五百七生目 蒼竜
戦闘が一段落ついたらもともとの目的を果たすためにドラゴンのホワイトアイと会話。
ただ肝心のニンゲンの見極めがまるでできていなかった。
なので……
「魂を見る目ならあるのだがな」
「とにかく、ニンゲンたち見かけたら先に襲いかからないでくださいね……敵意がある相手は追い払って良いですから」
ホワイトアイにこう言い聞かせることにした。
骨が折れた登山も後はおりるだけかあ。
「……儂は元々、襲う必要や価値のない相手には襲わん。さすがに若気の時は過ぎたのでな。他の若い竜と一緒にされては困る。まあ。おかげで、やや戦闘のカンが鈍ってしまっているがな……」
「あはは、十分強かったですよ。助かりました本当」
負けたこと気にしているなあこりゃあ。
あまり触れないでおこう。
「いずれにせよ、蒼竜殿をここで冷やし休ませるのが儂の任。ニンゲンが来たら、天候を緩めるくらいの、手伝いはしてやろう」
「え!? 蒼竜!?」
「ど、どこにいるんだ?」
「見かけなかったぞ?」
「空! はいないなあ」
ダカシやイタ吉そしてジャグナーともども周りをキョロキョロ見渡す。
噂の帝国の神である蒼竜がここにいるのか?
「吽? 知らないのか? この地。連なる山脈そのものこそ」
ホワイトアイはどこか誇らしげに。
ひと呼吸置いてから。
「蒼竜殿の御身そのものである」
「「えぇー!?」」
あんまりにも突拍子もない話だ。
この大山脈そのものがひとつのドラゴンだなんて!
「ええ、ええ? じゃあこの山、動くのか!?」
「いや……おそらくもうこの身体は動かさぬ」
「じゃあ、死んで……」
「そうではない。早とちりするな、黒のニンゲンよ」
イタ吉が慌てだしホワイトアイが動く可能性を否定するがダカシの説も否定する。
そしてダカシのことを今ニンゲンって……
見た目は黒毛皮の魔物でたてがみのないライオンのようなのに。
やはりホワイトアイは本質を……魂を見極めるられるらしい。
ジャグナーもその結論に至ったらしくひどく複雑そうな心境が尾に出ている。
「……蒼竜殿は巨大すぎる肉体を持て余した。多くの者を愛するが、愛でるには何もかも小さすぎる」
「まあこれだけ大きいもんなあ」
「自らの身に多くを住まわせたが、歩くたびに自身の身体と大陸が揺れた。だから、自身の力を持って、この身から意思と魂を抜き別の形を取った」
「この大きさだものなあ……揺れるよなあ」
「身体は自らこの地に埋めたあと、儂を生み出し、ここにて任を務めるように言ったのだ。蒼竜殿は冷気が好みだから、常に冷やすように、とな」
それじゃあ生まれてからずっとこの殺風景な場所に……
と思ったらホワイトアイのにおいや声はさみしげだと思わせることと裏腹に熱を帯びだした。
「創造主の命を受け、それをこなすことのなんたる充実したことか! それ以降儂はこの蒼竜殿の背で守り、たまには不届き者を倒し、また良く蒼竜殿の愛した世界を、ここから見ていたわけだ」
「ニンゲンたちというものが、本格的な巣を作り出し、やがて蒼竜殿を称える地を建設したな」
「あの時、なかなか見る目のある種族だなと、初めて気づいたものだ」
「今もこうして、蒼竜殿の肉体を冷やし続けるだけで、満たされる思いよ」
「たまに蒼竜様も顔を見せにきてくださる。あれは、ほんの100ほど地上の季節が巡ったあたりか。毎度違う姿だから、今どこで何をしておられるかは存ぜぬ」
「来てくださるだけで、万感の思いがこぼれそうになる。語る音色は大地を包む息吹そのもの。まさに儂はそのために生きておると実感できる」
「蒼竜殿はこの大地を愛し、大地の生物たちは蒼竜殿を愛している。それが何よりも嬉しい」
「はて、そういえば何の話をしていたかな?」
まずい! このドラゴン蒼竜のことを語らせちゃだめなタイプだ!
みんな熱く語るホワイトアイにビックリしたらしく目を丸くしていた。
収集をつけなくちゃ。
「え、ええと! 蒼竜、さ、さまのことはよくわかりました! それで、ニンゲンたちがきたら天候を緩めてくれるってことで良いんですね?」
「おお、そうだった。そのくらいならば、問題はない。だがそれは、其方の使いを終えたのみ。それでは其方そのものに何も与えてはおらぬ。それでは儂の気が晴れぬな」
よ。よし。話を戻せた。
もう正直あとは安全に下山させてもらえれば言うことなしなんだけれど。
何かしたいらしい。
「ならドラゴンのおっちゃーん! 俺達と友達にでもなってくれよー!」
「ぶっ!?」「吽?」
いきなり何を言い出すんだイタ吉は!?