表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/2401

四十八生目 忠誠

 は?

 忠誠を誓う?

 一体どういう風の吹き回しで?


「一体、なぜ?」

「私は貴方に敗れあまつさえ生き返らせて貰った、それに私がココに寝ているということはもう私の群れは……」


 そういって大烏はどこか遠くを見つめる。

 敗北を悟った瞳。


「今回は群れ総出だった。もはや私は群れにこだわる意味はない。

 これでそちらへ与えた全てが返せるとは思わないが、私の全てを貴方へと捧げて返したい。

 なくしたはずのこの命。拾ったのならせめてもの償いはさせてもらう」


 うん……これはあれだ、複数の部分があるね。

 まずは保身。

 単独ではもうこの冬はこせないかもしれないが、私達の群れの末席にでもいたら生き延びれるかもしれない。

 それに諦観。

 どん底まで落ちてしまって煮るなり焼くなり好きにしてという思い。


 後は恐怖。

 "私"のせいとはいえ心底ビビってしまっている。

 戦いの時は暴言吐いていたけれど冷静になって怖さが勝ったんだろう。

 そして無敵の効果。

 これで敵対心が無くなり冷静になった。

 自尊心より一種勝者への憧れとか希望とかが出てきたのかも。

 完敗したー! って言うスッキリとした気持ち。

 その相手になら何されても認めようみたいな服従心か。


 多分そこらへんが細かく入り乱れて今の言葉が出てきたんだとみた。

 合理性と感情を天秤にかけて出てきた発言かな。

 心音が悟りを開いてる。


「そうか……難しいなぁ……どうしようか」


 ホエハリ語で私はそう呟く。

 素直な感想はそれだった。

 だってぶっちゃけ群れの仲間がなんて言うか。


「なんて言ってたのお姉ちゃん?」

「何を話されていたのですか?」

「ああ、順番に! 順番に!」


 烏にホエハリ、イタチやたぬきと種族が多くいるが全て言語が通じない。

 私がひとり翻訳機やらないと話がまるで進まない状況だ。

 そういうわけで私が一通り翻訳して話す。

 言語を別言語に変換するの、脳の変な所使う感じで難しい!


「ボクは、反対ですね。荒れる原因になりそうですから。だけれども主にローズさんが決めて良いと思います」


 これがたぬ吉の意見。

 最近は私の名前も広めているが、ダレも正しく発音出来ないからほぼ脳内で勝手に変換している。


「妹が思うようにしたら? 妹が勝ったんだし、相手も納得してるのなら問題ないよ」

「難しいけれどおねえちゃんが決めちゃって良いと私は思う。問題には自分で答えを出さなきゃね」


 インカとハート姉が判断を私に委ねる意見。

 重いよ! 命を扱う問題を私にぶん投げるの重いよ!


「僕は良いけれど、おねえちゃんが難しいと感じているのなら、問題は保留してまずは群れの仲間たちと話したらどうかな? 解けない問題は時間が解決してくれる事もあるよ」

「ローズお姉ちゃんが悩むなら判断は後にして、みんなで話そうよ」


 ハート兄とハックが保留派。

 一時的に楽にはなるが、でもソレって解決はすぐにはしない、か……


「良いんじゃないか? 面白そうだし」


 イタ吉は意外に賛成。

 いや、こいつ何にも考えてないだけじゃあ……?


 うーん、悩む。

 放り出すのも、手放しに歓迎するのもなぁ。

 聞き方によっちゃあ奴隷や下僕だなんて雰囲気もあるがその趣味はない。

 ならば……


「ねえ、一応暫定的に私が決めるけれど、群れの仲間たちが後からまた口出すかもしれないけれど、それでも良い?」

「ああ、もちろんだ」

「それでは……」


 さて、ある意味正念場だ。

 私がどのような判断を下しても従うだろう。

 だから一言ひとことが重すぎるよ〜!

