四百五十四生目 宝玉
「あ、ローズとイタ吉! どう? だいたい終わった?」
「うん。あとはそこの長をどうするかだね」
集落の長を追い詰めた場所まで戻ったらモグラ人が見張りをしていた。
集落の長は横にして寝かされている。
……地面の上に。
これ起きるまでに凄く身体冷めてそう。
"観察"してみたら生命力と行動力ゲージが1本に戻っていた。
プライドはやはり帰ったらしい。
行動力がゼロに近いがほんのわずかだけ治っている。
休んでいるからだろう。
問題は起きたら行動力を治した分ひどく飢えるくらいか。
過去に経験があるからそこらへんはわかる。
さて少し漁らせてもらおう。
「ふーむ、気分としてはまた呼ばれる前に首を切っておきたいが……そうじゃないんだろ?」
「うん、"ヒーリング""無敵"の組み合わせでまたおとなしくしてもらう。剣も用意しておく」
そばに宙に浮かぶは剣ゼロエネミー。
敵愾心を削るオーラを集落の長に対してガンガン発揮中だ。
さてさてあるものは……っと。
鍵にお酒に……小銭。
おや。
これは手紙?
[将来の友人へ
このたび私達が帝都を陥落させたという噂はすでにご存知のはず。
その噂はあえて言いますと事実です。私達が帝国を掌握済みです。
そこで私共で再調査したところ、貴方様方が帝国の民だと言うことを確認できましたので、新帝国として全力で助力させてもらいます。
つきましては、新帝国に忠誠を誓う場合ひとつだけ行って欲しいことがあります。
こちらの用意する力を用い以下の者を排除してもらいたいのです。
ローズオーラ、オウカ、ゴウ、ダン 詳細は別紙で
また読み終えましたら燃やして廃棄していただくようお願い申し上げます。
カエリラス]
なーるほどね。
別紙はないので何が書かれていたかはたまたどんな甘い囁きが載っていたかはわからないが見事にこの手紙は残っている。
燃やさなかったのは集落の長が最終的にまで保身に走った結果常に保険で持っていたかったのだろう。
もしものときはコレを持ってウォンレイ王あたりに泣きつけば確かになんとかしてもらえそうだ。
結果的に裏目によく出たが。
そして私の名前がばっちり載っている……だからフルで名前を言ってきたわけか。
そしてこれはウォンレイ王の元に届いたものとはかなり違う。
かなりこちらに寄り添ったようにも受け取れる文面。
少なくとも挑発はしていない。
相手を選んで懐柔したり脅迫したり挑発したりと変えているわけか。
まるで汎用的な文面に見えてその実は各々細かく変えてあると。
不平等な内容を一斉に各地に渡す目的は……動乱か。
ぶっちゃけ魔王復活のためには国が荒れて荒れまくった方がいいのだろう。
それに身内で潰しあえば矛先がなかなかこちらに向かない。
ウォンレイ王たちが危惧していた『道を塞ぐ岩』のひとつでもある。
ここらへんはデータとして集めておいたほうが良いなあ。
手紙は没収して……と。
これはなんだろう?
「い、し……か? これ」
「宝石? とはちょっと違うか」
「掘っててもこんなにキレイな石は見たことないなー」
それは宝玉と言うにふさわしい1つの球。
何がすごいかってあくまでニンゲンの手の中に収まるだろう小ぶりさなのに内部が透け見えて謎の紋様が刻まれている。
前世の世界だとレーザー加工でクリスタルの内部に彫刻ほったりしていたがこれは……
しかも魔力跡がかなり強く残っている。
そう。今はすっからかんだ。
魔法記述だろうけれどちょっと理解外の分野だ。
ただ似たようなものならさきほど見た。
村人や衛兵たちが持っていた10を越える小さな宝玉。
集落の長が持つものより小さいし質は悪くなるがこれらの数やおなじような特徴を考えると……
「プライドたちを呼び出す触媒、あたりかな、やっぱり」
「やつらも似たようなことは言ってたな」
「言ってたんならそうなのじゃないの?」
「ビビってとっさに嘘をついた、さらなる隠し玉の可能性、諸々在るから疑い2割程度はあったよ」
さらなる隠し玉だったのなら既に切る時は遅すぎる。
というわけで没収。
他にももろもろあるが気になったのはこれらぐらいかな。
さて……ここからが問題だ。
「悪魔はまだ憑いたままなんだよなあ……」
「そうなのか? そんな風には見えないが……」
「だから、困ったなあって」
悪魔の目が可視化されているのなら今の内に切り落とせば良い。
だが実際には見当たらない。
うまく隠れている。
仕方ない。一度起こそう。
ただし補助魔法で強化と対悪魔力を身に着けてから……
「起きろー」
「う……ん……私は……ハッ!? そうだ戦いは!? 召喚獣は?」
集落の長がやっと起きてくれた。
そして起きて1番に飛び込んでくるのは私達なわけで……
「あっ……うぐぅ……」
「おおい! 気絶するな!! 起きろ頼むから!!」
きっ気絶しかけている……