四百四十六生目 宣言
「イタ吉、大丈夫?」
「くっ、つつつ。ああ、まだやれる」
唇を切ったみたいで血が垂れているが拭えばおさまる。
状況は最悪だ。
召喚された神様ことプライドは強力。
召喚者である集落の長は私達をハメてここまで追い詰めている。
本人はあまり強くないがプライドに守られてなかなか手が出せない。
集落の長がガッツリエネルギー減ったむねを話していたから"観察"したら2本あるうちの1本目のゲージが半分以上消し飛んでいた。
あの叫びは最大4発。
他のワザでの消費を考えたら2から3発撃てれば十分か。
ただそれだけあればこっちを仕留めるのはおつりがきそう。
「おい、奴らの動きを封じるアレを命じろ」
「なっ! これ以上ガンガン使う気なのか!?」
「こいつら短距離ワープで逃げたんだ。あの音や魔力は間違いない。それに……一瞬だけそこの青い方からかなりの強い気配を感じた。巧妙に偽装してやがったか。出し惜しみしてたらお前が死ぬぜ」
集落の長はタジタジになってうなっている。
そう言われても必要性が理解が出来ず行動力の無駄打ちで勝ち筋が消えるのがイヤなんだろう。
と言うかまだ奥の手があるの?
「だが……」
「だがもしかしもねえ。今でもアイツは補助魔法をかけつづけて自力上げていやがる。補助ぶんまわしするやつは止めねえと手がつけられなくなる。それと結局魔法で避けられるのなら大技の意味がない」
「ぐう……貴重なエネルギーだ。きっちり封じろ!」
マズイ。何かくる。
イタ吉と目線で合図して相手へ同時に駆けていく。
行動力が注ぎ込まれてゆきその準備中に私達の前に躍り出る。
「おとなしくしてな!」
「ぐうっ!」
早い!
命じられていない行動力を消費しないただの動きで私達2人の攻撃を身体で受け流している!
狭いから背後にいる集落の長を直接狙えない。
(なんとかできないか!?)
空魔法"ストレージ"で亜空間から剣ゼロエネミーを取り出す!
そのまま空魔法"フィクゼイション"を唱える!
「おらおららららら!!」
「もっと打ち込んでこい!」
激しい殴り合いをイタ吉がメインで行っている間に魔法完成!
"フィクゼイション"により念力のように剣を掴んで相手に斬りかからせ……
「剣か! だが――」
――るように見せかけて変化!
蛇腹上に伸びた剣がプライドを越える。
行動力を行使した高いポテンシャルの動きと威力ならば抑えられたかもしれないが……これで!
「ひいっ!」
「――何!? だが間に合った! 発動!」
集落の長の悲鳴とプライドの叫びが重なった瞬間。
ズンという重い感覚と共に剣ゼロエネミーは地面へと落ちていった。
「え……!?」
「ふう。なかなか良いスパーリングだった! だがここまでだ」
集落の長の元へ後ろ跳びで帰るプライド。
何があったかわからないが……
"フィクゼイション"が消えた……!?
「な、なあ、何があったんだ?」
「気づいたようだな青いの。宣言する! 俺の特殊能力発動! この場での魔法は敵味方問わず一切禁ずる!」
「あ、危なかった……」
集落の長がへたりこむ。
腕を組むプライドの宣言は嘘じゃないらしい。
"ヒーリング"ひとつすら魔法が形にならない……!
この危険さをイタ吉も理解できたらしく私の方を見てきた。
肯定するとかなり困った顔をされた。
「マズイだろ、それは……」
「例外として俺の召喚契約や既にかかっている補助魔法は効果として残り続ける。だが新たに唱えるのは無理だな」
剣ゼロエネミーが既に蛇腹モードじゃなく通常になっていた。
魔力が供給されないからだ。
プライドが拾い上げこちらに投げ飛ばされる。
地面に転がり音を鳴らすこの剣がこれほどまでに頼りなく思えたのは初めてだ。
イタ吉が拾い上げ構えになっていない構えをする。
せめてもの火力をということだろうが今のそれでは厳しい。
集落の長とプライドがこちらに近づくたびにじりじりと後退せざるをえない。
他のスキルをフル活用すればなんとか戦えるかもしれない。
けれど今冷静に戦闘の構築しなおすほどの猶予が与えられていなかった。
それに……回復できないというリカバリーの利かなさが心から余裕を奪っている。
「さあ、もっと楽しませてくれよ!」
「か、壁か」
いつの間にか袋小路の方に来てしまっていた。
袋小路から抜け出すためにはわずか1mか2mか前に進むだけだ。
それが許されるような状況ではないのが厳しい。
「いけ! 爪で連続で切り裂け!」
「うぉりゃ!!」
大腕を振りバッテンに斬り裂く避け用のない軌道で光が飛来してくる。
ついに背中に壁がコツンとあたった。
ぐるり。
「え」「は」「ん?」
壁が回転した……?
すばやく回った壁は私達を壁の向こう側へ。
かわりに壁が爪から飛んでくる軌跡の刃で切り刻まれる。
「う」「わ」「へ?」
間の抜けた集落の長の声が聴こえた。