 いやだなー合理的判断したいけどなーどうかなー。


「貴方を暫定的に私の直属部下とします」

「承った」


 二つ返事か……

 私に向かって恭しく頭をたれた。

 いや、ムリしないほうが良いと思うけれど。

 多分筋肉痛みまくると思う。

 はー、なんか向こうは全てを賭けてむしろ平然としている。

 対してこちらは緊張しすぎて変な汗出てきた。

 と、とりあえず群れの方へ行こう。




 安全だとは思うけれどイタ吉とたぬ吉は大烏を見張らせて洞穴に置いてきた。

 まあ何かあったら逃げる事くらいは出来るはずだよ。

 そして私達は群れの方へ行った。


 結果から言うと完全に勝利している。

 やり過ぎとも言えるが、自然の中では基本だろう。

 烏達は全滅。

 早速肉を解体して干し肉にする段階だった。


「ちょうど良かった、そっちへ知らせにいこうと思ったんだ」


 ダイヤ隊がそう言っていた。

 さらにもう1羽いた大烏はもはや原型をとどめていない。

 父も痛手を負っていたが母に癒やされていたし見るからに無事だ。


「ところで……そっちで何があったんだ? 大丈夫なのか?」

「凄い事になっているじゃない!」

「ほら、川で洗わないと!」


 ……それが私を見ながら言うみんなの反応だった。

 ……うん、進化は解けたけれど血はある程度残ったままだったんだよね。

 私だけ酷いにおいだし見た目も悪いしギトギトベタベタ。

 もう、つらい。


 早く洗いたかったから誘われるままに川で身を清めた。

 はぁ〜、やっとさっぱり。


 それから群れで緊急の話し合いが行われた。

 こちらの被害は怪我とか土器が傷ついたとかそのぐらい。

 かなり軽微なため確認作業もすぐ済んだ。

 傷なんかも1日あればたいがい何とかなるのは強みだね。


 敵は殲滅、文字通り皆殺し。

 エグいな〜とはなるけれど、2回目なうえに相手が容赦ないからこちらも野生生物としての生存競争するしかない。

 何より貴重なお肉が入手された。

 これは嬉しい誤算。


 そしてここからが本題。


(わたくし)達がいない間、洞穴の方は何があったのですか? ハート隊は報告お願いします」

「はい、伏兵だったもう1羽の大烏による襲撃がありました」


 クイーンが訪ねハート姉が答える。

 そしてハート兄も順番に話していった。

 内容は先程あったことのおさらいだ。

 話を聴くうちにみるみるみんなはこんがらがっていった。

 いやまあ、どう考えても生存困難な状況で全員無事だからね。

 さらに私が変身したり大烏を捕まえたりと意味がわからないだろう。

 当然、注目は私に向く。


「……というわけで、ここからは実際に見てもらおうと思います。では」


 ハート兄と事前打ち合わせした通りにバトンが渡された。

 ちょっと緊張する。

 私は数歩前に歩み出て群れみんなに注目される形となった。

 ひええ。


「実際に見てもらいたいのですが……ちょっと失礼」


 進化は私にとってはまだ不安定な技術だが確定的に成功させる方法はある。

 血だ。

 血があれば呼び醒ませられる。


 というわけで打ち合わせ通りハート姉に私の前足を軽く切ってもらった。

 せーのとか声合わせもしたからびっくりするホエハリは少なかった様子。

 まあ、その後のせいもあるだろう。


 私は規定の手順で混合魔力を作り出す。

 そしてぷくりと浮いた血を舐めとる。

 ゾクリとした感触。

 "私"がざわめき立ったそれだ。

 そして後は前の通りに"私"という仮面をかぶる感じで進化を唱えた。

 そうすれば"私"という役を得た姿が世に出る。


 二回目だけれど悪い感じはしない。

 むしろ底抜けに気分が良くなっていく。

 これは危険だ。

 意味のない高揚感は麻薬と同じで精神を壊す。

 深呼吸ー。

 まあ今は"私"たる部分は非常に落ち着いている。

 先程の満足さもあるが、今は血と戦場のかおりがしないからだ。

 平穏な環境では私でいられる。


 反応は様々だった。

 驚いたのはだいたい同じだが、すごいと歓喜したり信じられないと我が目を疑ったり。

 笑っているのは父と母ぐらいか。


 ともかく私はその姿のまま説明責任を果たした。

 ちょっと大烏倒したら心が折れたらしくて部下にしていい?

 みたいに雑な事言ってる。

 落ち着いたらめちゃくちゃ見られてる前で話すこと意識しちゃってアガってる。

 頭の中がしろーい!


「……ということで、許可をもらいたいと思います」


 うん、さすがに群れがざわついている。

 前例あるはずないだろうしね。

 そもそもさっきまで敵だった者をさっくり信じれるかという話もある。

 ただ、決定する事が出来る声は1つのみ。

 クイーンの鶴の一声だけだ。


「では、一度私たちにその大烏を見せてください。

 安全かどうかをみんなで納得するまで見極めましょう」

TIPS

タヌキは草の力:

 タヌ吉の種族は植物を操る魔法を持つ。

 天敵の生物の足元で草を結び転ばせた間に逃げたりするよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