四百八十一生目 噴煙
犬猿の仲の隣町同士で町長2人が会談。
そうしなければ収まらないほどに争いの火が燃え上がっていた。
町長2人とも戦意をギラつかせて会談に挑む。
戦意はギラつかせないで欲しい。
それはともかくふたりは公平を期すためウォンレイ王の城会議室へ。
ダンダラやお付きの護衛それに秘書あたりも会議室へ入る。
「じゃあ、後はよろしく。外の警備は任せて」
「ああ、やってやるか……!」
こうして会議室の扉が閉じられた。
私は彼らが何時間も会談をしている間扉の前で座って待機する。
たまたま高い力を持った町民が転移してきて乗り込んできたり長くなると予想される会談に高速移動してくる者もいるかもしれない。
そして何よりカエリラスだ。
前もこうやって重要人を集めたらそこをカエリラスの暗殺者に狙われた。
戦力は絶対に必要だが私以外ニンゲンへの擬態が出来ない。
彼らはアノニマルースに帰って休んでもらっている。
なので私がここにいるわけだ。
ウォンレイ王も常時ではないが会談が決闘場にならないかたまに見に来るらしいから死守する必要がある。
なので当然兵たちも警備に当たっているけれど……前回の会談時はここではないが騎士たちみな死ぬという事態だったからね。
今回は私は会談に参加せず表で待つことで本当に危険な事態を避ける。
そう意気込んで兼ゼロエネミーを鞘に収めたまま抱きかかえイスに座り待つ。
さすがにみな緊張しているらしく兵士たちも定時的な報告以外の言葉はなくただ足音が響くのみ。
30分立つと会議室からウォンレイ王のみ出てきた。
これは事前の話通り。
全員起立し敬礼。
「ご苦労。またしばらくしたら戻ってくる。終わりそうにはないからな……」
そう頭を抑えながら去っていった。
大変そうだ。
会議開始から1時間経過。
偏頭痛が響く。
理由は"止眼"の使いすぎと疲労だろう。
今回は特にリビングアーマー戦でよく使ったからなあ……
アレは脳を疲れさせる。
今の内に休んでおこう。
会議が始まり2時間。そして3時間。
終わる気配は無く動きも何もない。
持ち場の交代する兵たちも増えだんだん雑談も出てきた。
私も少しずつ話に加わり兵たちと交流を深める。
剣の話が出てきたのでゼロエネミーを見せたら感嘆が上がった。
自慢の剣なので素直に嬉しい。
4時間に5時間。
ついに夜食が配布された。
簡易なものだけれど今はありがたい。
何せニンゲンの料理はあまり身体にあわないものも多いから……
いや単純に前世のもののレベルには追いついていないこともあるがそれを加味してもだ。
単純な黒パンをスープで溶かしつつ食べるのは結構スキだ。
会議開始から6時間。
ウォンレイ王がふたたびやってきた。
兵たちや私が身辺のチェックを行い本人確認がとれてから入室。
もちろん本人の希望である。
こうしたほうが偽ってやってくる暗殺者を避けられるからだ。
「御苦労」
中にウォンレイ王を通して一息つきまた着席。
……っ!
まるで景色が歪むかのような感覚に襲われる。
三半規管が狂い胃の中のものを出しそうになる。
これは……定期的に訪れる私が進化酔いと呼ぶ症状だ。
今の姿であるホリハリーは"進化"して得ている姿だ。
一時的な変化である進化を継続するために定期的にこっそり4つの魔力を融合させ爆発的エネルギーを体内に循環させている。
つまり異常な状態なのだ。
多大な魔力は徐々に燃え尽きた灰のようなものが蓄積され一定量を越えると体調不良を引き起こす。
周期的に引き起こるのはそのせいでしばらくするか"進化"を解くかすると治る。
それと私の"森の魔女"の力で研究した通り魔力をコントロールし燃え尽きた灰のようになった魔力カスを排出するか。
お手洗いと言ってこっそり抜け出してトイレで発動させる。
こればっかりは見た目に出てしまうので隠れてやるしかないのだ。
頭先から光が輝き下へと輪のようになって順に降りていく。
最後に尾から光が溢れ霧のように噴出される。
イメージとしては噴煙を吐き出す機関車のように。
すぐに空気中に霧散し光が消えて特に実害はない。
ふう。だいぶ楽になった!
さて引き続き警備だ。
会議開始から8時間。
中からゾロゾロと出てきた。
やっと終わったのかな?
「続きは明日か……」
「明日……」
誰かが眠そうにそう漏らす言葉に大きくため息をついた。
2日目。
今度は朝から行われる。
朝食後警備開始。
やはり殴り合い以外で折り合いをつけさせようというのはこの長年つもりにつもった対立関係のせいで難航している様子。
中の様子は詳しくないが経過時間的にもかなり困難な状況なのはわかる。
はてさてどうなることやら……