四百八十三生目 歴史
こんにちは。私です。
さっそくウォンレイ王の図書にいます。
ざっと開いて読み込んだのは歴史や土地柄の情報でこのウォンレイ王がおさめる範囲に関すること。
『赤茶』と『青茶』の町は古代では同地域で慎ましくも仲の良い同じ地域の場所だった。
しかし時は乱世。多くの者が城を持って小さな国々を様々な力でひとつにまとめ上げようとした時代へ突入。
当時の武将たちがせめぎ合い勝ち取った範囲がちょうど『赤茶』と『青茶』の町の間にあたる。
ここから確執が始まった。
当時の王たちにあたる人物はこの地を最前線として幾度も小競り合いを続けた。
当然兵たちはそれぞれの町に滞在する。
日々隣に不満を漏らし仲間を傷つけられた怒りが蔓延しやがて本格的に住めば隣への確執が根をおろす。
そんな状態が常態化しだしたころいきなりその均衡は破られた。
3大勢力に絞られその時に飲み込まれたのだ。
ちなみにその時の中心地が3つの大都市として残っている。
隣町同士ではあったが引かれていた防衛ラインが突如取り払われいきなり味方同士となった。
今まで散々相手の悪口をつぶやかれ扇動し争いの火を絶さなないよう調整していた2つの勢力と武将たちはまったく別の武将が首をとりもういない。
結果行き場を無くした感情は爆発した。
互いに癒えぬ傷を残す戦いは内乱扱いで当時治めていた武将の命で制圧。
その後さらに3つの勢力は平定し帝国が誕生する。
だが感情だけは今だ脈々と受け継がれ現代までより多くの恨みを積み重ねているのが現在の姿のようだ。
かなしいかなもはや魔法の解決の糸口なんてものはない。
時間をかけて新陳代謝を促すという方式が残された王道だ。
それまでなんとか痛みから目をそらさせないといけないからウォンレイ王はこれからが大変だろうね。
まあまずはカエリラスの解決だ。
私は広げた本たちを閉じ返却した。
次はこの本たちかな……っと。
ニンゲンの種族について。
今までざっくりとしか理解していなかったからね。
ざっと速読して……次はこっち……
……そして咀嚼。
つまりよーく理解する。
ふむ。意外な事実だ。
ニンゲンはそもそもが1系統にしかなれなかったらしい。
プラスヒューマンとかダブルヒューマンとかだね。
そして仙人まで至ればそれは凄いらしいがとにかく別へは行かなかった。
ただ遥か昔……それこそ魔王が暴れたり中世があったりする前。
前世で言う紀元前後あたりっぽい。
災厄が起きた。と記されている。
とにかく世界を破滅に導くものだったらしく記録も多くが途絶えている。
ただ赤に沈んだとされているそうだ。
そして神に祈り……ここらへんもまだ不明点が多いと指摘されていた。
ニンゲンたちはその後に多数の種族へトランスできるようになり災厄を何とか生き延びたのだとか。
なんとかというのは文字通り本当にわずかだったのではないかという考察もなされている。
まだ研究途上の分野でどんどん発見していきたいとされていた。
どこまで真実かもあやふやだが神話と歴史が混ざっている気はする。
ただこの世界は魔法とか神とかアリだからなあ……
さて次はどの本読もうかな……
「あ、あの人また読む本変えている……」
「あんなザラッとみただけで何がわかるんだろうか……?」
司書管理のニンゲンや他に本を読んでいるニンゲンたちが先程からなにやら小声でつぶやいている。
ただつとめてスルー。
大丈夫ですよ! 速読しているだけですから! とわざわざ言うのもアレだし。
(まー、アインスの力だしね!)
うん。情報解析は確かに並行でやったほうが速いから助かる。
ドライはこういう時は協力してくれないけれどね。
血と戦いとは程遠いから。
こんばんは。今日はアノニマルースの診療所に来ています。
そこの入院施設で眠っている唯一のニンゲンの子が目を覚ましたと連絡を受けてやってきた。
先にいたのはコボルトのコルと竜のドラーグ。
ドラーグは本来あまりにも巨大だが肉体を光に溶かして表に出す質量を減らしたりまた分身ができる。
今ここに来ているのは分身の1%モードとよんでいるマスコットキャラサイズのドラーグだ。
「失礼しまっ……おっと。おはようございます」
「あ、ローズさん」
「見てください、起きてはいるみたいなんですが……」
コルが私の近くへ来てドラーグはうながす。
ベッドの上で身体を起こしている少女のニンゲンを促されるまま良く見てみると確かに起きてはいるのだけれど……
こういうときなんて表現したらいいか。
まさしく目に光がない。
いや治療はしたから目から神経を通って脳に光景が伝わってはいるのだろうけれど。
何も映しておらずただぼんやりとした暗闇があるのみみたいなそんな目だ。