四百九十生目 登山
大山脈のふもと村で作戦会議中。
「竜の巣?」
「うん。これを見て」
ジャグナーの疑問を受け光神術"ライト"と"ミラクルカラー"を組み合わせる。
処理をアインスに回しつつ正確に記憶再現。
空中に出現した光源が様々なカラーにきらめいて地図を照らす。
するとやがて地図の上に追加の書き込みが現れる。
光で地図の上にたくさんの情報を投影しているのだ。
当然データは持ち出し禁止書類のウォンレイ王図書。
「おお!? なんなんだこれは!?」
「わりと最新の調査図らしいよ。読んできたから投影して再現している。あの大山脈をニンゲンの力で踏破するために調べていたんだって」
そうこれは登山家たちの血と汗と涙の結晶。
領地を越え集められた情報はいつしか国すらも重宝するようになっていた。
それでも最高に高い山頂を経由して反対側まで降りるルートは達成されていないが。
「氷エレメンタル体の大量発生地、食人魔物の縄張り、自然自体が脅威で踏み込めない地域、そして竜の巣……」
「もちろん私達ならゴリ押せる範囲もあるけれど、今回は軍隊も通れるようにすることを考えなきゃだから……」
「これらぜーんぶ避けて登って向こう側に降りるとなると……ほーんなるほど」
ジャグナーの読み上げて私の補足にイタ吉がうなずく。
正直言えば安全な経路はない。
ただその中でまあ比較的マシやたまたま平地のようになっている安全地帯がある。
それらを縫うように道を確保しつつ行くこととなる。
当然ウォンレイ王の軍もここを通り抜けるものは選び抜かれた者たちだけだがそれでも集団行動特有の危険と疲労がある。
少なくとも彼らだけでも通り抜けられるようにするというのが今回のお仕事。
普段お世話になっているからつい安請け合いしてしまったが。
大山脈を目の前にして改めて途方に暮れている次第だ。
まあプラスで貸しを……ということで。
「1人と1人ならまだ他にも道があるけれど、軍隊が通るなら安全面も考えて最高に高い山頂近くを通る道ぐらいしかない。それでもここにあるのは……」
「大きめの竜の巣の範囲とおもいっきり被っているな」
「そう。私達に任されたのはそのドラゴンとの交渉」
ジャグナーの解釈にダカシが付け足す。
私がオウカ達と共に入国したさいに撃破したドラゴン。
その時私が最後の最後に説き伏せて帰って貰ったのがかなりの拡大解釈されて。
私の一喝でドラゴンをしばらく立ち退けさせられないかという無茶な相談。
「説得って……どーすんだよそれ」
「さすがに行ってみないことにはわからない……」
イタ吉のツッコミに頼りない返答を返した。
ニンゲンの経路を確保しながら行くからとにかく道や空間の確保も欠かせない。
幸いそのためのバックアップも貰っている。
その後もしばらくは作戦会議をして大山脈へと挑むこととした……
村はこちらの身分と目的がはっきりしていたので快く迎えそして送り出してくれた。
やはりこのふもと村にとっても大山脈の1番高い山頂経由での反対側移動は一種の夢らしい。
中には『ついに国が本気を出してくれた!』と喜ぶものも。
私達を応援してくれているのはうれしいが果たしてそううまくいくのか。
とりあえず山を登り始めることとした。
まだここは山道がしっかりしていて看板もある。
[この先登山コース 雪山装備無いもの、命の惜しいもの、引き返せ]
その文字を読むだけでもドキリとして身の引き締まる思いだ。
そう。ピクニックにいくわけじゃあない。
遥か見上げても届かない。"鷹目"で見てもまるでたどり着かないその先に私達は行くのだ。
死地へ。
順調に3合目まで登りつめてきた。
いやまあ順調というのは雪で早速道が壊滅しかけているとか魔物がガンガン襲ってくるとか吹雪がつらいとか置いといてだ。
これが初夏の汗のにじむ陽気のはずな時期だ。
とは言っても事前に聞いていた内容と一致しているので想定内。
私達は最新の魔物用雪登山装備で身を固めている。
体中を覆う外套。
口元すら隠し深い奥に目だけ覗く。
耳先もしっかりガード。
雪を踏みしめる足には登山用スパイク靴。
みな4足だし杖はないがちまちま歩いている。
「んあー、視界悪いなー」
「"クリアウェザー"で天候の影響は受けず、"ヒートストロング"であったかくても、山の天気が変わるわけじゃあないからねー」
イタ吉の愚痴もよくわかる。
順調に走り抜けられているものの少し先は白く染まっている。
少し吹雪いているせいだ。
ただこれが特別天候が悪い日というわけではない。
ふつうの状況でこうらしいのだ。
"見透す目"で白い霞の向こう側をしっかりチェックしつつ進む。
何せ……ほらきた。
狼系統の白い毛皮の魔物たちだ。
こちらを狙っている。