四百六十五生目 呪縛
「と、隣町? 何かあるのですか?」
ダルさん……またはザケさんとも言う職人はいたが別のドワーフに設問されてしまった。
隣町とは関係ないと言い切らなければ。
頭フル回転させて……こういう時は無知を装うんだ。あくまで全く別のところから来ました! って。
「ふむ、まあ冒険者ならあちこち移動して知らんこともあるか。長年住んでいる者にとって因縁の隣町は1つしかないからな。そことだけは関わるのをよした方が良い。外国人のザケにもそう言い聞かせてある、お前さんもな。門構えがよく似て色が赤臭い町のことじゃ。気をつけい」
「あ、はい……」
苦笑いして何とか切り抜けたらしい。
私から興味をなくして再び仕事に戻っていくドワーフ。
それと変な名前だは思ったがダル・ド・ザケ・ガァッさんは帝国から見ても外国人なのか。
若者と外国人。どちらも隣町同士の因縁と言う呪縛に染まりきってない同士の仲というわけか。
さっそく奥へと向かおう。
そのニンゲンもオールドイングリッシュシープドック……じゃなくてドワーフだった。
手先を器用に動かし汚れたり鋭さを無くした仕事道具たちを見事にキレイに戻していっている。
洗って磨いて拭って研いで漬け込んで……
ハサミひとつとっても刃の輝きが魅惑的というより蠱惑的ですらある。
まさに職人芸と言うべきか。
「こんにちは。ザケさんですか?」
「###、うん? ###あぁそうだアヨ」
ちょっとカタコトだ。言語混じっているね。
"観察"して彼の国の言語も覚えておこう。
「実は頼まれものがありまして……こっそりと開けてください」
「ム? ###?」
小声で最後の言葉を伝えると作業の手が止まる。
どうやら察してくれたらしい。
「これです」
そっと手紙を渡す。
外から見たらただ折りたたんだ紙にしか見えない。
ザケさんは周りから見えない影でそっと開く。
「……ムゥ。###! 12時に町の外にある絶叫樹のソバで###、待テルネ。知らなけバ###、衛兵聞け」
「わかりました。では確かにお届けしました!」
最後だけ大きく発音して何もなかったかのように外へ。
ニンゲンたちはみなこちらに気にする様子もなく仕事していた。
なんとかなったらしい。
絶叫樹は衛兵たちに聞いたらすぐにわかった。
木のうち1本が枯れていてしかもウロがまるでニンゲンの顔のようになっていた。
絶妙な縦への歪み具合で叫んでいるように見える。
怨霊が宿っていそうということで積極的に近づくニンゲンは少ないが子どもがキモ試しに来るから町の中では有名。
こっそり待ち合わせるには昼のここはうってつけなわけだ。
キモだめしは夜やるからね。
「ムゥ、『先に……いや』、先にいたか。『まだ故郷の言葉が出てしまうな……』昼休憩に抜け出すノニ手間取っタ」
「さっきですけれどね」
ザケがやってきたことで早速話をする。
もちろん手紙の中身であるオーダーメイド識別輪を作ってほしいということだが。
「申し入れハ読んダ」
「ああ、そうそう『こっちの言葉で話しても大丈夫ですよ』」
さっき解読が終わって言語を身に着けたからね。
彼の国言語を聞いてひどくザケさんが驚きけむくじゃらの中のクリッとしたキュートなひとみがかいま見えた。
「なんと! 私の故郷の言葉を! おお、この遠く離れた地で聞けるとは!! おお、神よ……!」
「ええとそれで、どうですか? やってもらえますでしょうか?」
「……ああ、その事になんだがなぁ。タイミングが最悪だったなぁ。つくりたいのは山々だが、ここに書いてある採寸通りならデカすぎて材料がない。仕入れが止まっているんだよなぁ」
「えっ!?」
いきなりのダメという話だった。
来れば出来るって聞いていたのにどういうことか。
材料なんとか調達できないかな。
「その仕入れ、なぜ止まってしまったんですか?」
「あぁ、ワタシもくわしいことは知らないがなぁ、業者が言うにはその鉱石が取れる所までの道が国により塞がれたらしくてなぁ。ほら、帝都で騒ぎがあった後からだぁ」
ううむ。カエリラス関係か。
ただわざわざ道を塞ぐとはなぜ。
何かその鉱石の産地付近に行ってほしくない理由があるのかな?
「その、必要な量取ってきたら作ってもらえますか?」
「それはぁもちろん。場所と鉱石の特徴は――」
そして教えられた場所に少し苦笑いせざるをえなかった。
「おうい! 帰ってきたか! 作ってもらえたのか?」
「いや、脚輪つけてないようだな」
ダカシやダンダラと共にイタ吉とジャグナーの元へ帰ってきた。
イタ吉は前足の方にジャグナーは首にそれぞれ目立つ革製の輪がついている。
はめこんである光を反射している鉱石がとってこなくてはならないものだ。
「実は……原料を取りにいかなくちゃあならなくって」
「どこに?」
「……この町のそばにある採掘所に……」
頼むから仲良くしてくれよこの2つの町。