四百六十六生目 砦戦
この『赤茶』側の町が保有する採石場。
そこから一旦どちらにも属さない業者を通して商人が運び『青茶』側の町へ持ち運ばれる。
そして加工されてまたどちらにも属さない商人を介して『赤茶』で売り出される。
互いに支え合っている状況なのに仲が悪すぎてとんでもなく効率が悪いことをしている……
直通の売買ルートが存在しないのだ。
まあもはやそこは言っても仕方ない。
採石場への道の途中で山道に入り必ず小さな砦を通る。
もちろん『赤茶』町が『青茶』町の民を跳ねるためだ。
ただ今は国が直接支配しているというのは衛兵たちからも聞けた。
鬼が出るか蛇が出るか。
嫌なものが出るのは確定している。
行かないという選択肢はカエリラスが関わっているっぽい時点で存在しない。
「よぅし、いっちょやるか!」
「あれ、一緒に行ってくれるの?」
以外にもやる気を出したのはダンダラだった。
あんまり関係はないとは思っていたんだけれど。
「なあに、さっき不意打ちしかけたから謝罪をかねてな。それにカエリラスを相手する可能性あるのなら、俺も仕事しなくちゃあ、だろ?」
「なるほど、それじゃあ手伝ってくれるとありがたいよ」
こうして私と4体とも現場へと向かうこととなった……
山腹道の途中にある唯一採石場へ通じる道。
その砦の前に私達はいた。
木製の壁と馬止めが設置されていて入り口は正面のみ。
そして当然ダカシと共にやってくればその巨大さは遠くからも見えるわけで。
「ちっ! 撃ってきやがった!」
「おーい!! こっちはウォンレイ王の使者だ!」
「知るか! 死ね!!」
走って矢と弾丸をかいくぐりつつ接近しダンダラが山賊のような格好の男に話しかける。
銅の指輪を見せつつ言っているのに向こうは代わりに銃撃を放ってきた。
ダンダラの話術もそもそも話す気のない相手では通用しないらしい。
「なんなんだあいつら! どう見ても国の兵じゃねぇな!」
物陰に隠れ射撃をやり過ごす。
ダンダラが愚痴るのを聞いてやはり正規兵ではないと確信した。
こっちを狙ってきているのは5人で見張り台が1人。
門は閉まっているから砦の裏から攻めてきている相手は落としにくいか。
ダンダラがいるから剣を飛ばして……という手はなるべく見せたくない。
そこまで信用しているわけではないし相手はそこまで強くない。
「俺を物陰にして、突っ込むぞ!」
「無茶だなぁ! だが嫌いじゃない! いいぜ」
現在は山を壁にしている曲がり角。
だが相手までの道は細く50m程度の直線1本のみ。
残りは崖。
だからそうするしかないとは言え思い切り良くダカシが突撃を開始した。
私達も急いで後に続く。
当然矢と弾の嵐はダカシに集中砲火される。
「ぐぅっ! その程度っ! かぁっ!」
ビシッと毛皮を貫いていく音が連続で響く。
赤黒い血が周囲に飛び散るがダカシは歩みを止めない。
"鷹目"で正面を見てみたら悪魔の力で攻撃が当たった先から矢や弾を追い出して肉が再び覆っている。
「なんなんだアイツ!? もっと何か――」
「突っ込むぞ!」
「うおあああぁっ!!」
ダカシが門を吹き飛ばした!
イタ吉とジャグナーが乗り込みダンダラがいつの間にやら回り込んで見張り台へ。
宝石剣で思いっきり背後から斬りつけて1人倒していた。
「殺さないでよ!」
「ああ! 情報聞き出さなきゃな!」
まあそこがわかっているなら大丈夫だろう。
そうでなくても無駄に殺すのは出来る限り避けたいからね。
私も砦に乗り込んだ。
「ぐああああっ!!」「この! 魔物たちなんて強さだ!」「その程度か!」
いくつも声が重なって光がかち合う特徴的な高音が鳴り響く。
ダカシが中で待ち構えていた山賊風のニンゲンたちの攻撃を受けつつも振り払っている。
イタ吉はそのスキをうんだニンゲンたちを足は止めず斬りつけて去るを繰り返す。
ジャグナーは力を込めて腕を振れば山賊が持っていた剣がまっぷたつに折れていた。
混乱している現場を走り抜け適度に剣ゼロエネミーを"峰打ち"発動しつつ殴っておく。
ここは彼らだけで十分だろう。
敵の親玉っぽいのを見かけないから先に探しにいかねば。
敵愾心を下げるオーラをゼロエネミーに使わせることで自然に混乱の中でも走り抜けられる。
道を開けてくれるからね。
そのまま走り抜け砦をかける。
おかしいな。光魔法"ディテクション"による脳内地図レーダーにもそれっぽいのは引っかからない。
見かけた山賊風の面々はゼロエネミーで斬り倒すが肝心の相手はいない。
これは留守かな……
そのまま砦内が静かになるまでそう時間はかからなかった。
捕縛して1箇所に固め"ヒーリング"と"無敵"を同時に使って……
ダンダラの話術であっという間に背景をしれた。