四百九十六生目 咀嚼
さて目の前まで雪崩が迫ってきている。
今度こそ調整が出来たらしくアインスが私の身体を操作し空へ向かって飛ぶ!
ジャグナー達3匹はその後に続くように飛んだ!
「おお! 速い!」
「飛んだー!」
「おわわわわわ」
三者三様の様子を見せてくれつつとにかく上昇。
雪崩の先陣がわずかに私達にかかる。
だいぶヒヤリとした。
もっと高く飛べばもはや眼下になって通り過ぎていく雪崩たち。
私達のいた場所は一瞬で蹂躙された。
間違って喰らいたくはない。
「うっわぁ」
「よくこんなところで住めるな……」
アインスとイタ吉が思わずこぼした言葉を聞きつつ空を飛ぶ。
っ! また爆発!
「急ぐぞ! まあローズの力で飛んでいるが!」
「うーん、なぜ俺は翼がないのに飛んでいるんだ……」
ダカシの言葉を受けて空へと加速していく。
ジャグナーはぶつくさとナニか言っているがまあほうっておいて大丈夫だろう。
空の移動は地面を歩いていたときとは比べ物にならないほどの速度で移動できる。
ぐんぐんと山頂に近づくが爆発は頻度が増してきている!
速度も一層増して私の腹の底もヒエヒエ。
まあそんな感情を抱いちゃうから空の動きはアインスにお任せなんだけれど。
あっという間……と言うには体感時間がめちゃくちゃ長かったがついに頂上へ。
アインスが急いでくれたから実際はそんなに時間がかかっていないはずだ。
頂上はお椀型になっており不思議と雪が薄くとても広い。
そして大自然の景色に感動……する前に。
爆発の原因がふたつそこにいた。
片方は私の探していたドラゴンだった。
ドラゴンはドラゴンだがまるで鳥類かのような青白い羽毛が生えていてその裏地にしっかり見える頑強そうな青白い鱗と共に息を飲むような美しさ。
……が。いまやボロボロに壊されたり抜けたりして血も出ていて惨事。
いわゆる翼竜型で翼腕で低空を飛んで下へ向けて青い光線をはく。
地へ着弾すると爆風が巻き起こっていた。
ボロボロで必死に闘いを繰り広げていてもきらめく美しさ自体を感じるのは精神生命体だからだろうか。
距離があるからいまいち大きさがわからないが大きさはドラーグの100%サイズと同等かもしれない。
つまりは大の大人が足元サイズ。
アクションゲームあたりならギリギリ正面きって戦える限度の大きさなんだろうけれど現実だとちょっと無理。
そしてそんな規格外をボロボロにしている相手。
爆風が巻き起こった煙の中から飛び出す2つの姿。
こちらは豆粒のように小さい。
いや比較したり距離の関係でそう見えるだけか。
"鷹目"でズームするとやっとわかったがひとりは小柄のもうひとりは背の高いやせぎすのニンゲンサイズのなにかだ。
高速飛来しているのは背中に何かあるのかな。
「う、うーん……」
「戦っている?」
「どうする? 降りるか?」
「なんでも良いからそろそろ降ろしてくれー!」
ダカシやイタ吉そしてジャグナーたちがあれこれと話している間にも事態は進む。
撃ち落とそうとあがくドラゴンにとっても相手は小さすぎるらしく風の刃やツララの雨が降り注いでもうまく回避されているらしい。
羽ばたき距離を取ろうとするたびに詰め寄られついに接触。
小さいから何かやっているらしいというのだけはわかるがドラゴンは振り払おうと必死。
ただ……いくらか嫌な気配を感じ取れるほどに力強い攻撃がニンゲンサイズの方が放っている。
「ギャアァオオオォォォォ!!」
澄み切った世界に響くドラゴンの絶叫。
突然のことに驚いたがすぐに理解する。
尾が。落ちる。
尾の先側が切り離され落下。
どうやらニンゲンぽいふたりが切り落としたらしい。
痛みのショックでドラゴンも落下した。
「……どっちに加勢したら良いんだろうか」
「とりあえず、行ってみようぜ……」
ジャグナーの言うとおりここはどう立ち回るべきか……
イタ吉の言葉を受けてアインスは地面へと向かって飛行した。
「よっと」
比較的安全な土地に全員を降ろす。
雪は足元にしかなく風もおだやかで登ってきた山の険しさとは対照的。
こんな状況でなければ感傷に浸るんだけれど……
ちなみに私以外はガッチリ防寒具を着たまま。
というか私が"進化"でサイズ変化したから脱げただけなんだけれどね。
寒いけれど耐性があるのとここの気候が比較的おだやかなおかげで毛皮だけでもなんとかしのげる。
もちろん一体化している普段の服とクビに巻かれた風の加護付きバンダナの効果も大きい。
風が優しく吹き抜ける。
……さて。いい加減目の前の奇妙なことに目を合わせよう。
ガツガツ。ムシャムシャと。
場違いな咀嚼音を響かせて切り離した尾を食べている小柄な方のニンゲン……いや全身輝く光から察するに召喚獣。
また召喚獣だ……