四百五十五生目 税収
「はあぁ、はあぁ、こ、殺さないでくれ……!」
「殺さないよ。それよりもやっぱり王の元に送られた手紙と違ったね」
「手紙……!? あっ!?」
集落の長が懐に手を入れるがそこにお目当ての物はない。
イタ吉が持っている手紙を見て察したらしく顔がさらに青ざめている。
「おっと、返さないぜ」
「た、頼む! 返してくれ! 見逃してくれぇー! 私達が生き延びるには、必要なんだ!」
「暗殺に失敗したからウォンレイ王に取り入るつもりだね」
ビクリと集落の長が身体を震わす。
そりゃこっちウォンレイ王の使者でもあるんだからわかるでしょう。
そこまで魔物が頭を回すとは思わなかった方向かな。
「それで、悪魔? がいるんだっけ」
「な!?」
「悪魔、出してくれないかな。その力に飲まれる可能性が高いからその前に対処したい」
「い、いや、この力は召喚のために……あっ!」
魔法の石がないのにも気づいたらしく探っていたが無いだろうね。
モグラ人が爪先に持っている。
さらに顔色が悪くなっているようにも見える。
なるほど召喚時の召喚獣の強さにブーストかけるために悪魔をつかせていたんだな。
「うう、ううう! ……え? イヤだ、そんな」
「うん? おいどうした」
イタ吉がたずねる通り明らかにおかしい。
冷や汗がダラダラと垂れ流れはじめ頭を抑え震えている。
「まだ、諦めは、だかららららああああぁ!!!」
「うわっ!?」
モグラ人が思わず怯み下がる。
ゴボゴボと口から泡を吹き出し白目を向いて膝をつく。
そして――
グルリと。
大きく開いた口から悪魔の目玉が出てきた。
ゾワッ。
さすがに毛が逆立つ不気味さ。
口がまるで瞼かのように扱われギュルギュル動き身体が異常な振動をし始め肉体が変化し始め――
「「気持ち悪いんじゃあああああぁ!!」」
対悪魔の補助魔法がかかった私達の全力を音速のように目玉へ一切手を抜くことなく打ち込んだ。
周囲に身体を響かせるような魔力の音を撒き散らし悲鳴を上げる悪魔の目。
そのまま白く染め上げられて最後の断末魔。
そして最後にパラリと砕け散ると暗い渦が発生してそこに吸い込まれる。
悪魔の逃げ道とニンゲンたちが呼んでいるものだ。
小さいやつで助かった……
「うわ、ふたりともそんなに強かったんだ……」
なぜかモグラ人に引かれた。
集落の長を迷宮から連れ運ぶ。
気を取り戻したが体力や気力がもうなくて10年くらい一気に老け込んだかのように見える。
彼らのことはウォンレイ王に報告して保護……という名の監視対象にしてもらうつもりだ。
集落の長たちが裏切ったのはもちろんカエリラスたちの恐怖もあったが。
長年の細かな不満の蓄積も大きかった。
「帝国は、我々から税収は取っていくくせに、ロクな支援は寄越さなかった。生活は苦しく、畑は獣害によく合う。でも魔物避けの結界すらロクな力はないし、唯一の迷宮資源もあまりに弱いのに、存在を理由にさらに絞り上げる……」
「「そうだそうだ!」」
まああまりによくあることではあるが普遍的なことだからこそ国内のどこにでも転がっている。
そこを上手く突けば楽々コントロール可能というわけだ。
そのためには事前の調べがかなりいるのは間違いないが……
「彼らは約束の場所に現れ、私達に召喚術のための代物と将来の約束をしてくれた……」
「ああ、俺達にも将来醴と温かいメシを腹いっぱい食えるようになることを約束してくれた。だからカエリラスに付いたんだ」
集落の長に衛兵の1人が付け加え他の衛兵たちもうなずく。
皇国も市長をカエリラスに所属させて汚職と魔王復活に尽力させていた。
やはり内部から崩されているやり方がうまい。
ちなみに醴はお酒の一種らしい。
他の言葉で言う甘酒。
ただこちらはアルコールを足している可能性は結構高いが……
ここらへんの話も一通りしたためてウォンレイ王宛へ送る。
宝玉も共に送りたいしそもそも彼らの保護のための人材もいるからワープさせる必要がうまれるがここでかなり大事な点が。
魔物たちの姿を見られるのも困るし私はあくまで剣士風でニンゲンたちからすると異常なワープをやりまくるらしいのは見せることは危険。
それにそんだけ悪目立ちすると今後が心配。
なので村人や衛兵たちには口止め……まあ少しのお金と『保護や不満解消のために王に伝える』ことで静かにしてもらい。
私は代役に頑張ってもらうことにした……
「いやあ、本当に助かった。まさか勇者以外にそんな隠し玉の子もいたとはなあ」
「は、はいぃ! 恐縮です……」
ウォンレイ王の前で本当に縮こまっているのはバローくん。
まるでダカシくんがワープを使えるように私が魔法の知識を活用して使用者の偽装をしたわけだ。
普通に"魔感"ぐらいなら騙される。
バローくんは昼間は勉学に勤しんでいるが夕方からはフリーなので無理を言って連れてきた。
大きな杖も持っていかにも魔術師タイプだからね。
魔法を1度使えばさすがにからっけつになるかのように装い薬品を用いて回復させているみたいに見せかける。
ウォンレイ王が"観察"と同等のスキルを持っているのでたまたま覗かれたさいにバレてしまわないようにするのが大変だった……




