四百六十七生目 誘惑
「た、頼まれていたんだ!」
落ち着いて見ると毛皮を荒々しく大胆に使用した鎧を着込んでいる山賊風……いや。実際の山賊たち合計12名。
遠目から見ても山賊だなぁって思うわけだ。
高級感とは真逆の毛皮の扱いだったからね。
そして語る言葉は依頼に関してだった。
ダンダラが縛ってある山賊の前でかがみ顔を近づける。
「ほほう、誰に?」
「知らん! 依頼の紙なら、ほら、あっちの棚の中に!」
首と目で必死に訴える山賊のひとり。
ダンダラが目線で合図を送ってきたので調べよう。
ガサガサとゴミ漁り。
「うーん……ああ、これかな」
「なんて?」
「どれどれ……」
折りたたんである紙切れ1枚。
中身は単純な指令書だった。
「ここを守護していればお金がもらえるというのと……うわっ、国の略式命令で犯罪が無罪化!? 差出人は……あなたの友人、新帝国とカエリラスたちより、か」
「はぁ!? なんだそれ、殺しも奪いも無罪にされるってかよ!」
「……なんか、ふたりの様子的にヤバそうな事らしいね」
「まあ、おそらくな」
かなりびっくりしてしまった。
ダンダラもさすがにうろたえている。
イタ吉とジャグナーも雰囲気は察したらしい。
はっきり言ってこれと共に帝国紋章が捺印されているのはかなりヤバイ。
こいつら自体は大した権限を持っていないということになるが『国が何をやってもいいと認める』部分が恐ろしすぎる。
つまり正当な理由でこいつらを法の裁きに合わすことは不可能。
正直私達がこうして戦い拘束している方が逆に捕まりかねない。
法の崩壊。それは世紀末の到来を意味する。
帝国のトップが乗っ取られていることの危険性を改めて理解した。
「そうだ、ちょっと見せてくれ」
「はいどうぞ」
「……頭が痛くなってくる文書だな。文字を読むのはスキじゃねぇうえに、書いてある内容も頭痛がしてくるときた」
ダンダラが思わず頭を抑え込んだ。
指の隙間から手紙を何度も読み込んで。
「……ん? なあ?」
「な、なんだ!? わかっただろ、俺達に下手なことをすると、むしろお前らが追われる身になるって――」
「いや、この文よく読むと、抜け穴がないか?」
ダンダラは山賊に手紙を見せつける。
だが山賊は首をかしげるばかり。
「うん? 俺様たちに良いことばかりしか書いてないようだが……」
「それがな……どうやらこの文書、あえてわかりにくくしてあるようだが『前提としてこの砦を誰にも渡さず守っている限り』って、してあるようなんだよな。ほらここ」
ダンダラが指して山賊に教え込む。
何度も詳しく話をされてだんだんと山賊の顔が青ざめてきた。
どうやら山賊も気づいたらしいが……
「え、ええ……お、おい」「どういことだよ」「聞いてねえぞ!」
「まあまあ、落ち着いて……んじゃま、相手の容姿や名前に性別、言わなければ首刎ねる」
騒ぎ出す山賊たちをなだめた……と思ったら宝石剣を抜いた!?
そんな極端な!?
「ひいえぇ!! で、でも言うわけにはいかねえ!!」
「ええー、向こうも脅している系? でもなー」
「待って待って、少し気になることがあるから」
「うん、じゃあ待っちゃおう。殺すってのも嘘だし」
そう言って剣を納めてくれたが……
あの一瞬見せた剣呑さは本物だった。
そのあとの雰囲気も含め殺したがっているよりはどちらでもいいのか。
生きようが死のうがどうだって良いという冷淡さを感じた。
思わず出た言葉だが気になることはあるのは本当だ。
それは彼らに"無敵"をかけたあとにログに表示されていたこと。
[対象たちの精神異常操作(誘惑) 解除/無視]
"観察"ではわからなかったのだがどうやら彼らには誘惑の精神異常がかかっていたらしい。
なぜ見つからなかったのかはわからないが……もともと万能ではなくてある程度妨害はされるものだから仕方がない。
ここで解除を念じる!
「っは!?」「え!?」「ん?」「「あ!?」」
山賊たちがいきなり目がさめたかのように驚きキョロキョロとしだす。
どうやらうまくいったらしい。
「うん、彼らには精神の異常をかけられていたみたい。今治した」
「おー、何したかさっぱりだけれどあんがとさん。んじゃま、今度こそ話すよね?」
「あ、ええ、ええと……お、女です。奇妙な服を来たひとめ見ただけで普通じゃない! ってわかるやつです。ええ、それに名前は教えてもらえませんでしたが、そいつを見ていたらなぜか絶対従わなきゃいけない気がして……た、多分、魔法か何かですぜ! だからこんなことを何も考えずやっちまっただけで!」
ものすごくきちんと話してくれた……
ひと目見ただけでわかる女性で見ているだけで誘惑の異常にかかる、かあ。
そういえば昔にダカシの中にいる悪魔が私を乗っ取ろうと姿を見せつけてきた事を思い出したが……
あれは今でもダカシの中にいる。
ということは同系統のことができる相手と考えたほうが良いかな。
"影の瞼"で防げれば良いけれど。




