四百八十五生目 暴力
インカからの定時報告は続く。
『その四天王? とまあひたすら吐くくらいいじめぬかれたと思ったら、今度はいきなり休めって……早速来たの後悔しそう』
『大丈夫? というか部下たちは?』
『あー、それは……ええと、まあ』
なんだか言いよどんでいる。
まさかやはり彼らに殺されたり――
『めっちゃ元気に訓練してた。俺よりもな……』
『ブッ!?』
『俺のリーダーとしてのプライドとか、こう! 見込まれてやってきたのは俺で他はついでに扱いなのにー!』
思わず噴き出してしまった!
しかもインカは結構本気で悩んでいる口ぶりだ。
まあ……大変そうだろうけれどいいこたちだから彼らは……
『でも、なんだか平和そうで良かったよ。私はずっとカエリラス関係じゃないか心配だったから』
『まだカエリラス関係のほうが良かったよ……まあそこに関しては引き続き探るよ。聞いてみたら世間のことは知らないって返されたけれど』
『聞いて答えてくれるのはタイミング的にバレたときくらいじゃないかな……』
調査の方向に不安はいだきつつも会話で定時報告をアレコレと受けて……
そして最後に。
『そういえば妹、すごい甘ったるいにおいのする植物手に入れたから、入れといたよ』
『入れておいた?』
『ほら、"ストレージ"って魔法。アレ借りた場合お前のに入れることもできるんだよ。知らなかったか?』
知らなかったのです。ハイ。
そうか他者が"率いる者"で借りて使うとそのような効果が……
『いやあ、みんなその魔法はあんまり使っていなかったからなあ』
『お前のものにしたものは取り出せないけれど、お前のところに入れることはできるみたいだからチェックしておいてくれ』
そう言われ早速空魔法"ストレージ"。
亜空間に口を突っ込んで念じることで探る。
……お。これかな。
亜空間から取り出したのはひとつの鞘豆にも見える植物。
これは……そしてこのキツすぎるほどのかおりは。
"観察"! あ。バニラビーンズだ!
コレは……早速アレに使おう!
そうして数日後から『このかおりがないとバニラアイスじゃない!』と言う触れ込みで投入された新バニラアイス。
フレーバーかおるそれは大変好評となったけれど。
大量注文に私が代わりに追われることとなった……
そして勇者ことグレンくんからも連絡が来た。
『――と、順調に旅を続けているよ!』
『へえぇ、ここのところ大活躍だね!』
勇者グレンくんはメキメキとその頭角をあらわしてきていた。
レベル上昇と共に成長する姿は10歳ほどとなり武器もまともに扱えるようになってきていた。
扱える。というのは誰かに傷を与えられるようになってきたということだ。
もし誰かに刃を向けられた時に自分の手の届く範囲だけでも守りきる。
その力を鍛えられていた。
そして心も。
ただまあ何より楽しんでいることは何よりだ。
陰鬱にバトルして陰鬱に成長するのもなんか違うしね。
殺し合いはしたくないけれど。
ゴウやダンそしてオウカはグレンくんに色々と教育しているようだ。
特に礼節。強くなるとマウントをとりだして横暴になりがちだ。
食事から他者の悪意に立ち向かうことまで性質の違う暴力。
それを行うということを理解するというのを順番に行っているらしい。
ただなぜかかなり大人びていてるグレンくんはすんなり受け入れすぎていて驚かせている様子がグレンくんからの報告でもなんとなくわかった。
『そうそう、それと最近なぜか写し絵をよく撮るんだ。しかもなるべく俺が写り込むように』
『写真……写し絵を?』
ふむ。観光気分かな?
というわけでもないか。
『ええ。みんな撮りはするんだけれど俺だけかなりの枚数写されて。まあ最初は困ったけれど最近はすっかり慣れてきて。聞いても、重要な記録なんだってはぐらかされちゃっていて』
『なーるほど……やっぱり、重要な記録だよ。それに今もどんどん成長しているんだよね?』
『え? はい』
こっちの質問に要領を得なかったみたいでキョトンとした声が帰ってくる。
念話は結局のところ思考だ。
心の想いが乗りやすい。
『それは多分、親御さんに見せるために撮っているんだよ。無事ですよ、元気ですよって』
『ああ、父さん母さんに……元気かなあ』
『親御さんってどういう人たちなの?』
『ええと――』
写真は彼の過ぎ去る時を少しだけとどめてくれる。
それを共に過ごせない親御さんへのオウカさんなりのケジメだろう。
空魔法"ファストトラベル"で帰れば……と思うがグレンくんはそれをしたがらない。
決意がにぶるからだそうだがだからといってたよりなしで延々と旅させるのも酷。
折衷案というものだろう。
ちなみに最近知ったが親御さんは半ば諦めていて『変わった子だとは思っていたけれど勇者とは』『元気に生きて好きなことをして最後に帰ってきてくれれば良い』と言っているそうだ。
そんな親の心知ってか知らずかグレンくんは楽しそうにその親について語り続けた――……