四百六十ニ生目 獣殺
スキルが育ったもののチェックの続きだ。
"頑張る"は生命力がある程度ある状態から即死しないようにするスキルだ。
これが鍛えられるのはもちろん生死の境目をくぐり抜けたさい。
プライド恐ろしく強かったからなあ……
"影の瞼"がスキルレベル5になったさいに新しい能力がついた。
それは『影の瞼発動時に相手に防いだ効果を反射することがある』というもの。
絶対ではないようだが嬉しい効果だ。
こんなものかな。
事務の方が戻ってきた……と思ったが気配が違う。
殺気を秘めて剣を抜き何より危険な気配がある。
こっちも空魔法"ストレージ"で亜空間から剣ゼロエネミーを取り出し抜剣。
潜む気配は手馴れているのかいくつかにブレていく。
だが本物は1つだけ……ここだ!
すわりこんでいるダカシの右大腿部狙いか!
跳んで行き剣を振るう!
ガギン!! 剣と剣がぶつかり合――
「……あれ?」「……んん?」
「おわっ!? いつの間にこんなところに人が! 敵か!?」
「なんだなんだ?」「おや、そっちにいたのか、てっきり……」
ダカシが驚きイタ吉がのんきにあくび。
ジャグナーは気配撒きに見事に引っかかっていた様子。
だがそんなことは大事じゃない。
すぐに互いに引き剣を同時におさめる。
何せ相手は……
「「あの時の!?」」
模擬試合で私が剣を折ったあげく殴り飛ばした相手だった。
名前はたしかええと……そう! ダンダラだ。
相変わらず見るからに軽装な鎧の上に軽く服を着た格好で不敵な笑みを浮かべていた。
ただし鞘におさめた剣は模擬剣ではなく本物の……
いやそれ以上のものかもしれない。
宝石を荒々しく削り出したような見るからに異質なものだったからだ。
まるで2つの角のように縦に並ぶ刃が並んでいる。
2枚刃って言うとひげ剃りに聴こえるが。
確か間に相手の剣なんか挟み込んで奪ったりするんだっけか。
そしてそれら全体がすべて1つの宝石が削り出されたような異質さ。
ピンクに光をまとって輝く剣はキレイ以上に恐ろしさを感じる。
なぜだろうあの剣本能的に……苦手な気がする。
[宝石剣ビーストソウル 世界に7つ別種類である宝石剣シリーズの1つでユニーク品。対象が属するものが"獣"の場合威力プラス200%・"獣"に対して威圧と恐怖を与え"獣"からの攻撃を半減。"獣"からの状態異常攻撃無効化]
[獣(属性) 基本的に毛皮を持ち4足の魔物]
「わっ……」
思わず声が漏れた。
昔バロー君が言っていたユニーク品そのものじゃないか!!
しかもなんなんだその私達キラーな能力。
明確に威力が3倍になるって書かれているの初めてみたぞ。
他もいろいろとおかしい。
獣の当てはまる範囲かなり大きくないか?
「お、良いねえ! その剣! なんとなくわかるぜ。まあオレはこいつから不倫する気はないがな」
ダンダラはこちらに見せつけるように鞘におさまった宝石剣を見せつけてきた。
さすがに目を奪われていたのはごまかせないか。
悪い意味だったんだが。
「あ、ありがとう。それよりなぜここに?」
「それはこっちのセリフだぜ。まあオレはブラブラと渡り歩いていたらこの町について、せっかくだからとウォンレイ王に任された使者のお仕事していたらなんだかデカイ魔物が現れたって聞いたから、マイレディを食事のお誘いしたら、こうよ」
「……その剣で巨大魔獣を討伐しに来たら私に出会ったと」
「そ! なあマイレディ」
ダンダラは剣を少しだけ鞘から出して優しくなでていた。
うーむ武器を彼女扱いするニンゲンがいるというのは聞いたことはあるが実際会うとインパクトが大きい。
「あのときゃ模擬剣を使ったバチが当たったんだよ、やっぱり不倫はいけねえよなぁ」
「ふ、不倫……」
「ま、そこはともかく! そっちの事情も聞かせてくれや」
あの模擬剣を叩き折られたのは不運による事故だと押し通すつもりらしい。
まあそれは良いとして。
なんて言い訳するかな……"止眼"……"止眼"解除。
「まあ少し、ちょっとした魔物使いとして明らかに諸事情あるやつらをこうして束ねているんだよ」
「おい誰がわけありだって!」
「……なるほど、さっきからうすうす思っていたが、確かにわけありだな。だが困るぜ、そういう場合は識別つけといてくれよ」
イタ吉の抗議が問題なく言語として理解できる『異常』……それでなんとなく納得してくれたらしい。
ただ。識別?
「うーん……私この国出身じゃないから、その識別に関してはあんまり詳しくないや。どうすればいい?」
「あー、もしかして皇国あたり? 確かに向こうは遅れているって聞くからな……まあ簡単に言えば首輪だな。このサイズはさすがにないから脚輪になるだろうが。間違えて討伐対象にしないようにするために、国が発行しているぜ。それ以上詳しいことはしらねーが、まあ十分だろ」
「なるほど……うん、ありがとう」
上やら背後やらから抗議の声が聴こえるがつとめてスルー。




