四百八十八生目 親子
新しい武具考案。
今までなんとなく使っていた土の加護を含む加護に対して本格的に取り組むつもりらしい。
私の種族ケンハリマのようなホエハリ族は全員土の加護を生まれつき得ている。
加護とはその属性を持つものを愛し愛されやすい。と"観察"した時にかいてあった。
実感として理解できる範囲だとまず地面に降り立っている時の安心感だ。
建物や空中や水中の時より圧倒的に大地に包まれる安心感がある。
……なんだかインカやハックは乗せられて飛んだりしていても平気そうだったが……うん。それはそれだ!
それに魔法だ。土系統の魔法が無条件に強化されている。
昔土魔法の加護のない土魔法を見たがこちらの"Eスピア"が1撃で致命傷を与えそうな巨大な槍だとすると。
加護なしの"Eスピア"は細く繊細で身を削らせる程度のもので切り払えば折れてしまうだろう。
そしてよくお世話になるのが土の加護による製造だ。
なんとなく感覚で土焼き製品を作っても上質なものが仕上がる。
逆にしっかり考えて窯で焼けば高級品に優るとも劣らない。
そして……これらに私の何かを混ぜ込めば加護を添加したものが作成できる。
これがすごくて効果の大きい血液なんかを使えば軽く意志を持たせられる。
私の剣ゼロエネミーも同じだ。
媒介として私の黄色い血液が最高なのは間違いない。
ただ衛生的に抜く手段も乏しいうえになんでもかんでも血をやっていたら私が倒れる。
だから……
「そうだ。これなんかどうかな」
私は全身から針を生やした後"針操作"で抜く。
言うの忘れてて一瞬ギョッとされてしまった。
まあ私の全身針状態だなんて珍しいしね。
「おお!? お、おお……一体どうなっているんだ、その身体……」
「うーん……なんかできるよ。わりとスッキリする」
「貴重な素材がこんなにたくさん……! やっぱりここに来て良かった!!」
カンタが針を拾い上げ感激しているのは相変わらずだなあ……
……ん? 誰かニンゲンが近づいてきている気配。
冒険者かな?
「うわぉ、相変わらずジャイアント級の区域はすごいな! 自分が小さくなったみたいだ!」
おや。この声はオーガのアマネだ。
同じ冒険者ギルド"クーランの銀猫"に所属していてちょくちょく遊びにくる。
ニンゲンの中で珍しく私が魔物だと知っている昔からの味方だ。
そしてジャイアント級というのはニンゲンたちの特に冒険者が使う指標のひとつ。
つまり巨人なサイズの魔物でジャイアント級。
目測判断なので各自ズレはあるけれどね。
「おっ!?」
「お?」
あれ。なぜかカンタがいきなりピンと立ち上がって震え奇妙な声を上げた。
つまり異常にビビった。
なんでだろうか。
「あ、ローズさーん! その上にいるね! 今そっちに……あれ? そこの人……」
「ち、ちょっと急用を……」
いそいそとカンタが走って机上から降りようとする。
しかし冒険者の鍛えた速度は鍛冶屋の慌てた動きだなんてゆったりしたもの。
あっさりとアマネが追いついて回り込まれる。
「あ」「あ!」
「「ああー!!」」
互いに指差し悲鳴と驚きの声が交差した。
「ということは、親子?」
「ええ、まさか私のバカ親がこんなところでお世話になっているとは本当に思ってなかった……」
「ま、まさか魔物狩りの娘がこんなところに来るだなんて……」
カンタはアマネの父だった。
というのは確かに驚きはしたが心当たりはある。
たとえば今なんかもふたりともごく自然に私の身体を撫でている点だ。
「もう最悪……こんなところで父さんに会うだなんて」
「家を出たアマネにここで会えるだなんて、喜んで良いのかどうか……」
そんなことを話しつつ私をひたすら撫でている……
ううむ前世的な感覚だとアレだかま毛皮を丁寧に撫でられるととろけるような良さがあるのも事実。
なんとなく私も逆らうことなくふたりの久々の会話を聞いている。
「パパな、ここで暮らしているんだ。なんとか頼み込んでな。今もこうやって仕事をな」
「くうぅ、私のリラックス場所が……! とにかく私には関わらないで! 主に視界内に入らないで!」
「ひどくないか!?」
カンタがなんとかごきげんとりをしていたらアマネ罵られて顔を青くしている。
なんとも難儀そうな親子だ……
「来たと思ったらいきなり親子ゲンカとは、一族の足並みは揃えねばならぬぞ」
「大丈夫! すでに私は彼の『一族』からは抜けてるから!」
「そんなー!」
「……それなら仕方ないな」
ううむ。サイクロプスリーダーもあっさり引いてしまった。
まあ親子関係に下手に首突っ込まないほうが良いか。
……うつら。うつら。
いけない。抗い難い気持ち良い眠気。
おやすみなさい……