四百五十八生目 乱用
休日に先日受け取った定時報告たちを整理。
ドラーグが路地裏で『激運』により拾ったというおさなご。
その姿はひどくズタボロだったと言う。
さすがにちょっと真面目な念話になるか。
『ええ? 大丈夫なの、その子』
『あんまり……僕にもたまたま近くを通りがかったのに気づいて、手を伸ばした感じで。あんまりニンゲンのことは詳しくないけれど、見ただけで死にかけているなあって。さすがに放っておけなくて。
とりあえず"ヒーリング"を唱えて生命力を最低ライン維持させてからなんとか水と食事を無理矢理流し込みました。僕も初めてでしたが、まともに液体も入らなかったみたいなので、言っている場合じゃないなって……』
この言い回しから察するにやったのは無理矢理口の中身移したかな……?
今は茶化さないしドラーグからすればその行為は私や本で見た緊急時の行為でしかないし竜の生態は知らないが初対面の相手にやるのはなかなかの勇気。
聞かないけれど。
ドラゴンの口内菌ってどうなんだろ……まあ生死の境目だからそれどころじゃあないか。
『うん、それでどうなった?』
『そこから、とりあえずどうにかしないとって急いで隠れてワープを借りてアノニマルースの診療所にいって』
『え』
『コルちゃんたちに急いで診せたら血相変えて追い出されて……それからかなり時間たってから、無事治療が終わったって聞きました』
『いつの間に……』
後でコボルトのコルに聞きに行ったら全身に打撲に大枠2つの体部位骨折それと拷問でも受けたような跡に火傷や片目損傷。それに……
と。かなりの重傷。
私の魔法を"率いる者"で借りたり知っている医療技術を全力で注ぎ込み何度か生死の線を越えながら……
なんとか『まとも』と言える段階まで回復させたという。
ただそこからしばらくは昏睡。
ドラーグに報告したとか。
『しばらくは目が覚めないとのことで絶対安静って僕も近寄れない状況なんです。その……とっさとはいえ面倒ごとをもちこんでしまって、申し訳ありません』
『いや、事情が事情だし仕方ないよ』
謝るドラーグから他にももろもろ報告を聞いた。
その絶対安静の子にも無理を言って会わせてもらえた。
既にきれいにされてはいたが明らかに痩せすぎで生気の怪しい青白い肌が虫にくわれた跡でボロボロだった。
あらゆるところに治療痕があり見るだけでも痛々しい。
だからといってアンデッドではない。
"観察"したり気配を探ったがどう見ても少女で『実はお年寄りが転生して』というわけでもなさそう。
レベルも低くカエリラスの使者ではないだろう。
「――という風に傷を負っていましたがなんとかなっています。ただ……」
「え、まだ何か?」
「ええ。毒……のような、なんらかの不調が体内を巡っているようなのです」
コルは私に患者の容態をそう歯切れ悪く説明してくれた。
どうやら彼女も上手く特定できていないらしい。
「毒なら"アンチポイズン"で治せないの?」
「いいえ、やっては見たのですが、どうやら少し特殊らしくて……"アンチポイズン"は毒のことへの理解がないと、上手く肉体を改善化させられないこともありますから」
毒というのはその身体にとって害をなす外部摂取したもの……ではあるのだがあまりにも多岐に渡るし場合により薬にもなる。
どの毒を消し去るかというのは"アンチポイズン"で指定するにはしっかりその種類への理解があるほうが魔法の傾向を定められて解毒しやすいのだ。
そしてこれはその中でもわかりにくいものと。
何か持ち物にヒントないかな……
食べかけのキノコあたり出ればわかりやすいんだけれど。
そう思いコルに身に着けていた物を見せてもらう。
最低限を割るような品質のボロの布切れ……ほぼゴミだ。
虫が跳んでいるようなそれは同時に血がかなり滲んでいて凄惨さを未だ訴えかける。
なにがあるか見ていこう。
……と思ったが布を広げて出てきたものはただ1つのみ。
小袋だ。
中身はどれどれ……空だ。
「あれ? ゴミ……?」
「ゴミにしてはここだけ変に粉が手につきませんか?」
私達の指先につくのは白い粉。
小袋の内側にこびりついていてこすりつけたらやっと出てくる程度。
小麦粉かな。"観察"!
[オピオイド 植物の汁や化合で精製される麻薬。アーピエンとも呼ばれる。純度は低い]
オピオイド……アーピエン……
私の前世の記憶がつながるような……
(コレかな?)
ありがとうアインスっ……
あっ!!
アヘン!!
「これ麻薬だ! しかも質が悪い!」
「ええ!? 確か、鎮痛薬の……? でもなんでこんな子が?」
「それは医療側が使う場合で……この子みたいなのが使うとしたら」
アヘン乱用。
それが昏睡の1つの正体だった。
すぐにその後女の子に対し"アンチポイズン"でアヘンを抜くように変化させて処置。
ただこれだけでは全て治るわけじゃあない。
彼女はしばらくは地獄をさまようことになりそうだな……