表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
459/2401

四百四十九生目 躍動

「な、なんでだ? 俺の方が速いはずなのに!」

「私の方が力もあるし頑丈……けど!」

「ああ、届かねえだろうな」


 地面へ降り立ったプライドは再び腕を組んで余裕の表情。

 イタ吉とプライドは傷だらけながらその余裕さはまるで天地。

 イタ吉は完全に息が上がっている。


「お前らの方が今の俺より多少スペックが良かろうと、数の差で劣ろうと、根本的な戦いのセンスの差には勝てねえよ!」

「よ、よし! 早く(たお)してしまってください!」


 もはや悲鳴に近い声で指示を飛ばす。

 集落の長行動力のこりは5割か。

 やはり武技くらいでは大きく減らない。


「残り2匹は後日だなこりゃ」

「うん!? 無事なの!?」

「さあ……そうだといいな!」


 激しく尾で打ち据えた時に小声で漏らした言葉。

 プライドの言うことが本当ならまだ無事とみるべきか。

 ただ連絡が今だとれないから油断はできない。


「かぁっ!」


 轟音と共にプライドの全身から衝撃波!

 イタ吉と共に無理矢理押し戻される。

 1番効果時間が短い火魔法"フレイムエンチャント"が残り1分で切れる。


 それとイタ吉が体力と生命力とともに限度が近い。

 全身の毛皮が刻まれて血で染まっている。

 治してやりたいが魔法はやはり形になることがない。


 いいかげん決めないと。

 向こうの余裕切れを待っている場合じゃない。


「イタ吉、カバーを――」

「おい召喚者! もうお前のエネルギーに余裕がない! アレを命じろ!!」

「なっ!? アレはしない約束だったじゃないか!」


 なっなんだ!?

 まさかまだ奥の手があるのか!?

 身構えイタ吉に目線で指示を出す。


 イタ吉は頷き後ろへ少し下がった。

 カバーに入れる態勢だ。


「どうせ1回じゃあもう決められねえ!  地下のこいつらだけでも確実に落とす! だからお前の全てを俺に寄越せぇ!!」

「くうう、死にたくない、死にたぐない!! ああああああぁ……や、やってくれ!! バーサーカーモード!」


 私の滑り込むように低い姿勢からの後ろ足蹴りを受けるプライド。

 姿勢負けして浮くがそれすら計算に入れて受けたのか姿勢をぐるりと動かし片手で逆立ちしそのままバク転。

 集落の長の目の前へ立つ。


「何をする気だ!」

「ハッハッハァッ!! 安心しろ! これが最後だ! そして、お前らに絶対的な差を見せつけてやる」


 プライドの既に大きかった気配がさらに膨れあがる。

 かわりに集落の長は行動力が一気に減りもはやガス欠寸前。

 立っていることも辛いのか座り込んでしまった。


「おおおおおおおおおおおおおぉ!!」

「うっ!?」「くっ!?」


 洞窟内に響く絶叫。

 耳鳴りがするほど叫びながらプライドの身体が変化していく。

 緑に淡く輝いていた毛皮が赤と黒に光がかぶさるように変化。


 さらにもともと立派だった大胸筋が膨れ上がり足腰も負けじと筋骨隆々をこえてもはやグロテスクなほどにでかくなっていった。

 尾まで1本の大きな筋肉という鞭に成り果てたところでやっと変化が止まる。

 黒く染まった瞳の中心……つまり虹彩と瞳孔だけが元の金色で輝き正気を物語っていた。


「はああ……!! 良い、感情が身体を駆け巡っているようだ! 召喚された小さな器とは言えだいぶキテるぜ!!」


 ほとばしる赤黒い(エフェクト)

 これは。まずい。

 勝てないやつだ。


 脳の奥で警鐘が鳴り響く。

 ただの一般人が山で熊に出会った時のような。

 言いようのない生存本能。


 イタ吉おなじようで血の気が引いて腰もかなり引けている。

 イタ吉の場合即死ダメージをもらう可能性すらある!


「走れえぇ!!」

「うわあおおおおぉ!!?」


 こうなったら時間切れを狙うしかない。

 実力を見るまでもない。

 熊に頭を刎ねられるまで死ぬかどうかわからないやつはそういない。


「獣の子共よ! このような形とは良い俺の力の一端を、味わえるんだからな!! 俺こそが『傲慢』!! 名をプライド! その身に余る存在を魂に刻み散れ!!」


 遥か後方。

 いやもはや何度も角を曲がったのに轟く声。

 そして次の時には足音が多重にまるでほぼ同時に聴こえた。


 "鷹目"で見えてしまった。

 まるで漆黒の光。

 壁と床を飛び跳ね反射のように向かうその姿を。


 私のホエハリからの目は動くものほどよく捉える。

 そして追いつけないほどに速い動きは……

 見惚れるような芸術作品みたいに見えてしまう。


 視えてしまう。見えてしまった。

 圧倒的躍動感で私の背に腕を伸ばすプライドの姿が。

 残酷な美しい輝きを(エフェクト)で纏うその爪が。


「らあっ!!」

「ちっ」


 だから見た。

 とっさに私ごとかばうようにイタ吉が飛び出したのを。

 尾の大きな刃を盾にしたら爪が刃を穿ち貫き砕いてやっと停止した時を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