四十七生目 血々
非人道的な残虐描写や大量の血液表現があります。苦手な方は深呼吸してからご覧ください。
ガンガン頭の中で戦いの音がヘビーローテーションする。
まあ今実際に鳴り響いているけれどね。
外からも中からも殺し合いの音が支配している。
最高に戦場に集中できる環境だ。
魔法クールダウンを自身に唱える。
これで熱くなりすぎた筋肉や焼けた肉から余計な熱がとれた。
毛皮はすぐあつくなってかなわないや。
相手も羽毛のせいで熱がこもり既に肩で息している。
戦って気づいたのは彼は剣術ド素人だと言う事。
格闘術の方がうまく、剣は型すらない。
棒切れを振り回す子どもに等しい。
まあでも力をこめてブンブン振り回すだけで脅威だからねぇ。
圧倒的なパワーとスピードで振るわれるだけで十分脅威だ。
フェイント等ないぶん素直で避けやすいとも言える。
そもそも電気の力からすれば剣の練習なんていらない。
近くを通るだけで感電させられるし多くの相手は雷を飛ばすだけでダウン。
だからこそだ。
やつが今、命をかけるまでに追い込まれた表情。
死にたくないという思いがどこまで大烏を動かすか。
窮鼠猫を噛む、追い詰められた側になって初めて出せる力もある。
さあ来いよ、全力を全力で返してやる!
「私が……ここまで! 言語を話し、姿を変え、あまつさえ私を追い詰める!? なんなのだお前は!」
「ただの少女だよ」
血と心臓がよく似合うまっかなまっかな少女だがね。
大烏が私の言葉を聴くと表情が明らかに歪んだ。
人が悪魔を見つけた時のような顔。
魔物なのに良い子ぶった奴の心。
善とか正義とか勇気が支えているのが滲み出ている。
そんなんじゃないだろう、お前はさ。
「化物めっ……!」
震える本能を抑えつける勇者気取りの武者震い。
長らく忘れていたであろう生存し未来を栄えさせるための生存戦略。
『逃げろ』という囁きを無視するための一言。
相手を絶対悪と捉える狂言。
いいね、そうやって身体を納得させてまで戦おうとする心。
自分は楽しむのではなく生き残るために戦わねばという前提。
裏に隠されたバイオレンス的狂気。
楽しむための役割ゲームだ。
そして"私"は最高の笑みを返した。
「最高の褒め言葉だ!」
大烏がついに剣を捨てた。
雷で出来た剣は空中に霧散。
剣を維持する行動力がもったいないのもあるだろう。
だが全身からほとばしる電気は増し、歩くだけで危険を撒き散らしている。
身体に雷魔法を最大限回してきたらしい。
"私"も魔法で動ける秘密である、麻痺無効をこっそり唱えておく。
「お前は、確実にここで仕留めねばならない!
お前のようなイレギュラーは必ずどこまでも、私たちに害をもたらす!
邪鬼たる存在は清浄なる雷撃の拳で消えろ!」
大烏が跳ぶ。
低空滑空からのインファイト。
電撃と拳それに爪。
やつが持ちうる限りの力を持って"私"を殴る。
やはり電撃は恐ろしい。
避けても避けてもおまけが飛んでくる!
影避けでは回避が追いつかない、守備系魔法を切らさずに避け続ける。
ヒーリングと避けを駆使し防御で致命傷を避ける。
それでも雷撃が爪が"私"を焼き切る。
熱い魂がこもった乱打だ!
うれしくなるよね、楽しくなるよね。
闘いはたのしいね!
良い顔だ!
拳を振るう度に高まる心を感じている、そんな顔だ!
剣なんておもちゃだった、そう感じる良い振りだ!
剥き出しの野生が、生まれつきの本能が、原始的な遺伝子が!
闘いを肯定している!!
全身が震えるほどのお前の全力、受け取った!
意思の強さ、アドレナリンの麻酔すらも凌駕する肉体のオーバーヒート。
全身に電撃をめぐらせて無理矢理負荷をかけまくった筋肉が悲鳴を上げる瞬間。
その限界を見極めた時"私"はその拳を、牙で受けた。
雷撃と左拳の力でいい感じに熱が入る口内。
だが炎の牙も負けてはいない。
ちょっと魔法をアレンジして炎を牙が刺さった場合に全力で送り込むようにしておいた。
「ぐわああぁーっ!!」
普段ならあっさり振り切られていただろうがもうその力が残されていない。
腕全体がレアな焼き加減になったんじゃないだろうか。
良い具合なので離してやると大きく仰け反ってたたらを踏んだ。
そして私は跳んで前足の爪に力を込める。
少し光る爪は炎を纏ったまま焼かれた腕へ振り下ろされる。
「っーー!!」
声にならない絶叫を上げる大烏。
跳ね飛んだ左腕がその原因を表していた。
だが"私"はそのままタックルで押し倒した。
あれほど立ち続けた腰は限界だというように面白いほど簡単に地面へつく。
腕から飛び散る血が私を歓迎してくれる。
朱くサビた熱の塊はとろけるほどに快楽を呼ぶ。
芳香を口で味わって喉を通す時など骨髄が痺れてくる。
一種のジャ香とも言えるほどの甘さは動脈から直接出てきたものが良い。
ああ、けらけら。
けらけらと嗤いが止まらなくて何がオカシいか。
身体が悶えるほどの悦は空にのぼるほど。
最高のブドウ酒はココにあったんだ!
