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四百八十四生目 手離

「先程から呼びかけてはいるのですがほぼ反応はなし、触れればわずかな反応は見せますが基本なされるがままです」

「たまに顔は見に来ていたんですが、目を開くのは初めてで……」


 今までも上がっていた報告だと。うめいたり苦しんだりはしたそうだが意識はなかった。

 それが今日になってやっと起きたものの心ここにあらずと言った様子。

 ニンゲンの少女はどこを見るでもなくただひたすら下に顔を向けていた。


 言語が違うということはない。

 "観察"してちゃんと帝国語なのはわかっている。

 ほかのみんなも自動翻訳の受信機があるからやり取り可能だ。


 それでも反応しないということは心の傷により自身と世界から拒絶を起こしているのか。

 本来は防御のただしい反応で一時的に避難し癒えるのを待つのだが。

 あまりにストレスなどが過剰だと拒絶防御のスイッチが切れなくなる。


 そうしてどんとんと拒絶の範囲が広がってストレスに対する感情どころか全体が希薄になっていき止まってしまう。

 それが現状に近いか。

 ふたりにそれを説明したらコルはメモをとりドラーグは慌てふためいた。


「今後の治療の参考にします」

「わわわ、ローズ様、治せないの!?」

「状態異常じゃないからね……」


 誘惑が解けても誘惑中に行った記憶が消えず時にはその行いに心の傷を負うように。

 精神の異常があったという記憶から来る心の傷自体は癒せない。

 こっからは医学の出番だ。


 ……うん? 誘惑中のことの記憶は完全ではないけれど残る……何か忘れているような。

 まあいいや。


「うーん……何か僕にできる事は……」

「……あ、そうだドラーグ。あの時にドラーグに対して反応したんだよね? あの時の姿再現できない?」

「え!? ちょ、ちょっと待っていてください!」


 裏の扉向こうへすっ飛んでゆきバタバタと騒がしくしたあとまた戻ってきた。


「できました!」


 ニンゲンの町に潜伏するさいの2m程度の身長。

 大きな布を巻き付けた旅人風の姿でやってきた。

 ちなみに10%の姿と言うらしい。


 歩み少女に近寄る。……ん? 今彼女がわずかに肩を震わせた?


「ええと、確かあの時は手を……ごめんね。さわるよ」


 ドラーグがそう言って手先を伸ばしていく。

 爪先は光に溶かしていて鋭くない。

 本当になんでもできるんだなぁ……


 感心していたら少女の手が触れた。

 ただしドラーグからではなく少女から手を置きにいったのだ。

 当然みんな息を飲むほど驚く。


「う……」

「「動いた!?」」


 少女は顔をドラーグに向けその虚空の瞳にぼんやりとドラーグを映し出す。

 手は弱々しくドラーグが引けば簡単に落ちてしまう。

 戸惑いながら改めて少女の手へドラーグが重ねた。


「ええと……どう?」


 要領を得ない問い。

 しかしゆっくりわずかながらだが首が動く。

 縦に肯定するかのように動いた。


 ただそれっきり。

 少し時間が経ちドラーグが息を漏らすような弱々しく声で鳴いてこちらに助けを求めだした。


「少しの間、好きなようにさせてあげたらどう? 本体じゃあないんだし」

「そちらのほうがこちらとしても助かります」

「ええ!? ええ……は、はい」


 コル共々の押しにドラーグが折れた。

 ちなみに分身体の意志はどうなっているかというと本体と同期しつつ同調しているのだとか。

 本体もニンゲンの街で苦笑いしていることだろう。


 そっとドラーグが離れようとすると腕は伸ばすから最低限の意志はあるようだ。

 もちろんココからが大変なんだろうけれどね。






 とある日の夜。

 定時連絡を受ける時間だ。

 早速かかってきた"以心伝心"による念話に応対。

 これはインカだ。


『もしもしインカ兄さん?』

『ああ……妹……定時連絡……だ……』


 いきなり念話が死にかけているんだけれど!?

 何があった!?


『え、何その疲れ切った声!』

『しゅ……修行をな……前言っていた通りやったんだ』

『ああ……あの、うさんくさいニンゲンに誘われて向かった先についたんだ。しかも早速修行を』


 インカは少しずつ調子を取り戻しだす。


『ああ……すごい疲れたよ。初日だから軽くって言われてそのままボコボコにされて……すぐ治療されたと思ったら修行メニューが決まって山を走り回されて……』

『うわあ……殺されなかったのは本当に良かったけれど、何が目的でそんな鍛えることをインカ兄さんに……?』

『うーん、まあ前も言ったけれど、彼らは見込みがあるものを鍛えているんだってさ。まあすぐにみんな逃げ出すらしいけれど……』


 うーん……鍛えるのが趣味?

 と言うか今のええと。


『彼、ら?』

『ああ、なんかたくさんいたぞ。4人? くらいかな。してんのうー……とか言っていたぞ』

『四天王?』


 なんなんだろうか本当に。

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