いていた。

 さらに助け、手まで取ってくれたとそう感じていた。

 事実は別の所にあるが大烏の主観ではそれが全て。


 自らの群れ、つまり自らの全てをぶつけても勝てなかった。

 前は余裕だったというのに成長していたわけだ。

 勝者に賞賛をおくるのは正しい。

 敗者は命を支払うのが正しい。

 少なくとも大烏の中での価値観はそうだった。


 だが大烏は生き延びた。

 ならば何を差し出せば良いのか?

 群れはもういない。

 それは大烏の目でホエハリたちを見た時にハッキリ実感した。

 力及ばず悔しくはあるがそれはそれ。

 勝ったのはホエハリたちだと分かった。


 自らの負けを敵に転化して怒りを擦りつけるのはガキのやる事だと大烏たちは考えている。

 負けたのだ、ならば負けを認めるだけ。

 そして勝った相手を認める。

 その時たまたま生き残った大烏が出来る事はそれだった。


 だからこそ不満は無い。

 むしろそのホエハリの小さな背中に尊敬すら抱いた。

 少なくとも大烏の主観ではそうだ。

 ホエハリの仔がスキルを使った影響は、誰にもわからない。


 強く慈悲深い相手に全て捧げようと認めた時に。

 大烏は心から酔った。


 服従することによる圧倒的満足感。

 絶対的存在に対する忠誠を捧げることそのものへの充実。

 これは何も大烏だけではない。

 多くの群れと社会を作る生物は被支配での安寧を求めやすい。

 ホエハリたちもキングとクイーンに忠誠を捧げている。

 人間たちも神や太陽という存在へ祈りを捧げ安心感を得る。


 本能から来る生存本能。

 守られる対象に入った事による楽観。

 受け継がれてきたミームが何時までも求めてやまないもの。


 支配し、支配される事は命を次世代へ繋ぐシステムの1つ。

 支配感と服従感が共に快楽を伴うのはそのため。

 その恩恵を今最高に受けている大烏はその快楽が心身を満たしていた。

 支配者から転落した最悪の日であり、最高の日の始まり。

 彼は捧げる忠誠の先をやっと見つけたのだ。

 そのきっかけは、今は誰もしらない。


 だから外から見ても大烏はただの不幸な存在ではなかった。

 心から服従する者の目をしていた大烏が向ける視線はホエハリの仔だったのだ。

 体格差や威圧感から生まれたギャップに誰もが驚愕する。

 そして結果的に大烏とそのホエハリの仔を認める事に繋がった。


 彼らもまた、キングとクイーンに忠誠を捧げる心を持っていたから理解した。

 そして普段から忠誠を一身に受けているキングとクイーンはその目を見て安心した。

 騙しうちをする心を持っていたら彼らは騙せない。

 それが無く群れを傷つけることがないと判断し、最終的に認めたわけだ。


 大烏は酔う。

 その背中にまだ見ぬ未来を見て。

 多くの魔物たちが彼女を信じ歩む姿。

 付き従い、どこまでも導かれる魔物たちを見た。

 それは大烏の空想だ。

 だが大烏は、ゾクリとした。

 現実はまた違うのかもしれないとは判断がつく。

 だが彼女は大烏にとっての魔物の王なのだと、実感した。

 大烏の腹の中が熱くなっていく。

 感じた事がないほどのものだった。




視点変更 主人公ローズオーラ


 おはよーございます。

 今日も雪がガン降りでごぜーます。

 やめてもらいたい。


 あれからやっと本格的な休暇をゲットした私はゴロゴロしながらスキルチェックをした。

 ログに[対象を従える +経験]ってあったけれど、あんな書類上みたいなやり口で良いのかしら。

 そしてその経験ゲット含めて今回は3つも! レベルアップ!

 レベルが27になったぞー!

 わーいわーいパチパチパチパチ。

 1人芝居。


 さて。

 スキルポイントの増加は3。

 これを割り振っていこう。


[睡眠耐性 眠らせる攻撃に抵抗しやすくなる。眠らずとも活動しやすくなる時間が増える]

 常時発動型(パッシブ)のスキルで頑張るからの派生。

 ホエハリ族はもう睡眠時間がめちゃくちゃ長い。

 単純にそのぐらい寝ないとキツイってだけだがその時間が日の半分はザラ。

 人間って睡眠時間短かったんだなあってなる。

 これのレベルはまだ低いため実感するほどの差はないかな。


[畳返し 目の前の地面を持ち上げる武技]

 もう名前の通りだ。

 さっきのスキルの派生で目の前の地面が四角く切り取られてくるってひっくり返せる。

 今のレベルだと小さくしか返せないし硬い地面は難しい。

 ソレにめちゃくちゃ浅くしかひっくり返せないが奇策にもガードにも使えそうだ。

 地面を叩けばすぐ使えるのがとても良い。


[変装 自身の根本的な力を変えずに姿形を変える。レベルにより変化度合いが変わる]

 畳返しからさらに繋がったスキルだ。

 これ本来は、天敵に見つからないように草に擬態とかそういう目的のスキルだ。

 もちろん私の目的はそこじゃない。

 まだ変化させるのは身体の爪先とか毛なんかを少し形を変える程度。

 何の役にもたたないがこれも鍛えてみれば使えるようになるはず。

TIPS

 魅了状態:

 状態異常の中には魅了と呼ばれるものがある。

 かけた相手の言うことをなんでも聞いてしまう魔法等での異常だけれども、観察すればしっかり魅了と書かれているからかかっていたら治療しよう。

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