まあ、知識でしか知らんけどね。
ああ、これ程の悦び。
もっと欲しいよね?
だから。
さあ、"私"の種族術を見せてやろう。
この姿になって初めて使えるようになった種族特有の術。
"針操作"
これを使えばリモコンのように背中の針を動かせるがそれだけではない。
真価は私の背から操作で引き抜いてこそ。
ブチリと背中からちぎれぬけた針達はそのまま宙に浮く。
炎を纏ったまま針が大烏を全面囲むように広がった。
"私"による最強の技。
全方位絶望が覆い尽くす光景。
肺の中身を全てぶちまけるほど吐き出してもなお何かを出そうとクチバシを動かす大烏。
果たして彼がなんて思ったかはわからないが……
とても楽しかった、ありがとう。
針は"私"の操るとおりに大烏の全身を射ぬいた。
そして血の雨が降る……
「う……あ……?」
大烏にしてみれば、もう全面的におかしいとしか思えないだろう。
全身を串刺しにされ気を失った大烏。
確実に死んだはずが今は汚れているくらいで健康体。
左腕も戻っている。
あの後"私"の進化が解けた。
元に戻った反動でサイズ差や力差が大きすぎてふらついたが、今は平気だ。
そーれーよーりーも!
私は"私"にドン引きだ!
ヒャッハー系に病んでる系足しているんじゃねーよ!
根本的には同じ私でも、職場でダレとも付き合いがない奴がネットでははっちゃけまくって本名知らない友達たくさんレベルの違い!!
私はモラルある一般小市民として断固としてマトモだと主張するからな!
"私"だけど、私だけど!
進化時はあれこそが強く出るってだけだから!
とりあえず私はあの時、自分をヒーリングで治しつつ相手の様子を見た。
気は失っているが確かに息はしている。
実は、最後の攻撃に私が介入してスキル峰打ちにした。
それ以外にも肉体を使った攻撃にはスキル無敵を上乗せしていた。
最後の方には効果が出たようだがかなり無敵の力を防がれたらしい。
精神的な抵抗力も高かったのだろう。
串刺しにしつつ無敵と峰打ちによって瀕死でとどまった大烏にアレコレと治療をほどこした。
クールダウンで熱をとったりヒーリングで生命力治したりイノスキュレイトて縫合したり……
エクスキューションした"私"がめちゃくちゃ全力でトドメさしたせいで生き残れるかはわからなかった。
だがさすがというか、スキルで常に治り続ける大烏はしっかり回復しきった。
無敵とヒーリング重ねがけは何度も実証しているので効果は確かだろう。
レベルも今回の戦いで2つ上がった。
スキル関係もいくつか強くなっている。
まあそれは後だ。
洞穴の奥へ運んだあと、説明して大烏は寝かされていた。
そして今、彼は目覚めた。
「何故……?」
それが大烏がやっとはなせた一言だった。
何故。
なぜ生きているのか。
なぜ治っているのか。
なぜ負けたのか。
なぜ殺し合った相手が姿が戻って目の前にいるのか。
なぜもう殺す気がわかないのか。
様々な何故が込められていた。
だから私は義務を持って返した。
「運が良かったからだよ」
「そうか……」
それきり大烏は黙ってしまった。
その間に一方的に私達側からの戦勝要求をつきつけた。
野生生物らしくはないだろうけど、まあ烏たちは頭が良いみたいだし理解は出来るようだ。
無敵が効いてもう反抗心はないだろうしね。
1つ。
私達ホエハリ族への襲撃禁止。
まあ言うまでもないけれどね。
1つ。
私達に対し埋め合わせをすること。
詳しい話はこちらで詰めて後日渡す。
1つ。
群れへの正式な謝罪。
それはこの後連れて行くときに。
これら諸々を細かく説明し、ゆっくりと伝えた。
実はもう私も行動力が少ないし、この姿だと術の制御があまくて声の再現が難しいのもある。
それにわからないだろう言葉はちゃんと訳さなくてはならないから大変だった。
戦闘中じゃないから幸楽でじわじわ行動力が治るんだけれどね。
そしてなんとか伝えきった時に長い沈黙が訪れた。
そしてゆっくりと重々しくそのクチバシが開く。
「私は……全面的に従う。それと」
そこで一回切ってためてから話した。
「私は、貴方に忠誠を誓いたい」
TIPS
峰打ちは保証:
スキルの峰打ちは威力を下げる代わりに必ず相手が無事な事を保証するよ。
どれだけ消し飛ばすような力でも峰打ちならば相手はギリギリ生き残れるんだ。