四百五十三生目 岩竜
「みーんなグルってわけか……」
「貴様らが、も、もはや重傷なのはわかっている!」
ジワジワと衛兵たちが取り囲む。
イタ吉がジト目で周囲を一瞥した。
確かに重傷でやり合いたくはないが……
「あの黒い結界はなに?」
「……内部からも外部からも何も通さない、俺達ですら解除すらできない結界だ」
「今頃中では放たれた猛獣たちによって痛めつけられているはずだ……」
軽く殺気で脅しかけたらおどおどしつつ話してくれた。
かなり困った状況はまだ続いているらしい。
もう少し時間稼ぎしないと。
「こっからでも俺らには勝てねえぜ」
「俺らには、後がない。引くわけにはいかん!」
「つまりおとなしくはしていてくれないと」
「死など恐れない、だが先に死ぬのは貴様らだ……!」
遠くから銃でも狙ってきているな。
私達の目の前まで衛兵たちが迫ってきた。
良く研がれた鋼がきらりと光る。
今だ! 地魔法"クエイク"!
私が魔法発動したのをきっかけに斬りかかろうとしてきて……
私中心に一気に広範囲で地面が揺れる!
「ぐあっ!?」
「おおっ!? ローズ?」
「大丈夫、イタ吉は対象から外してある!」
魔法の地震は地面にいる者に光が私中心に広がるごとにふっとばすほどの揺れを与える。
強化してイタ吉は効果対象外にし"峰打ち"のスキルもつけてある。
兵たちは一斉に無残に吹き飛び生命力ギリギリまで吹き飛ばされる。
「うわあああ!! 神の怒りだああ!」
「ぎゃあああああ!!」
さらに元々耐震性が薄い土製の家たちが無残に崩壊していく。
ほとんど使わない魔法だけれど本当に威力が恐ろしい。
だが黒結界はビクともしないか。
「やっとおさまった……」
「うっ……う……」
周囲は一気に地獄絵図のようになった。
衛兵も村人たちもみな地面に転がり無事な建物はない。
どっちが襲撃者かわからないなこれ。
……うん?
地震の影響で山の上にゴロゴロとしていた岩が転げ落ちてきている。
大半は問題がなさそ――
「あっ」
「ん? ……おお!?」
鎮座していた中でも飾り付けまでされている神を祀る大岩。
球体のそれもついに耐えきれずに坂の上から転がった。
しかも加速が止まらず。
「あー」
「た、退避!!」
衛兵たちが地面を這いつつ必死に逃げていく。
まっすぐ向かっていくのは……黒結界の方。
たまたま直線状にあっただけだ。
ただ黒結界はたとえ大岩でも砕けはしないとは思う。
ダカシたちも割れていないし私の"クエイク"でもビクともしなかった。
だからなぁ――
「ん」
「え?」
ガツン!
今までビクともしなかった黒い結界にぶつかった大岩。
だが急速にヒビが入ったのは黒い結界だった。
パリーン!! ガラスが派手に砕けたような音と共に黒い結晶は粉々。
そのまま宙に散るかと思いきやあの大岩に吸い込まれていった。
大岩が魔力を持ち飾られ彩られた紋様が輝く。
「え、ええ……」
誰かがその言葉をつぶやいた。
明らかに信じられないことが起きたもんなあ。
大岩の転がりはとりあえず止まった。
そして……
「あ、ダカシ! ジャグナー!」
「おう! こっちは大丈夫だ、そっちはあんまり良くなさそうだな!」
「もはや、俺の敵じゃなかったな、こいつら程度」
ジャグナーやダカシも傷は負っているが平易そう。
そして周囲に散らばる魔物のような淡い光たち。
プライドよりかは明らかに弱いが数がたくさん……10は越える程度いたらしい召喚獣たちだが。
もはや光の粒子となって消え去るさなかだった。
「嘘だろう……」
衛兵のひとりがそうつぶやき傷と泥だらけのまま転げるように走り出す。
それを見た他のニンゲンたちも這う這うのていで逃げ出した。
ニンゲンによっては武具を投げ出して少しでも早く走ろうとしている。
ただ野生の魔物がいるからさすがにそれは危険だろうなあ……
というわけで。
「イタ吉、みんな、ニンゲンたち集めて。治すから」
「えー、いいんじゃないのか?」
「敗戦兵を、捕虜に取るのは戦の常だ。食糧にもなるしな!」
「いや怖いこと言うなよ」
イタ吉がぶつくさいいながら私の"ヒーリング"を受けて脚の調子を確認。
ジャグナーにダカシがツッコミ。
私含めて各自が風のように動き出した。
脅したりわけがわからない間に運んだり気を失わせて1箇所に集め"ヒーリング"と"無敵"を組み合わせてガンガン治し落ち着かせる。
改めて剣ゼロエネミーも亜空間から取り出して敵愾心も下げた。
ざっくりと聞き込みはしたが詳しいことは集落の長に聞きに行くことに。
ジャグナーとダカシにこの場は任せふたたび集落の長の元である坑道の迷宮へと向かった……