四百九十七生目 漫才
召喚獣は今まで会ったやつはたいていカエリラスたち……敵だった。
そして今目の前でありえない速度で自身の数倍大きな切り離した尾先を喰っている小柄なそれも召喚獣。
ということは隣り合っているのは召喚者か。
ペロリとあっという間に尾を食べてしまった召喚獣の姿は……そう。
まるで餓鬼。比喩ではなく地獄にいるとされるその存在。
貧相な肉付きに内臓がたまっている膨れた腹。
たぶん2頭身程度の小柄サイズでわずかにツノ。
一番の問題はその頭が3つあるとこか。
しかも虎の。
近くで見たらめっちゃ不気味じゃないか!
[スターべ Lv.…… 比較……]
[スターべ 太古から存在する神の1柱。月の協調と排他を司り召喚される3つ首の虎鬼人として現れる]
ああ! 召喚獣確定!
そして召喚者のほうは……
やせぎすだが折れそうなほどに細い体躯ながらただならぬ気配が漂っている。
なんというか……肌でなくまるで塗装面。
髪の毛も油か何かでガッチリ固めているかのようだしにおいが何か変。
くりっとした目がアンバランスで不気味。
これは……"観察"!
[エポニードLv.35 異常化攻撃:出血 比較:そこそこ強い]
[エポニード 植物系妖精の中で黒檀で構成されたものがトランスした先の姿。見た目にそぐわず非常に頑丈でしなやかな肉体を持ち直接打撃は強力]
魔物だ……しかも強い。
基礎が植物なのか。なるほどどうりで。
うーん……ええとどうするか。
「……召喚獣とその使いよ。よくぞここまで儂をいたぶってくれおったな」
ドラゴンがあまりにニンゲン離れした声帯でしかし正確な発音で帝国語を話した。
ビックリだ。
大気が震えるような腹の奥底から響く低音。
ビリビリと私達にも伝わってきた。
「ああ、うまかったぜ。こっちもかなり手痛くやられたところだったしな!」
「わわ私達と相性が悪かったですね」
虎の顔ひとつがニンゲンのように言語を発してからひと声吠える。
エポニードの方は全身が震え軋みながらその声を発していた。
全員帝国語できるのか……
「ささささて、そこの者はどちらの味方かな?」
「うっ」
戦闘が止まっていたのは偶然ではなかったか。
エポニードがこちらに顔を向けてきた。
遅れて他のふたりも。
とりあえずドラゴンの方も"観察"!
む。妨害された。
流れるような動きでアインスは亜空間から妨害貫通用のメガネを取り出し装着する。
「……?」
「あ、ちょっとまってて〜」
[ホワイトアイLv.45 異常化攻撃:凍結 比較:とても強い]
[ホワイトアイ 精神生命体でありながら現世に存在する希少なトランスを得たドラゴン。氷の加護を受けており天候すらも氷雪へ変えるほどの力を持つ]
アインスが空気をガン無視して動くからおかげで見れたが場の空気はガタガタ。
「あ……」とか「うん……」とか今まで殺し合いを繰り広げていた3名が変な声出しながら固まっている。
アインスが流れるように魔法を唱え亜空間にメガネをしまうまでやりとりは続いた。
「はい、どーぞー」
「どうぞじゃねえよ! どーすんだよこの空気! めっちゃ冷え切ったがな!!」
「ささ寒いのは元からじゃあ……」
「気温の話じゃなぁい!!」
召喚獣スターべが激しくツッコむと召喚者エポニードが見当外れなことを言いスターべは頭を抱え軽くのけぞる。
ついに漫才が始まってしまった……
「児戯も後にせよ。貴殿らは、儂を弑するために来たのだろう?」
「そんな大層な計画殺害じゃねぇよ! 俺らは殺れといわれたから殺って喰うだけだ」
食い尽くした尾はサイズ差的に絶対収まらないのにどこに消えたのか。
召喚獣スターべがその牙と眼光がギラつく。
……あっ。今の言葉。ちょっと光神術"サウンドウェーブ"で喋らせて。
(はーい!)
「このドラゴンを殺しに、なぜ? もしかしてキミたちはカエリラス?」
「いっぺんに質問すんなチビ! 質問1に対しては知らん! 計画とやらに必要だからじゃねーか? 質問2は、まあそうらしいな! だよな?」
指をひとつふたつと差し出して答えてくれた。
丁寧にどうも。どうやら相手は決まったらしい。
後誰がチビだ! そんなにサイズ変わらないだろ今!
「……うん?」
「お前だよ!? お・ま・え・に聞いてるの!!」
「そそう。カエリラスだよ、ボク」
3つの口がそれぞれわめきつつも発音は整理されていたので聞き取りやすかった。
召喚獣スターべは指でエポニードの頭にねじり押そう……として届かなかった。
だがエポニードが代わりに屈んで指に頭を当てに行き無事にねじねじと押し付けられたようだ。
「なるほど、じゃあ私達の敵ってことで。ドラ……えー、ホワイトアイさんは下がってて」
「ふむ。その名で儂を呼ぶ者は幾年振りか。だが、思い上がるな。儂はまだ戦える。獲物を横取りしないでもらおうか。」
いや。あなた先程尾も落とされて生命力も7割減っているじゃないですか。