四百七十七生目 岩熊
「う、ぐむむむ!!」
「さあどうし、た!」
わずかな時間にジャグナーがかなり押されている。
剣ゼロエネミーを持ってきたいがイタ吉のカバーにまわしてしまった。
間に合ってくれ!
「負け、るかああああああぁぁ!!」
「ん!?」
ジャグナーが叫んだ時に地が砕け地面に双方の足がめり込む。
それだけではなく全身にものすごいエネルギーを感じる虹の光をまといだした。
思わず足を止めてしまう。
「と、トランス!?」
姿の恒久的変化であるトランス。
戦闘中に引き起こすとは!
戦闘好きのジャグナーらしくもある。
肉体がひと回り巨大化し熊だから小さかった尾が膨れ上がっていく。
光が解けるとまるで岩を被ったかのような頭にまず目が行った。
いわゆる甲冑とも言えるような兜が頭を覆っていた。
全身の筋骨はさらにたくましくなり前足は所どころから岩のような表面が飛び出して覆い守っている。
腰からは特に顕著で甲冑のように重なった岩たちが生え靴のようなものすら形成されていた。
尾は鱗のような岩たちで長く出来ており先は膨らんでまるで鉄槌。
[ロックベアLv.1]
[ロックベア 個体名:ジャグナー
サンワベアのトランスのひとつ。戦いに明け暮れた者が戦いをさらに求める戦姿。相手を質量で叩き潰し敵の攻撃は岩肌を滑る]
ドウが突然の変化にバランスを崩したところにジャグナーはさらに力を込める。
耐えきれない地面がさらに破壊されていくがジャグナーは尾を地面に叩きつけピンと伸ばす。
ちょうど地面と身体そして足で三角形が形作られた。
安定化したことでさらにジャグナーが押して金棒を弾き飛ばす。
大きなチャンス。
よろめいたドウの太い腕を掴み腰を回転させ尾を振りかざした!
岩で出来ているとは思えないほどに柔軟にまがりそして加速。
腕を離すと共に鈍い音と共にドウの身体に尾の先端が叩きつけられた!
「ガフゥ!! ガハッ!」
勢いで回転しながら奥の壁へ吹き飛ぶ。
衝突し大きく割れてやっと勢いがおさまった。
生命力はまだあるもののうなだれたている。
だがさすがに体力がありそうな肉体をしているだけある。
荒く息を吐きながら立ち上がった。
ふらつきながらも金棒を拾い構え直せば見た目上はまだ戦意がありそうだ。
「ハァ、まだ、だ!」
「いや、終わらせる」
ひっそりと最接近していた私。
ドウに向かって砕けたものを投げつけた。
不意をつかれたドウは思わず息を吸ってむせるがすぐに追い払う。
「何、を! ……!?」
元々この足元に咲く花は麻薬の原料になるし元の世界のものよりずっと強力だが本来精製する前はあまり効果はない。
だが私が手で荒く砕いて投げつけたのはコレだ。
ドウは視界が霞むのか手のひらを見たり目をこすったりしている。
「おやすみ」
そして巨体は突如崩れ落ち倒れる。
"猛毒の花"というスキルは私が触っている花なら効果を発揮する。
猛毒を生み出すものを調整しこの花の持っていた力をとくに強化した。
つまりは麻酔効果。
眠らせる……気絶させるという方が近い力を強化したわけだ。
その代わり心肺機能まで停止しかねないのが困るが。
……うん。大丈夫。
まだ元気らしい。ちょうどいい毒だったようだ。
隣の部屋からは今だ戦闘音が響く。
ということはまだ元気というわけだ。
やはり指揮権を持つものを見つけてどうにかしないと。
そして今だ剣ゼロエネミーと斬り合うダンダラもなんとか制圧しなくちゃ。
ゼロエネミーと切り結びすぐに追加でクロス斬りして斬撃を飛ばす。
いつまでも滞在する斬撃が20近く浮いているせいで本当に戦闘場が狭い。
どうにか戦闘場を広げたいけれど1つ1つ斬ったり魔法放っていでもすぐ次を出すし衝撃もかなりあるしなあ……
(んじゃあ、かりるよー)
え? 身体を?
そう思っている間に肉体支配権を取られバク転で戦場から距離を取る。
そこまで身軽に動けるのかというほどにすっ飛んで下がった。
"針操作"で光を纏った針を生やして飛ばし浮かんでいる斬撃に当てていく。
次々と破裂し針が斬り裂かれるが斬撃自体は消えた!
えっちょっとこれなんで早くやらなかったの?
(ムリムリ! それどころじゃなかったし! それにまたつくるよ!)
「ちいっ! 厄介な! そら!」
見るとダンダラがまた新しく刻んで斬撃を生み出し飛ばしていた。
うーむアレ低コストでどんどんできるっぽいなあ。
さっきまでは確かにドウとのやり取りであまりスキを見せられなかった。
確かに切り返すなら今か……
「ローズ! 今の姿と場の状況なら少しは耐えられる。またさっきみたいに眠らせるのを頼めるか!」
「わ、わかった!」
宝石剣ビーストソウルの威力は正直かなりビビっている。
3倍のパワーということは浅く斬られたとしても3倍の広さと深さ斬られた程度には重く喰らうからね。
だがジャグナーは割り切って攻めてくれるらしいからありがたい。