四百八十ニ生目 恋仲
『赤茶』町と『青茶』町会談。
町長ふたりの戦意をなんとか鎮めるのに期待されるダンダラ。
話し合いは2日目にこじれていた。
さらに3時間が経過して昼に。
昼食が運ばれて……
2日目開始から4時間。
急に扉が開かれた。
「終わったぞ! ローズ!」
そう言ってダンダラがこちらへやってきた。
その後にゾロゾロと中の人たちが現れる。
雰囲気は前と違って何やら明るい。
その代わりダンダラだけは生気をひと通り絞り尽くされているかのよう。
フラフラーっと歩き軽く手を上げてそのままどこかへ行った。
おそらく休むのだろう。
最後にウォンレイ王が出てくる。
実に晴れやかな顔をしていた。
「みな御苦労だった。兵たちは解散!」
その言葉を聞き一斉に敬礼してから兵士たちは散開していった。
ウォンレイ王は私にも気づきうんうんと頷く。
「何事もなく歴史的和解が成立したよ。もちろん、今回は刃を納めるという程度のものだがな。それでも互いの交渉を思うにかなり奇跡的だ。カエリラスに襲われずに済んだしな」
「そこまでかの町たちの対立は深いのですか?」
「ああ。興味があったら歴史を読むといい。図書の本が読めるように手配しておこう。今回の報酬という形でね」
「ありがとうございます!」
城の本を読めるようになるとは!
市民には基本解放されていない主に保存を主軸とした図書。
軍事的に重要な地理情報なんかもあると言われている。
つまりかなりのものだ。
ダンダラにも同じ報酬を用意するそうだ。
「とは言っても、皇帝陛下の王子にとっては、そこまで魅力的な提案にはならないよなあ」
「えっ!? 王子!?」
今何かすごく聞き逃せない単語が流れてきた。
誰が王子だって?
「うん? ああ、知らなかったのか。あまり言いふらさないように言われていたんだが……ここまで言ってしまったから仕方ない。
皇帝の第4王子こそがダンダラ殿下だ。権限はあまりないとの噂だが……実力を示し、皇帝陛下から直接宝石剣を承ったそうだ」
「し、知らなかったです……」
「本人が秘密にしていたのなら、今後も知らぬフリをしておいてあげてくれ」
ううむ難しい話を……
仕方ないので胸に秘めておくことにした。
その日は速達だけ町に出し重要メンバーは宿泊した。
翌日に"ファストトラベル"を使って全員で帰った。
もちろんバローくんがやったと見せかけて。
それでなぜ刃を収められたかと言うと……
「喜んで欲しい! 相手の町から根こそぎ有利条件引き出した!!」
「「おおー!!」」
……というやり取りが双方の町で繰り広げられていた。
つまるところダンダラがうまく口論と資料のやり取りでまとめてしまったわけだ。
王子の話術恐るべし。
互いの刃が納まるところにおさまりやっと私の用事をこなせる。
識別を作ってもらおう。
「どうだぁ? 締まりすぎてないかぁ?」
「いや、いい感じだ」
「いや〜、一時はどうなることかと思ったけれど、みなさんのおかげで無事出来たっすね!」
ここはとある名もなき洞穴。
職人のザケさんが鮮やかに手付きによって完成させた識別輪。
特殊な鉱石は見間違えるほどにピッカピカに磨き上げられ再帰性反射材のように光を跳ね返して来る。
それをダカシに魔物使いギルド員のウノが取り付けた。
前脚にオーダーメイドのそれがはめられて埋め込まれた反射材がきらめいた。
これで目的は達成だ。
ジャグナーの識別輪はトランス時に破損したので修復済み。
トランスしたらサイズの変化で壊れてしまうことはありうる事態なので改善していきたいのだとか。
「まっさかあんな騒動が起こるとはな〜、何事も無かったのが奇跡的だけれど、今後は会うのが難しくなってイクかもな〜、ザケ」
「いや、それは――」
ウノがザケにそう語りかけるとザケは帝国語で困惑する。
ザケの表情は長い毛皮の向こうでよくはわからないが短い手足が非常に慌てているのがわかる。
「だけど、オレは決して諦めねぇからな〜、ザケ!」
「わ! ……ウノ、ワタシもだ」
ウノがザケに軽く腕を回すと傍目から見ても湯気がでるほど恥ずかしがる。
そしてザケもその短い腕が相手に回りきらなくてもひっしとくっつく。
改めてウノがザケをしっかりと強く抱きしめた。
周囲が何となくきらめいている気がする。
……のは良いんだけれどふたりの関係性って……
まあそこを突っつくのはヤボか。
「いきなりじゃれあう程度に仲が良かったのかー」
「あの体勢から締め上げると効果的だな……」
「はっず、ふたりっきりでやってくれ!」
イタ吉やジャグナーそしてダカシはみなそれぞれ抱く感想が違ったようだが……
「ま、ハッピーエンドかな?」
ダンダラがしめてその場は解散となった。