四百七十九生目 壁中
召喚獣ラヴに背を向け壁を見る。
洞窟の壁は見ただけでは本当に何も他と違いはない。
気配も特にしない。
それでも……土魔法!
[Eディストラクション 狭い範囲に地震を起こし地割れを起こす]
最近覚えた局所地震の魔法。
"クエイク"の範囲はとても大きいが"Eディストラクション"の範囲は狭い。
それでも今はこれで!
魔法が発動し足に黄色の光を纏う。
強く踏み込んで靴を鳴らすと光が地に沈み込んだ。
そして壁の一部が大きく揺れる。
私の方へ向かってきた羊3体をなんとかゼロエネミーのムチモードで薙ぎ払っていると耐えられなくなって壁が崩れた。
この魔法は壁にも地面と繋がっていれば指定ができる。
そしてただ壁が崩れただけではなく……
「ぐえ、グフッ!?」
「いたね」
「クウゥ!!」
おそらくは地や壁に潜るスキルを保有していたニンゲンが飛び出してきた。
あまり強くないらしい今の不意打ちで生命力が消し飛んだらしい。
"峰打ち起動させてあるから大丈夫だけれど。
だけれどのたうち回っているしラヴはまだ召喚されている。
召喚がキャンセルされるには本人が止めたり倒して召喚石をうばう必要がある。
「この、そいつから離れ――」
「行かせない!」
ダカシがラヴの行動を阻害し羊たちを蹴散らしている。
今だ。"正気落とし"!
素早く光をまとった撃を頭に叩き込むと指揮権を持ったニンゲンは気絶した。
「キャアァ! か、身体が、動かな……」
ラヴが悲鳴を上げつつ倒れ込む。
召喚者の……特に指揮権を持つものの影響は強く受けるらしい。
手を伸ばすがココには届かずダカシの目と合うのみのようだ。
どれどれ……ちょっと失礼。
……うんあった。
探ったらすぐに見つかった大きめの宝玉。
羊たちが消え去った。
「正義の勝ち……とは言わないが、お前の負けだ」
「な、何を……」
突如ダカシたちから激しい音と響き渡る悲鳴。
しょせん光の塊で出来ている肉体だし召喚獣には致命傷を与えることは出来ない……
けれどだからといって咀嚼をしようとするのはちょっと絵面的にもビビってしまった。
ただまあ宝玉は持ち主から離れ私の元に。
魔力が失われてぐったりしているラヴの姿も光の粒子として消え去った。
……というかなんで食べていたんだろう。
「……悪魔がこいつの力を欲しがって、取り込む手伝いしてたんだ。それが宝玉?」
「う、うん」
言いたいことを察してくれたらしい。
ひとまずは彼らを縛って衛兵たちを町から呼ぶことにした……
「あのラヴという召喚獣はどうやら俺の中の悪魔と同じ存在らしい」
ひと通りやることと治療が終わり衛兵たちが主要犯を運んだり誘惑されていた者たちの保護をしてもらっている間みんな集まりダカシが話してくれた。
衛兵たちはウォンレイ王寄りの者たちで固めて来てくれたらしく安心。
誘惑された者たちはやはり解けて阿鼻叫喚だったそうだ。
1つの意志にまとめあげ個人への感情を操作したったひとりのために強制的に動かさせる本人がいなくなることで瓦解する誘惑。
みんなで垣根を越えて協力しあうその姿はアノニマルースと似ているようでまるで真逆だった。
"無敵""ヒーリング"の組み合わせは選択肢を広げる力になるんだなあ。
だけど"無敵"だってこちらへ好感をもたせようとしたりできる。
まあ催眠的能力はまるで無くて促す程度のようだが……
やろうと思えば乱用ができる"無敵"持ちもいるはずだ。
自身も使い方はちゃんと気をつけないとね。
便利な火も間違えれば火事の元みたいなものだ。
そして花畑はその使いみちから焼き払わた。
……まあこっそり摘んで空魔法"ストレージ"の亜空間にしまってあるけれど。
あとでアノニマルースで管理栽培しようかな。
真面目な話ちゃんと作れば麻酔として使える。
さらにドウの金棒もちゃっかりもらっている。
火を吹く構造……ちゃんと調べてみよう。
でも今はダカシの話だ。
「同一存在って?」
「あの召喚獣のおそらく本体から一部だけ別れて力を持たせられたのが、俺の悪魔の正体らしい。ああ、悪魔とあの召喚獣が話していたことを統合したから若干推測だ。
悪魔含めて正しい認識をしきっているわけではないこともあるからな」
ダカシは伏せ前足を地の上で組む。
まあ実際みたわけじゃないから推測なのはしかたない。
「つまり、メレン……ダカシをそうした犯人でありカエリラスメンバーのアイツは、何らかの方法で召喚獣の一部を?」
「そうだ。今回わずかだけれど召喚獣の力を取り込めたが、それで悪魔の記憶が少しだけ増えたんだが……どうもおかしいらしい」
うっ。何か不穏そうなことを。
でもまあ聞かなきゃダメだよねココまで来たら。