四百七十生目 大勢
「うおおぉらあ!」
「「うわああぁ!!」」
背後で吹き飛ぶ音が聴こえる。
ジャグナーが吹き飛ばしたのだろう。
"鷹目"で周囲を見て……
「行こう!」
走り抜けてつつ拳を振るい進んでいく。
よし火魔法"Fフレイム"発動!
前方に向かって火炎放射の魔法を放つと思わず相手が避ける。
直線状に出来たわずかな隙間を私とジャグナーの身体を無理矢理ねじこんで進む。
突き飛ばし殴り弾きジャグナーが蹴り込んでやっとイタ吉の元へ転がり込む。
そのまま洞穴内へ避難して銃撃と矢を避ける。
大盾を回収しこんどは鞭剣モード。
"峰打ち"は使いつつ追手を力強く薙ぎ払う!
何体か吹き飛ばしたら今度は向かいたい先から。
イタ吉が敵の元に飛び込み爪や剣がそこに振りかざされる!
だが斬り裂いたの影のみ。
本物はその真後ろで尾を振るった!
「ぐあっ!?」「ガフッ」
「どうよ?」
補助魔法を発動して味方を特定しかけていく。
前から来たのは既に倒れ伏したので遠慮なく乗り込む。
今のイタ吉の技は武技か。
おそらくは本来古典的な歩行技術である自身の位置の歩数を勘違いさせるもの。
それを武技として自身がそこにいるとしか思えないような技にしてあったのだろう。
単純だけどかなり効くと思う。
「それにしてもこんなにいるだなんて!」
「いきなり現れたみたいだな!」
「いったいどっから湧いて来た?」
想像上の話だけれどこれも誘惑の力なのかもしれない。
寄せ合わせ軍のはずなのに異常に統率とれていて同士討ちもなければ味方誤射もない。
ここまで完璧にコントロール出来るのなら一部の強者だけ表にたたせて感知を油断させ他のものはもはや訓練を良く仕込んだ潜伏兵のように物音ひとつたてずにおいも上から何か迷彩用のものをかぶったりして隠れていたのか。
考えるだけでもかなり困る。
つまり本来期待出来る優位性が剥がれまくる。
召喚獣ラヴが強ければ強いほど集団の脅威が増す。
だからここでなんとか止めなくては。
洞穴内で射撃音が響き弾丸が跳ねる。
「ローズ! また前みたいに威嚇して追い払えないのか!?」
「やったんだけれど全く効果なかった!」
「ええ!?」
殺気を放つのは最初の時に試したのだがまったく意にも介されなかった。
誘惑が心をきっちり縛り上げているらしい。
厄介の重ね技。
「あっちなら道がある!」
「もうちょっとで完成だから走って!」
ジャグナーが指す先にみんなで走り抜ける。
背後からすごい形相で追ってきて射撃やら魔法やらがとんで来るがまともにかまっていたらでたらめに傷を増やすばかりだ。
恐れない死ぬまで倒れない乱れないと本当に最悪!
「あと少し……!」
洞穴内の段差を飛び降りてカドを曲がり再び外へ出る瞬間に正面からまたワラワラと押し寄せる。
囲まれた! だけど!
味方と範囲を設定! いける!
「くっ、多い!」「「うおおぉ!!」」
「みんな動かないで!」
「「わかった!」」
まさに地面が割れるような音。
私を中心にイタ吉とジャグナーは避けるように地震の衝撃波! 地魔法"クエイク"!!
"峰打ち"はつけているが相手が吹き飛んだ!
「「ぐわああぁ!!?」」
「おぉ、相変わらずエグいな!」
上にいるはずのダカシは範囲外。
これで大半の相手はボロボロだ。
少ないながら機敏に反応したやつらがいるようだが。
だいぶ戦闘しやすくなった。
よろめいて立ち上がろうとしてくる相手はほとんど力がないから簡単に押し倒し包囲網を抜けた。
外はひどいありさまだ。
あちこちの柵が崩壊しニンゲンと魔物たちがたくさん倒れ込んでうめいている。
塞いでいた岩も崩れ壊れたりしているなあ。
やったの私だけれど……
下側から先ほどから感じていた強者の気配!
先ほどの"クエイク"に耐えたものたちが上がってきたがもう数は少ない。
剣を念力のように魔法で浮かべ補助魔法を精霊たちに唱えてもらいながら土魔法の準備をして……
「そこだっ!」
「えっ!」
上空からまさに降ってきたのはダカシ。
どうやら自身まで届かない地震の魔法で大勢が決したのを察したらしい。
山の上から一気に駆け飛び降りそのまま立っていた1体のゴリラみたいな魔物へ飛びかかる。
先手は持っていかれたが加勢なので良し。
左右を見てイタ吉とジャグナーに頷き各々残った相手へと飛びかかった!
私はこの中でもおそらく1番強いであろう気配の持ち主へ。
全身を黒甲冑で覆い尽くし巨大で無骨な大剣を構える。
先ほどの"クエイク"を何らかの技で防いだらしく無傷。
"観察"したら中身の無い生きる甲冑であるリビングアーマーとかいう系統の魔物だった。
一体どこで見つけてきたのだ……とは思うが今は敵対状態。
魔力を高めて身構えた。